目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話 貴方に出会った


 あの時のあたしは子供で強がってばかりな我儘っ子だったのよね。まだ小学生だもの、仕方ないじゃない。環境だっていいとは言えない方だし。どうしてだろうね、あんだけ頑張って働いていた父。裕福なはずなのに、心は一人ぼっちだった。


 ――本当の幸せを知らないんだ。


 あたしは一人だった、ずっとずっと一人ぼっちだったの。人前で泣かないように頑張った。その代わり、一人になると泣き崩れた、そんな日常の繰り返し。


 「それでも貴方に出会った」


 目を瞑りながら、優しい匂いを思い出すとね、瞳から涙が毀れ落ちるの。


 あの時とは違う『温もり』に満ちた涙がね。


 『るい。君は一人じゃないよ。僕がいるから』


 「……うん」


 見えない影を追いかけながら、貴方に抱き着くあたしがいる。


 『るい。愛しているよ』


 温かい言霊は、心を縛り付け、あたしを大人にしていく傷跡をつけるの。


 まるで砂のように、消える貴方。



 ――待って、行かないで、なんて言えないよ。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?