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第3話 屈辱の夜

 婚約が決まったその夜、ジュリアは家族の開いた婚約発表のパーティーに出席していた。広い宴会場には高位の貴族たちが集い、煌びやかな装飾と高級なワインが場を彩っている。しかし、その華やかさはジュリアの心に何の慰めも与えなかった。


父が壇上で婚約を正式に発表すると、会場からは拍手が巻き起こった。ジュリアはその場で立ち上がり、礼儀正しく一礼する。隣に立つアルフレッドは相変わらず無表情で、拍手を浴びることにも何の感情も示さなかった。


「これで我が家はさらに強固な地位を築くことになる。良い選択をしたぞ、ジュリア。」

父は満足そうに微笑みながら言った。ジュリアはそれに対し、ただ静かに「ありがとうございます」と答えるしかなかった。


屈辱の瞬間


パーティーが進行する中、ジュリアはアルフレッドとともに貴族たちの輪の中で立ち話に加わっていた。彼女は笑顔を張り付けたまま、内心ではこの場から逃げ出したい衝動を抑え込んでいた。


「ジュリア様はお美しいだけでなく、聡明だと伺っています。」

ある伯爵夫人が声をかけてきた。その言葉に対し、ジュリアは控えめに微笑み、「過分なお言葉をありがとうございます」と答えた。しかしその瞬間、アルフレッドが静かに口を開いた。


「確かに、ジュリアは美しい。それだけで十分ではありませんか?」

彼の言葉は会話の流れを断ち切り、場に微妙な空気を生んだ。伯爵夫人は困惑した表情を浮かべ、軽く笑って誤魔化したが、ジュリアはその場で固まってしまった。


「……どういう意味でしょうか?」

ジュリアは冷静を装いながら、アルフレッドに問いかけた。だが彼は、彼女の目を見ずにグラスのワインを揺らしながら答えた。


「深い意味はありません。ただ、あなたにはそれ以上の期待をしないということです。」

その声には冷たさしか感じられなかった。


ジュリアはその瞬間、自分が人形のように扱われていることを改めて痛感した。彼にとって彼女は、ただ見た目を飾る存在でしかない。愛も尊敬も存在しないこの婚約に、彼女は心底失望した。


動き始める決意


パーティーが終わりに近づくと、ジュリアはようやく一人になれる時間を得た。庭園の片隅に出て、冷たい夜風に当たりながら深呼吸を繰り返す。美しい夜空が広がっているが、ジュリアの心は暗く沈んでいた。


「ジュリア様?」

静かな声が背後から聞こえた。振り返ると、幼なじみのレオナルドが立っていた。彼は幼い頃からジュリアにとって唯一心を許せる友人だった。


「レオナルド……あなたも来ていたのね。」

ジュリアは弱々しい笑顔を浮かべたが、彼はその表情にすぐ気づいた。


「君の婚約が決まったと聞いて駆けつけた。だが、その顔を見る限り、祝福すべきことではないのだろう?」

彼の優しい問いかけに、ジュリアは感情を抑えきれず、静かに涙を流した。


「私は……ただの飾り物よ。」

ジュリアはアルフレッドの冷酷な言葉を思い出しながら呟いた。レオナルドは驚いたように彼女を見つめ、その肩にそっと手を置いた。


「君がそんな扱いを受けるべきではないことは、僕が一番知っている。」

その言葉に、ジュリアの胸に小さな光が灯る。レオナルドの存在が、彼女にとって唯一の救いだった。


「ありがとう、レオナルド。でも、私はまだ諦めるつもりはないの。」

ジュリアは涙を拭い、瞳に新たな決意を宿した。


「どうするつもりだい?」

レオナルドが問いかけると、ジュリアは静かに微笑んだ。


「私はこの結婚を利用する。そして、必ず自分の人生を取り戻すわ。」


冷たい夜風に揺れる彼女のドレスが、まるで純白の檻から飛び立とうとする鳥のように見えた。その姿を見たレオナルドは、彼女の決意の強さを感じ取り、密かに彼女を助けることを心に誓った。



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この瞬間、ジュリアの中で一つの計画が生まれた。アルフレッドの冷酷さに屈するのではなく、彼の態度を逆手に取って自らの力を示す。そして、ただの「飾り物」ではない自分自身の価値を証明するために。ジュリアは新たな第一歩を踏み出そうとしていた。



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