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第10話 真実を暴く者



王都での陰謀が動き始める中、リラの無実を信じる一人の男が密かに行動を起こしていた。旅人として各地を巡っていたセリウスだ。彼はリラの隣村での活躍を間近で見てきたことで、彼女が追放された理由に強い疑念を抱いていた。特に、追放の背後にある真実を知る必要があると感じ、王都へと向かう決意を固めた。



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セリウスの調査開始


王都に到着したセリウスは、まずリラが追放された経緯について調べるために、王宮に近い商業地区や社交界に顔を出した。彼はその容姿と穏やかな物腰から人々の信頼を得やすく、貴族たちから噂話を引き出すのは難しくなかった。


「リラ・エトワール嬢? あの方が王太子殿下に泥棒の濡れ衣を着せられて追放されたのは、確かに奇妙でしたね。評判の良い方でしたから……」


「ヴィヴィアン公爵令嬢が何か仕組んだのでは、という話も聞きますよ。まあ、公にはできませんが。」


セリウスはその言葉を胸に刻みつつ、次に目指したのは王宮に仕える下級の役人たちだった。彼らの中には、王太子の側近でありながらも、アルトールやヴィヴィアンに対する不満を抱えている者もいた。


「王宮の宝物が盗まれたという話も怪しいんだよ。実際には何も盗まれていなかったって噂もあるんだが、それを証明する証拠は隠されているらしい。」


セリウスは、この証拠が真実を暴く鍵になると確信し、さらに詳しい情報を集め始めた。



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ヴィヴィアンの影響力


調査を進める中で、セリウスはヴィヴィアン公爵令嬢の影響力の大きさに直面する。彼女は、アルトール王太子の婚約者としてだけでなく、自身の家柄と財力を駆使して、宮廷内での地位を盤石なものにしていた。


「ヴィヴィアン様の敵に回る者は、社会的に抹殺されると言われている。リラ嬢も、その犠牲になったのだろう。」


そう語るのは、かつて宮廷で仕えていた老執事だった。彼はセリウスに、一つの重要な情報をもたらした。


「リラ嬢が濡れ衣を着せられた事件の際、宝物庫の管理をしていたのはヴィヴィアン公爵家の従者でした。その従者が、ある夜突然姿を消したのです。」


この証言を聞いたセリウスは、その従者こそが真実を知る重要人物であると考え、彼の行方を探し始めた。



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真実を握る従者との遭遇


徹底的な調査の末、セリウスはその従者が王都の外れに隠れ住んでいるという情報を掴んだ。彼は早速その場所へ向かい、慎重に接触を試みた。


「あなたが、かつて宝物庫を管理していたヴィヴィアン公爵家の従者ですね。」

セリウスの問いかけに、年老いた従者は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目を伏せた。


「……私はもう何も話したくない。この身に降りかかる危険は避けたいのだ。」


しかし、セリウスは静かに説得を続けた。

「あなたが真実を話さなければ、無実の人が罪を背負い続けることになります。リラ・エトワール嬢のことを考えてください。」


リラの名を聞いた従者は、しばらくの沈黙の後、重い口を開いた。

「リラ嬢は何もしていなかった。あの事件は、ヴィヴィアン様が仕組んだものだ。宝物が盗まれたという話も、すべて嘘だった。」


従者の証言は、セリウスが求めていた真実そのものだった。ヴィヴィアンがリラを追放するために宝物庫の事件をでっち上げ、その責任をリラに押し付けたという事実が明らかになった。



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真実を手にする


セリウスは従者の証言を記録し、これを確かな証拠として用意した。しかし、これをそのまま王都で公表するのは危険だった。ヴィヴィアンの影響力を考えれば、セリウス自身の安全も危ぶまれる。そこで彼は、慎重に計画を立てた。


「この証拠を使って、リラの名誉を回復させるために動こう。だが、まずはリラ自身にこれを伝えるべきだ。」


セリウスはすぐにリラがいる村に戻る決意をした。その胸には、リラの無実を証明するための新たな決意が宿っていた。



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リラへの報告


数日後、セリウスはリラのもとを訪れ、真実を伝えた。彼女はその話を聞き、目を大きく見開いた。


「本当ですか……私が無実だった証拠が……?」


セリウスは静かに頷き、従者の証言をリラに見せた。彼女はそれを震える手で受け取り、じっと見つめた後、涙を流した。


「ありがとうございます、セリウスさん……これで、私の心の重荷が少し軽くなった気がします。」


彼女の瞳には、安堵と希望の光が宿っていた。しかし同時に、ヴィヴィアンやアルトールの陰謀にどう立ち向かうかという新たな課題が彼女の前に立ちはだかっていた。



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決意と未来


その夜、リラは星空を見上げながら、静かに自分に誓いを立てた。

「私の無実が証明されたなら、それを隠すつもりはありません。過去に負けるのではなく、この真実を力にして、未来を切り開いていく。」


彼女の心には、強い決意と新たな希望が宿っていた。その背中を見守るセリウスの瞳にも、確かな信頼が光っていた。





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