ここがあの有名な冒険者ギルドか、前世でよく漫画やアニメになっていたのを知ってるぞ。異世界に転生したら冒険者ギルドに行って冒険者になるのが定番だ。
ジャガイモ牧場でも、町の近くに現れたモンスターを退治しにきた冒険者と何度か会ったことがある。まさか自分がその立場になるとは、思いもよらなかった。
しかし、今の俺はここしか頼れる場所がない。むしろ冒険者ギルドの存在を知っていたから家出を決意したんだ。十歳の家出少年を雇ってくれるところなんて他に思いつかないし、知らなかったら今ごろ泣きながらトマトを狩っていただろう。
よし、入るぞ。
「すいませーん!」
木の扉を引き開け、声をかけながら中を覗く。室内は想像していた通りに酒場のような場所だ。正面に見えるカウンターには、シワのない白シャツを着た大人の女性がいる。印象としては、前世でよく行った役所の窓口にいる人のようだ。
「あら、どうしたの坊や。君にお酒はまだ早いぞ」
朝なので酒場の客は見当たらない。暇だからか、からかうように笑いかけてくるお姉さんに、少し緊張する。こんな子供が冒険者なんて、おかしいよな?
「あの、冒険者になりたいんですけど!」
カウンターまで近づき、意を決して用件を伝えた。拒否されたらどうしよう、もう俺には行くあてもない。そんな気持ちを込めて、お姉さんを見つめた。
「……ふふふ、君は勘違いしてるようね」
やっぱりだめなのか?
「雑用でも、モンスター退治でも、何でもやります! だから……」
食い下がる俺を、カウンターのお姉さんは手を上げて制止した。そして言葉を続ける。
「そうじゃなくて、冒険者というのは『なる』ものじゃないのよ。ここでは冒険者への依頼を扱っている。それを引き受けたら、誰だって冒険者よ」
そう言って、お姉さんは獣皮紙を何枚か取り出した。試験とかあるのかと思っていたから、これは嬉しい誤算だ。俺は喜び勇んで彼女の取り出した紙に手を伸ばした。
「慌てないの。いくつか依頼を読み上げるから、君にも出来そうな仕事を選んでちょうだい。まず一つ目は、トマト狩り」
「却下!!」
またトマトかよ! なんでここにもトマトがいるんだよ、そんなのトマトハンターに任せとけよ!
「そう? 手頃な依頼なのに。じゃあ……」
するとお姉さんは二枚目の紙に視線を落とし、ニヤリと笑った。