「どうする?」
「どうするのです?」
「どうしよう……」
マリオット、ジェラド、パナンは物陰から顔を出し、遠くから勇者ランスアーサーを見ていた。
「本当に本当の本物だ」
「本当に本当の本物なのです」
「本当に本当の本物だね……」
「「「ど、どうしよう~!!! 緊張して会いに行けない~!!!」」」
三人は憧れの勇者ランスアーサーを目の当たりにして、余りの緊張に近づくことができなくなっていた。
好きで好きで堪らなく、会いたくて会いたくて仕方がないと恋焦がれているのに、いざその相手がやってくると、つい逃げ出してしまう様な乙女心に近い状態だった。
「オレはこの剣にサインをしてもらいたい」
マリオットは先日、ゴブリンから戦利品として得た剣を出した。
折れた剣は鍛冶屋で打ち直し、すっかり元通りになっていた。
「私は愛用の帽子なのです。サインをもらえたら部屋に飾り、毎日眺めて過ごすのです」
ジェラドは愛用の魔法使い帽を握り締めた。
「ボクは……ボクは……、えーっと……、うわー、どれにしよう。サインをして欲しい宝物が多過ぎて一つに決めきれないよ」
パナンは自分の宝物をしまっている箱を掻き漁り、どれにサインをもらおうか悩んだ。
「と、とにかく行こう。もっと近くで勇者ランスアーサーを見たい」
「そ、そうなのです。いきましょう。そしてできれば勇者ランスアーサーにご挨拶がしたいのです」
「うん。そうしよう。はやく行こう」
三人はそう言い合ったが───。
「「「でもやっぱり何故だか行くことができない~!!!」」」
どうしても一歩を踏み出せないでいた。
そんな三人に千載一遇のチャンスが訪れた。
なんと勇者ランスアーサーが席を立つと、パーティーが行われている広場を抜け出し、人気のない方に歩き出したのだ。
「ん? オールウェイズ・シーコかな?」
「もしくはウンゴロンゴなのかもです」
「なんにせよチャンスだよ! 後を追おう!」
そうして三人は、自分達も勇者ランスアーサーの後を追って、村の広場を抜け出した。