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第7話 貴方さえいてくれれば


 産まれてきてくれてありがとう。私に向かいながら、両親らしき人物が温かい呟きを残しながら、私を置き去りにした。カランコロンと天空から綺麗な音と共に、私の大好きなおもちゃたちがくるくると、回っている。


 ――楽しい、楽しい。


 その光景に目を奪われる『赤ん坊』の私は、その他、何も見えていなかったの。『赤ん坊だから仕方ないじゃない』と言われても、納得できないのよ。


 だって、あの時、手を伸ばしたら、失う事なんてなかったのに、現在いまの私もきっと後悔なんてしなかったのに。


 親戚の家を転々としながらも、いつかは『両親』が迎えに来るなんて、甘い考え、いや夢物語を見ていた幼い心。すがりつきたい気持ちってあるじゃない?分かるかしら、私の気持ちなんて。


 学校に行くとね、私の机はいつもマジックで見たくない現実を見せつけてくるの。沢山の暴言が文章になっていて、沢山の色で落書きみたいに、いろどりを見せている。自分がされている事なのに、もう何とも思わなくなってきたんだ。


 これが『慣れ』なのかもしれないね。今では『綺麗な色の使い方するなぁ』とか関心してしまう位の余裕があるの。割り切っていると言えば簡単かもしれないけれど、そんな単純なレベルじゃないのに……ね。


 『ほらほら。皆、席につきなさい』


 担任はいつも通り、何事なにごともないように、日常を繰り返そうとしている。私の毎日の異変も、日にちが経つにつれて、当たり前になっていくんだなって悲しくもなるし、なんだろう、少しすっきりするのかもしれない。


 ――生きている人間を信じて、何になるの?


 私の心にひそむものは『陰』と『陽』の私の分身、そして気持ち。期待していたはずなのに、願って、祈っていたはずなのに、希望はどこにもないんだなと思いながら、その憎悪が叩きつけられた机の上で、いつも通り、何事もなかったように、私も馴染んでいく。


 両親もそう、私をたらい回しにした人間も、同級生も、先生も、そして……きっと、あの人も同じ……なのよね。


 そう考えると胸が締め付けられるのはどうしてだろうか。これって『悲しい』って感情なのかな?過去むかしに置いてきた感情だから、どんなものなのか忘れちゃった。


 ギュッと目を瞑りながら、心の痛みを誤魔化そうとする。少しでも、和らぐように。


 その時だった。ある人の冷静な言葉が耳をかすめた。


 『これが人のする事か?見て見ぬ振りするのも、いい加減にしろよ』


 冷たい声のトーンに体を震わせながらも、何が起こっているのか考えてみる事にした。この声は誰の声?こんな声、聞いた事ないよ。


 恐る恐る振り返ると、そこには私の大切な『あの人』が力強く立っていた。


 ――私を守るように、声のトーンを元に戻して呟くの。


 『大丈夫か?るいちゃん』


 皆に嫌われても、両親が私を捨てたままでも、貴方がいれば、何もいらない。


 「……うん」


 泣きそうなのは秘密。



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