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第二十一話 どこへ行こうというのかね?

 勇者ランスアーサーは村外れまでやってきた。

 マリオット、ジェラド、パナンの三人も、そんな勇者ランスアーサーの後を追ってやってきた。


「こんなところで何をするんだ?」

「やはりオールウェイズ・シーコではなく、ウンゴロンゴなのです」

「え、それじゃあ、こんなところでしなくても、広場の角にちゃんとトイレがあるよって教えてあげた方が……」


 三人がそう話しているとランスアーサーは周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると手のひらサイズの水晶玉を取り出した。

 そして軽く魔力を込めると水晶玉は光を放ち、誰かの姿が中空に投影された。


「すごい。あれは「通話水晶ズーミムートだ」

「そうなのです。それも映像で相手の顔を見て話ができる最新型の通話水晶ズーミムートなのです」

「うわ~……。かっこいい~……」


 三人は初めて見る最新型の通話水晶ズーミムートに見惚れた。

 身を乗り出し、もっとよく通話水晶ズーミムートを見ようと首を伸ばしたが、不意に『遅かったじゃないか』と通話水晶ズーミムートの相手が喋り出したので、慌てて首を引っ込めた。


『連絡を待ちくたびれてしまったんすわ。退屈した』


「ははは。すまない。なかなか連絡をする機会がなくてね」


『それで、シルヴィアはそこにいたんすか? 期待しかない』


「ああ。ちゃんと彼女と会えたよ。君の情報は確かだったね」


「当り前なんすわ。手下のモンスターは至る所にいるんすよ。マーカロン村も例外じゃないんすわ。抜かりなし』


「さすがだね。でも困った事があってね……」


『困ったこと? それはなんなんすか? 不安しかない』


「シルヴィアが王都に戻ることを了承してくれないんだ」


『それはなんでなんすか? 疑問に思わずにはいられない』


「わからない……。私が告白を断ったから拗ねているのかと思ったが、それもあるがそれだけじゃない感じもするんだ」


『乙女心は複雑なんすよ。理解不能なんすよ。面倒なんすよ。でもそこが可愛いんすよ。惚れる』


「今はそうも言ってられない。なんとしてもシルヴィアを王都に連れ戻さなければ……」


『どうするんすか? 妙案を期待』


「そうだね。すまないがゴブリンの大軍をマーカロン村ここに送ってくれないか?」


『ゴブリンの大軍をなんすか? それはお安い御用なんすわ。でもゴブリンじゃ何匹いようとシルヴィアには勝てないんじゃないんすか? シルヴィアが強すぎて泣いた』


「いいんだよ。シルヴィアに勝つことが目的じゃない。マーカロン村ここが襲われることが重要なんだ。すぐに頼む。いつ頃にできそうだい?」


『大軍となるとさすがにそんな田舎のマーカロン村の近くにはいないんすわ。悲しい。

 移動させるのに数日かかるんすわ。ちょっと待って欲しいんすわ。心からのお願い』


「かまわないよ。幸いマーカロン村ここはいい所だ。数日滞在しても退屈はしないだろう」


『……さてはいい男がいたんすね。浮気は駄目なんすわ。そんなことされたら泣いてしまうんすわ。大泣き』


「はっはっはっ。違うよ。まあ、腕の立ちそうな剣士なら一人見つけたけどね」


『絶対に浮気はだめなんすわ。不安しかない』


「誓ってそんなことはしないよ。今はね……。それよりゴブリンの大軍の件、宜しく頼むよ」


『わかったんすわ。任せるんすわ。乞うご期待。それじゃ勇者も頑張れなんすわ。通話終了』


「ああ、ありがとう。それじゃあね、≪≪魔王パフェッド≫≫」


 最後に勇者ランスアーサーがそう言って魔力を収めると、投影された人影は消え、通話水晶ズーミムートも光を失い、元の水晶玉に戻った。


「さて、ゴブリンの大軍がやってくる数日間はのんびり過ごすとするか。幸いガンドルフィといったかな。良さそうな相手も見つけたことだし」


 そう呟くランスアーサーの顔はニチャッとした薄気味悪い笑顔に歪んだ。


 その笑顔のまま、ランスアーサーは村の広場に戻っていったが、残された三人は目を見開いて顔を見合わせ、今聞いた通話の内容に信じられないといった様子だった。

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