「わ、私が必要……? そ、それはどうして……?」
私はかろうじて声を絞り出せた。
この時、私は愚かにも自分にとって都合の良い答えを期待してしまっていた。
ランスアーサーが言う「私が必要」という意味───。
それは一度は私の告白を断ったが、後々冷静になって思い返してみると、嬉しい申し出であることに気づき「私が必要」と、わざわざマーカロン村まで迎えに来てくれたのではないか?
私は夢見る少女のように恍惚とし始めた。
そうであって欲しい。そうであってくれ。
心の中でそう懇願し、私はランスアーサーの答えに期待したが───。
やはり現実はそんなに甘いものではなかった。
ランスアーサーの答えはこうだった。
「シルヴィアが王都を去って間もなく───君がいなくなったことに気づいた大魔王の軍団が攻めてきたんだ。我々は善戦したが、やはり最も頼れる君がいないと駄目だった。やがて防戦一方となり、今では王都は陥落寸前だ」
なるほど……。
あのずる賢く、狡猾で抜け目のない魔王ならさもありなんと私は納得した。
鬼の居ぬ間ならぬ、シルヴィアの居ぬ間に王都を征服しようと攻めてきたわけか。
私は王都が陥落寸前であるという状況に驚くと同時に、俄に怒りも湧いてきた。
私の影を見ただけで戦場から一目散に逃げ出す臆病者の魔王が、随分と舐めた真似をしてくれたものだ。
前回、あわや命を落とすかという寸前まで徹底的に痛めつけてやったが、その時の痛みをもう忘れたと見える。
今度という今度こそ、もう二度と私たちに歯向かおうと思えなくなるほど痛めつけてやる必要があるようだ。
私はメラメラと怒りの炎を燃やした。
そしてこの怒りの炎には、ちょっとした逆恨みも含まれていた。
それは、魔王がそのような暴挙に出たことで勇者が私を探しに来たわけだが、そのことで私が自分にとって都合の良い答えを期待し、そしてその期待が裏切られ、落胆したことに対する逆恨みだった。
ランスアーサーは私を異性として見ていない。
「私が必要」というその言葉の意味は「戦力」として「私が必要」というそれだけだ。
勇者パーティーの剣聖で一番の前衛───そして主攻。
どんな大軍や強敵が目の前に立ちはだかろうとも、まるで無人の野を歩くかの如く突き進む私の破壊力。
それこそがランスアーサーにとって必要というだけだった。
私は再びランスアーサーにフラれたような心境に陥った。
それは私の身勝手な、自分都合の期待による、得られもしない願望を求めた結果の自業自得であったが、それでも私は深く気持ちが消沈した。
そんな私の目の前で、ランスアーサーは尚もプロポーズ姿勢で私に手を伸ばし続けていた。
「頼む、シルヴィア。どうか戻って来てくれ。そして我々を───王都を、そして王国の民を救ってくれ。どうか頼む。
そう言って頭を下げるランスアーサーの姿に、私は咄嗟に彼の手を取った。
そしてランスアーサーに、どうか顔をあげてくれ、膝を折らないでくれと懇願した。
今回は土下座ではなかったが、それでもランスアーサーが自分にかしずく姿が
このような姿のランスアーサーを見ると、
それだけは私はもう勘弁して欲しかったのだ。