王都に戻ったリラは、王宮に足を踏み入れると同時に、かつての記憶と痛みが蘇るのを感じた。広い廊下を進むたび、彼女の胸には不安と決意が入り混じった感情が渦巻いていた。
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王宮での対面
王宮に到着したリラは、案内役の従者に導かれ、王太子アルトールとヴィヴィアン公爵令嬢が待つ謁見の間に通された。豪奢な部屋に入ると、アルトールが玉座に座り、ヴィヴィアンが彼の隣に立っていた。その光景は、リラにかつての苦い記憶を思い起こさせた。
「久しぶりだな、リラ・エトワール。」
アルトールの声には一抹の冷たさが感じられた。彼はあたかもリラを試すような目で見下ろしている。
「このような場に私をお招きいただき、光栄です。」
リラは冷静さを保ちながら、毅然とした態度で答えた。彼女の表情からはかつての怯えた様子は消え去り、芯の強さが伺えた。
ヴィヴィアンが皮肉を込めた笑みを浮かべながら口を開いた。
「貴女の評判が王都でも耳に入っておりますわ。癒しの乙女などと呼ばれているとか。でも、それがどれほどのものかしらね。」
リラはその挑発に乗ることなく、淡々と答えた。
「私はただ、人々を助けるためにできることをしているだけです。評判や呼び名は関係ありません。」
その言葉に、アルトールの眉が僅かに動いた。かつてのリラとは明らかに違う彼女の姿に、一瞬動揺を覚えたようだった。
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要求される協力
アルトールはわざとらしく喉を鳴らし、話を切り出した。
「リラ、今回君を呼び戻したのは他でもない。王宮の周辺でも、熱病のような病が広がりつつある。君の薬草の知識と腕を借りたい。」
その言葉に、リラは内心驚きながらも、慎重に返答した。
「私を追放した身でありながら、今さら協力を求めるというのは、いささか矛盾しているのではないでしょうか?」
アルトールはその言葉に顔を曇らせたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「過去のことは水に流そうではないか。今は王国の危機を乗り越えるために協力が必要だ。」
その言葉の裏にある不誠実さを感じつつも、リラは黙ってアルトールの言葉を聞いた。
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ヴィヴィアンの陰謀
その後の謁見で、リラはさらに明らかな敵意を感じる瞬間があった。ヴィヴィアンがアルトールに向かって提案したのだ。
「殿下、リラ様が協力されるなら、王宮内で管理されるべきではありませんか? 例えば、城内の一室に滞在していただき、こちらで直接指示を出せるように。」
その提案に、リラは即座に違和感を覚えた。それは明らかに、彼女を監視下に置こうとする意図が含まれていた。
「その必要はありません。」
リラは毅然とした態度で答えた。
「私は独立した立場で行動し、必要な支援は提供させていただきます。しかし、監視されるような状況で働くつもりはありません。」
ヴィヴィアンは一瞬言葉に詰まり、冷たい視線をリラに向けたが、アルトールが手で制した。
「わかった。君の条件を尊重しよう。」
その言葉を聞いても、リラは彼の真意を完全に信用することはできなかった。
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セリウスの助言
謁見を終えたリラが王宮を出ようとすると、待っていたセリウスが彼女に駆け寄った。彼は謁見の間での様子を聞き、険しい顔を見せた。
「予想通り、君を利用しようと考えているだけだね。ヴィヴィアンも何か企んでいるのは明らかだ。」
リラは頷きながらも、疲れた表情を浮かべた。
「それでも、王国の人々を助けるためには、協力しないわけにはいかないわ。」
セリウスはしばらく考えた後、静かに言った。
「それなら、君が危険に巻き込まれないよう、僕がもっと動くよ。ヴィヴィアンの陰謀を暴く証拠をさらに集める。そして、君が安心して働ける状況を作るんだ。」
その言葉に、リラは感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「セリウスさんがいるおかげで、私は前に進むことができます。本当にありがとう。」
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新たな選択
夜、リラは宿泊先で一人静かに考えた。王宮に協力することで、自分の力が人々を助けることに繋がるのは確かだ。しかし、過去の陰謀を仕掛けた者たちが自分を再び利用しようとしていることを感じずにはいられなかった。
「私はもう、ただ従うだけの人形にはならない。」
そう心に誓い、彼女は新たな選択をする決意を固めた。
「私は私の方法で、人々を助ける。そして、真実を暴き、過去を乗り越える。」
その瞳には、決して折れることのない強い意志が宿っていた。リラの新たな選択が、彼女の未来を大きく動かしていくことになるのは、間違いなかった。
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