リラの無実を証明するための証拠が揃い、セリウスとリラは次の一手を考え始めていた。しかしその矢先、リラのもとに思いもよらぬ知らせが届く。王都からの使者が彼女を訪ねてきたのだ。これが、リラにとって新たな試練の始まりとなった。
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王都からの来訪者
その日、薬草店で働いていたリラに、店主ガイドンが慌ただしく声をかけた。
「リラ、お前を訪ねて来た人がいる。なんでも、王都からの使者だそうだ。」
「王都……?」
リラは驚きと警戒の入り混じった表情を浮かべた。追放されてから王都とは無縁だったはずなのに、なぜ今になって使者が訪ねてくるのか。心を落ち着けようと深呼吸をし、店の外に出ると、そこには立派な馬車と王宮の紋章をつけた従者が待っていた。
「リラ・エトワール嬢、王都から参りました。王宮にお越しいただきたいとのことです。」
従者の声は丁寧だったが、その言葉には強制力を感じさせるものがあった。
「王宮に? なぜ私が……」
リラが問い返すと、従者は答えを濁すように言った。
「詳しい事情は、王宮で説明させていただきます。ただ、貴女の名声が王都でも広まっており、その才能をお借りしたいとのことです。」
その言葉に、リラは困惑を隠せなかった。才能を借りたい? 自分を追放した王宮が今さら何を望んでいるのか。背後に何か陰謀があるのではないかという疑念が膨らんだ。
「申し訳ありませんが、今すぐに返事をすることはできません。少し時間をいただけますか?」
リラは冷静に答えたが、従者は僅かに眉をひそめた。
「猶予は差し上げますが、あまりお待たせすることはできません。殿下の命令ですので。」
従者が立ち去った後、リラは深い溜息をついた。自分が王宮に呼び戻される理由が分からないまま、不安が胸を締め付けた。
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セリウスとの相談
その夜、リラはセリウスに相談を持ちかけた。セリウスは、従者の言葉を聞いた途端に険しい表情を見せた。
「王宮が君を呼び戻すなんて、妙な話だ。何か裏があるのは間違いない。」
リラも頷いた。
「私の無実を証明する証拠があるとはいえ、まだそれを公にする準備が整っていません。それなのに王宮に行けば、また何か罠にかけられるかもしれません。」
セリウスはしばらく考え込んだ後、静かに口を開いた。
「もし君が王宮に行くなら、この証拠を持っていくべきだ。そして、君を助けるために動ける信頼できる人物を見つけておく必要がある。」
リラはその言葉に少しだけ安心した。セリウスが自分を信じ、助けるために全力を尽くしてくれることが、彼女にとって大きな支えになっていた。
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村人たちの反応
翌日、リラが村人たちに王都に呼ばれたことを伝えると、彼らは一様に不安そうな顔を見せた。
「リラさん、またあの王都で何かひどい目に遭うんじゃないですか?」
「ここでの生活が幸せなら、無理して行かなくてもいいんですよ。」
村人たちはリラを心配し、彼女を引き止めようとした。しかし、リラは彼らに優しい笑顔を向けながら言った。
「ありがとうございます。でも、私が無実を証明するためには、この機会を逃してはいけない気がするんです。」
その言葉に村人たちは黙り込んだが、やがて一人が口を開いた。
「リラさんが行くなら、私たちはいつでも応援します。王都で困ったことがあれば、すぐに戻ってきてくださいね。」
その言葉に、リラの胸は温かさで満たされた。自分がこの村で得た信頼と絆が、彼女の背中を押してくれたのだ。
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王宮への出発
数日後、リラは王都への出発を決意した。セリウスが同行することを申し出てくれたため、彼女は少しだけ安心感を覚えていた。馬車に乗り込む前、ガイドンが彼女に言った。
「お前がどんな選択をしても、ここはいつでもお前の帰る場所だ。無理はするなよ。」
その言葉に、リラは深く頷いた。
「ありがとうございます。私は必ず、自分の足で未来を切り開いてみせます。」
馬車が動き出し、村を離れるリラは、窓から見える村の景色を見つめながら心の中で誓った。
「この旅がどんな結果になっても、私は過去に縛られず、未来を選び取るために進む。」
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王都への帰還
数日かけて王都に到着したリラは、馬車を降り、かつて自分が住んでいた場所を目の当たりにした。かつては慣れ親しんでいた街並みが、今ではどこか冷たく感じられた。
王宮へと案内される途中、道行く人々の視線が彼女に注がれる。彼女を覚えている者もいれば、ただ「辺境からの評判の良い薬師」として見ている者もいた。
「王宮に入るのは、これが最後かもしれない……」
そう心の中で呟きながら、リラは一歩一歩、覚悟を決めて進んでいった。
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