結婚式は豪華絢爛に行われた。会場には高位貴族や社交界の名士たちが集まり、誰もが新たな夫婦を祝福するかのような笑顔を見せていた。しかし、その華やかさとは裏腹に、ジュリアの心は冷たい不安に覆われていた。隣に立つアルフレッドの無表情は、彼女に何も期待するなと言わんばかりの冷たさを感じさせた。
「美しい妻を得て幸運だな。」
ある貴族がアルフレッドに声をかけたが、彼は薄い微笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。その場を取り繕うために、ジュリアは笑顔を浮かべ、「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。これが彼女の役割であり、今後の生活の象徴だと悟った瞬間だった。
冷たい夫婦生活の始まり
結婚後、ジュリアはアルフレッドの広大な屋敷に移り住んだ。公爵家としての威厳を誇るその屋敷は豪華そのもので、彼女に与えられた部屋も贅を尽くしたものだった。しかし、その華やかさが、かえって彼女の孤独を際立たせる。
新婚生活が始まったとは名ばかりで、アルフレッドは仕事にかこつけてほとんど屋敷に帰らない。帰ってきたとしても、彼はジュリアと顔を合わせようとせず、冷たい態度を貫いた。食事の席でも彼は彼女に一言も話しかけず、事務的なやり取り以外は完全に無視する日々が続いた。
「これが私の結婚生活なのね……」
ジュリアは広い寝室で一人つぶやいた。彼女の周りにいるのは無表情な侍女たちだけで、夫婦としての温かさや交流は一切なかった。
飾り物としての存在
それでも、アルフレッドが彼女を必要とする場面がまったくないわけではなかった。それは社交界での行事や舞踏会だった。彼はジュリアを連れ出し、まるで美しい装飾品を見せびらかすかのように振る舞った。
舞踏会では、アルフレッドは笑顔で他の貴族たちと会話を楽しんでいたが、ジュリアに対しては挨拶すらしない。彼女が隣にいるのは、ただ彼の社会的地位を引き立てるためであり、それ以上の価値はないとでも言うようだった。
「美しい奥様をお持ちですね。」
誰かがアルフレッドに声をかけるたび、彼は薄い笑みを浮かべるだけで、「ええ、彼女は確かに優れた装飾品です」と皮肉のこもった言葉を返す。周囲は笑いながらその場を流したが、ジュリアはその言葉に胸を締めつけられる思いだった。
「私はただの飾り物……?」
彼の言葉が彼女の心に深く突き刺さり、自分がこの結婚においてまったく必要とされていないことを再認識させられた。
孤独な日々
屋敷での日常は、ジュリアにとって耐え難いものだった。アルフレッドがいない間、彼女は何もすることがないまま時間を持て余していた。屋敷には使用人たちがたくさんいたが、彼らは彼女に対して敬意を持ちつつも、どこか距離を置いているようだった。それもそのはず、アルフレッドが彼女を重要視していないことは、使用人たちにも伝わっていたからだ。
彼女は一人で庭園を散策することが日課となった。美しい花々が咲き誇る庭園は、唯一の心の拠り所だった。しかし、それもまた孤独を際立たせる場所でしかなかった。
「この結婚には何の意味があるの……?」
花を見つめながら、ジュリアは小さく呟いた。自分がここにいる理由がわからず、ただ家同士の利益のためだけに結婚させられた現実を改めて思い知らされる。
耐える日々
孤独と冷淡な扱いに耐える日々の中で、ジュリアは少しずつ自分の感情を押し殺すことに慣れていった。それは、自分を守るための手段でもあった。彼女は常に笑顔を貼り付け、心の内を誰にも見せないようにした。
「アルフレッド様は、今日もお戻りにはならないそうです。」
侍女が報告するたび、ジュリアは平静を装って「わかりました」と答える。しかし、心の奥では虚しさが広がるばかりだった。
ジュリアは孤独の中で、これが自分の運命なのだと諦めようとした。しかし、その諦めは彼女の心を蝕むだけだった。
小さな希望の種
ある日、ジュリアはふとレオナルドの顔を思い出した。結婚前、彼がかけてくれた優しい言葉や、彼の誠実な眼差しが、彼女の胸に微かな温もりをもたらした。
「君には君自身の幸せを見つける権利がある。」
その言葉が頭の中で繰り返され、ジュリアの心に小さな希望の種を植え付けた。その希望はまだ目に見えないほど小さかったが、彼女がこの孤独な生活を抜け出すきっかけとなるかもしれない。
ジュリアは静かに決意した。たとえどれだけ時間がかかっても、自分の人生を取り戻すために一歩を踏み出そうと。彼女の胸の中には、わずかながらも強い意志が芽生え始めていた。