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第二十二話 信じて欲しい

「本当なんだシルシル! ガンドルフィも信じてよ!」


 マリオットはギルドの受付カウンターを手で叩いて必死に訴えた。


「マリオットは嘘はついていないのです。私たちは本当に聞いたのです」


 ジェラドもマリオットを後押しする。


「ボクたち、嘘はつかないよ。噓がばれたらお母さんとシルシル姉さんにメチャクチャ怒られて怖いし、夕飯も抜きになるから本当に嫌だし、だから嘘は絶対につかないよ」


 パナンも誠実に訴えた。


 確かにこの三人が嘘をついているとは思えない。

 しかし内容が内容だけに私も、そしてガンドルフィも俄かに信じることができなかった。


「ランスアーサーが魔王パフェッドと通話水晶ズーミムートで話をしてたですって?」


「しかもゴブリンの大軍をマーカロン村に……?」


 私とガンドルフィは顔を見合わせた。


「目的はなんなんだ?」


 ガンドルフィは腕を組んで唸った。


 私はガンドルフィには悪いが、ランスアーサーの目的がなんであるかは察しがついていた。

 それは私を王都に連れ戻すことだ。

 まさかゴブリンの大軍でマーカロン村を焼き尽くそうとでもいうのか?

 しかし、それなら私が防ぐ。

 ゴブリンなど何十万匹といたところで問題はない。全滅させるのは朝飯前だ。


 だが、それよりランスアーサーが魔王パフェッドと話をしていたということの方が気になった。

 王国の王都は今、魔王に攻められ、陥落寸前という話だった。

 そんな状況下で、ランスアーサーが魔王パフェッドと通話───それも密談をするなんて……。


 私も腕を組んで唸った。


 そうして私とガンドルフィの二人が唸っていると、冒険者ギルドの扉を開いて勇者ランスアーサーがやってきた。


「やあ、シルヴィア、おはよう。それにギルドマスターも、おはようございます。

 昨晩は私の為に、盛大な歓迎パーティーを開いてくれてありがとうございました。心よりお礼を申し上げます。とても楽しい時間を過ごせました」


 そういってランスアーサーは笑顔で私たちに近づいて来た。


 ランスアーサーが近づくとマリオット、ジェラド、パナンの三人は後退あとずさった。

 その表情は恐怖と疑念に満ちていて、私はそのことで、この子たちがやはり嘘は言っていないということを確信した。


「おや? この子たちは一体……? なんと君たちはまだ子供なのに、もう冒険者の資格を持っているのかい? すごいね。立派だよ。それに将来有望そうだ」


 ランスアーサーは膝を折って子どもたちと目線の高さを合わせると、親し気に優しく声をかけたが───。


「は、早く依頼の薬草採取にいかなくちゃ……!」

「そ、そうなのです。急がなくてはいけないのです」

「あ、二人ともまって! 依頼書! 薬草採取の依頼書を持っていかないと薬草採取はできないよ! 村の周りの薬草は農業権で守られているんだ! そうやって皆が勝手に薬草を採って乱獲されないようにしないと継続的かつ計画的に薬草資源を利用できなくなるんだから! 因みに薬草を密漁すると金貨三枚の罰金、もしくは一か月の奉仕作業を科せられるんだからね~!」


 といって逃げるように冒険者ギルトを飛び出していった。


「ははは。元気の良い子供たちですね」


 ランスアーサーは笑顔で子供たちを見送ったが、もう少し自分に興味を示してくれてもいいはずなのに……と、少し予想外といった様子だった。


「そ、それじゃあ、俺もいつもの通り、沼地のパトロールに行こうかな~……。シルヴィア、留守を頼む。

 勇者ランスアーサーも、どうか村でゆっくりなさってください。───それじゃ!」


 ガンドルフィもそういうと、そそくさと逃げるように冒険者ギルドを出て行った。


 私は再びランスアーサーと二人っきりになった。

 少し気まずい沈黙を、ランスアーサーが軽く咳払いをして打ち破った。


「私がシルヴィアの告白を断った理由をお話します。どうか聞いて欲しい」


 そう言われて私の心臓は瞬間的に鼓動が跳ね上がった。

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