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第八話 追跡

「シルヴィアはここにいろ」


 ガンドルフィは素早く身支度を整えると駆け出した。


「待ってッ! 私も行くッ!」


 私も追いすがったがガンドルフィに制された。


「駄目だッ! シルヴィアはそこで待ってろッ!」


 いつになくガンドルフィは真剣だったが、私も引き下がらなかった。


 しかし───。


「膝を痛めているシルヴィアが来たって足手まといになるだけだッ! 来るんじゃないッ!」


 それはガンドルフィの非難ではなかった。

 私が本当に膝を痛めていると思い、そんな私に無理をさせまいと敢えて強い言葉を放つだった。


 その事に気付き、一瞬、足を止めた私だったが、ガンドルフィの姿が見えなくなってから別のルートでトロールのいる沼地に向かった。

 そのルートは私だけしか知らない近道───。いや、正確にはSランク冒険者で勇者と数々の死線を潜り抜けた私だから通ることができる道なき道の近道だった。



 * * *


「いいか。最後の確認だ。間違えるんじゃないぞ」

「わかっているのです。むしろマリオットが間違えないか心配なのです」

「なんでだよ! 自分で立てた作戦を自分が間違うわけないじゃないか!」

「ちょっと、今は喧嘩はやめようよ。三人で協力しないとボクたちますますトロールに勝てないよ」


 三人の小さな冒険者たちはトロールのいる沼地に来ていた。

 岩の物陰に隠れた三人の見つめる先には沼地のトロールの姿があった。


「わかったよ。それじゃあ、もう一度作戦を確認しよう。まずパナンが石を投げてトロールの注意を引く」


 マリオットにそう言ってパナンを指さした。

 するとパナンはしっかりと頷き「次にジェラドが火炎魔法でトロールの顔を攻撃するんだよね」とジェラドを指さした。


 ジェラドもゆっくり頷くと「火炎魔法で視界を遮られたトロールにマリオットが斬りかかる」とマリオットを指さし、最後にマリオットとジェラドがパナンを指さし「パナンが調合した眠り薬を投げつけて眠らせればオレたちの勝ちだ」とこぶしを握った。


「でも本当にうまくいくかな……」


 パナンは不安そうだった。


「トロールを倒そうと言い出したのはパナンだろ?」

「そうなのです。と言い出したのはパナンなのです」

「「言い出した張本人がそんな弱気でどうする」」


 二人にそういわれ、また励まされたパナンは決心を固めた。


「うん。わかった。マリオットの作戦を信じる。そしてボクたち三人の力を信じるよ」


 三人は円陣を組むと「「「よしッ! それじゃあ作戦開始だッ!」」」と気を吐いて持ち場についた。


 お互いに持ち場についたことを確認し合うと、まずパナンが岩陰から姿をあらわし、大きな声でトロールを挑発しつつ、石を投げつけた。


「やーい! ノロマなトロール! ここに冒険者がいるぞ! 捕まえられるものなら捕まえてみろー!」


 トロールは怪訝そうにしていたが、パナンがいくつか投げた石の一つが頭に当たると、その石をじっと見つめ、一呼吸置いた後に激高してパナンに向かって突進してきた。


「うわーッ! やったよッ! 成功だよッ! ジェラド、助けてーッ!」


 慌ててきびすを返すとパナンは一目散に逃げだした。


「まかせるのです! 喰らえなのです! 『可憐な花火ピクシーファイヤーワークス』!」


 ジェラドが呪文を唱えると小さな火の玉が杖から撃ち出され、トロールの顔に命中した。


 叫び声を上げて顔を押さえるトロールの背後でマリオットが大上段に剣を構えた。


「へへッ。昨日手に入れたゴブリンの剣が早速役に立つぜ。くらえッ! マーカロン剣術奥義ッ! ーッ!」


 半ば勝利を確信し、剣を振り下ろしたマリオットだったが、次の瞬間、思わぬことがおこった。


 マリオットの剣がトロールの肩口に当たった瞬間、剣が真っ二つに折れてしまったのだ。


「「「ええええーーーッ!?」」」


 三人は同時に叫び声をあげた。


「ど、どうしてッ!?」


 パナンは狼狽えた。


「わかんねーよ!」


 マリオットは信じられない物でも見るように手に持つ折れた剣を見つめた。


「剣を良く調べないからなのです! 恐らく刀身に目に見えないいたみがあったのです! だからいつもの剣にしましょうといったのです!」


 ジェラドが非難したがそれどころではなかった。


「パナンッ! 眠り薬を投げろッ! コイツトロールを眠らせるんだ」


 咄嗟にマリオットがそう叫ぶと「う、うんッ! わかったよッ!」とパナンは応じ、眠り薬の入った小瓶を投げたが、残念ながら小瓶は明後日の方向に飛んで行ってしまった。


「「「あああーーーッ!?」」」


 三人はまたしても同時に叫び声をあげた。


「この下手くそッ! どこに投げてるんだよッ!」

「困ってしまったのですッ! 眠り薬アレが最後の切り札だったのですッ!」

「わ、わぁーッ!」


 トロールはパナンの目の前に迫り、大きな両手を振り上げた。


「「パナンッ! 逃げろーッ!」」


 マリオットとジェラドにそう叫ばれたが、パナンは足がすくんで動けなかった。


「……───あッ!」


 そしてついにトロールの拳が振り下ろされた。

 パタンの胴体ほどもある大きな拳。

 こんな拳を叩き付けられたら無事では済まないことは明白だった。

 パナンは咄嗟に目を瞑って両手で顔を覆った。

 そして最悪の事態を覚悟して衝撃に備えて身を強張らせたが───。

 大きな音はしたが、覚悟していた衝撃は一向に自分を襲わなかった。

 恐る恐るパナンは目を開いた。

 するとそこには自分とトロールの間に立ちはだかる誰かの姿があった。


「「シ、シルシルッ!?」」


 マリオットとジェラドが同時に叫ぶ。


「……え? シルシル姉さん……?」


 パナンも恐る恐る名前を口にした。


「あなたたち。何回も言ってるでしょ。私はシルシルじゃないわよ。

 私はシルヴィア=シルヴァーナ。冒険者ギルドの受付譲で村で一番のとびっきり綺麗なシルヴィアお姉さんよ」


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