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第七話 勇み足

 翌朝、冒険者ギルドの受付嬢の席に着いた私は三人がやってくるのをソワソワしながら待った。

 昨日の三人の態度があまりに不自然で、私は気になって仕方がなかったのだ。


 私はガンドルフィにも相談してみたが「せっかくEランクの冒険者にランクアップしたのに、今までと変わらず薬草採取の依頼ばかりで、鬱憤うっぷんたまっているのだろう」とのことだった。


「ゴブリン討伐も成功したし、そのことがより自信に繋がったんだろうな。もっと手強い相手と戦って腕試しをしたくなったんだろう。成長期の男の子にはそういう時期があるもんだ」


 ガンドルフィは自分が三人と同じくらいだった時期を思いだし、懐かしそうにうんうんと頷いていた。


 それはそうかもしれないが、それと『黄金の蜂蜜ゴールデンジェル』を売らないこととの関係が私にはわからなかった。

 あれこれと頭をひねったが、どうしても理由が思い当たらず、私は考えても仕方がないので気持ちを切り替え、三人があらわれるのを待つことにした。


 しかし、なかなか三人はやってこなかった。


「今日は遅いわね……」


 私はさらにソワソワが募った。

 それと同時に言い知れぬ不安が胸に広がり始めた。


「まあ、これまでもたまに来ない日もあったしな……」


 ガンドルフィも一見すると落ち着いているように見えたが、意味もなく辺りを歩き回ったり、窓の外を覗いて外の様子を窺ったりと、気持ちが穏やかでないのは私と同じのようだった。


 いよいよお昼になっても三人はあらわれなかった。


 私はさらに不安感が増し、そしてを覚えた。


「おかしい……。何かがおかしい……。気がする……」


 漠然とした不安だったが、Sランク冒険者としての私の経験と勘が何かの警鐘を鳴らしていた。


 この警鐘に私は覚えがあった。


 勇者と背中を合わせ、圧倒的な数の敵と戦い、死線を潜り抜けた時に感じた警鐘と同じだ。


「神経を研ぎ澄ませ。わずかな見落としが命取りになる……」


 私は立ち上がり、違和感の正体を突き止めようと周囲に注意を走らせた。


 それと同時にガンドルフィが窓に近づいた。


「しかし、今日は暑いな。窓を開けて風を取り込もう。新鮮な空気を吸って気分転換をしようじゃないか」


 そういってガンドルフィが窓を開けると爽やかな微風そよかぜが冒険者ギルドに吹き込んだ。


「でかしたぞ、ガンドルフィ」


 私はガンドルフィに感謝の意を述べた。


「ん? そうか? まあ、窓を開けたくらいだがそうやって感謝されるのは悪い気がしないな。素直に嬉しいよ」


 ガンドルフィは少し照れて鼻の頭を掻いたが、私が感謝したのはガンドルフィが窓をあけたことではない。

 風が吹き込んだことでにようやく気が付いたのだ。


 冒険者ギルドに風が吹きこむと、いつものだ。


 それは冒険者ギルドの壁の上部に掲示されたボスモンスターの討伐依頼書だ。


「あ───……」


 ガンドルフィも言葉を失った。


 私とガンドルフィが見上げた先に、いつもならあるはずのボスモンスターの討伐依頼書がなくなっていた。

 誰かが───いや、が討伐依頼書を無断で持ち去っていたのだ。

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