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第二十話 あの三人

「どうする?」

「どうするのです?」

「どうしよう……」


 マリオット、ジェラド、パナンは物陰から顔を出し、遠くから勇者ランスアーサーを見ていた。


「本当に本当の本物だ」

「本当に本当の本物なのです」

「本当に本当の本物だね……」


「「「ど、どうしよう~!!! 緊張して会いに行けない~!!!」」」


 三人は憧れの勇者ランスアーサーを目の当たりにして、余りの緊張に近づくことができなくなっていた。

 好きで好きで堪らなく、会いたくて会いたくて仕方がないと恋焦がれているのに、いざその相手がやってくると、つい逃げ出してしまう様な乙女心に近い状態だった。


「オレはこの剣にサインをしてもらいたい」


 マリオットは先日、ゴブリンから戦利品として得た剣を出した。

 折れた剣は鍛冶屋で打ち直し、すっかり元通りになっていた。


「私は愛用の帽子なのです。サインをもらえたら部屋に飾り、毎日眺めて過ごすのです」


 ジェラドは愛用の魔法使い帽を握り締めた。


「ボクは……ボクは……、えーっと……、うわー、どれにしよう。サインをして欲しい宝物が多過ぎて一つに決めきれないよ」


 パナンは自分の宝物をしまっている箱を掻き漁り、どれにサインをもらおうか悩んだ。


「と、とにかく行こう。もっと近くで勇者ランスアーサーを見たい」

「そ、そうなのです。いきましょう。そしてできれば勇者ランスアーサーにご挨拶がしたいのです」

「うん。そうしよう。はやく行こう」


 三人はそう言い合ったが───。


「「「でもやっぱり何故だか行くことができない~!!!」」」


 どうしても一歩を踏み出せないでいた。


 そんな三人に千載一遇のチャンスが訪れた。


 なんと勇者ランスアーサーが席を立つと、パーティーが行われている広場を抜け出し、人気のない方に歩き出したのだ。


「ん? オールウェイズ・シーコかな?」

「もしくはウンゴロンゴなのかもです」

「なんにせよチャンスだよ! 後を追おう!」


 そうして三人は、自分達も勇者ランスアーサーの後を追って、村の広場を抜け出した。

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