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第二十三話 土下座した理由

「わ、私の告白を断った理由を語るだと……?」


 私はその理由を聞きたい衝動にかられたが、やもすれば告白を受け入れない理由の塗り固めになるかも知れず、理由を聞きたくない気持ちも同時に芽生えた。

 私は大いに迷ったが、ランスアーサーは滔々と語り始めた。


「私がシルヴィアの告白を断った理由───それは、私が誰よりもシルヴィアの事を認め、尊敬し、尊び、大切に思っているからです」


 ランスアーサーの言葉に私は目を見開いた。

 ランスアーサーが私のことを誰よりも大切に思ってくれていると、そういってくれた。

 私は歓喜の感情に包まれ、言葉にできないような高揚感を覚えた。

 だが、次の瞬間、疑問が生じる。


 それならば何故、私の告白を断ったのだ?


 その理由はランスアーサーの次の言葉で語られ始めた。


「シルヴィア、君は私よりはるかに強い。私は勇者と言われて民から崇められているが、私がそんな勇者の地位にいられるのは君がいてくれたからだ。おそらく、君がいなければ、私は───私たちの勇者パーティーはとっくの昔に全滅していただろう。

 シルヴィアがいてくれたからそうした事態を免れた。シルヴィアがいてくれたから私たちは魔王軍に勝利し続けることができた。シルヴィアがいてくれたから私たちは王都を───王国を───王国の民を守ることができていた。

 すべてはシルヴィアのおかげなんだ。

 だから私は君のことを、こう思っている。

 ───≪≪救国の女神≫≫であると」


 私は大きな金の矢で自らを射抜かれたような衝撃を受けた。


 今、ランスアーサーは私の事を「女神」と言ったか?

 この世で最も美しい女神と評してくれたのではないか?

 神々しく光輝き、自らの進路を指示し、導いてくれる唯一無二の絶世の美人女神と褒め称え、崇め奉ってくれたのではないか?


 どこまでもランスアーサーの言葉を拡大解釈してしまい、私は天にも昇るような幸福感に包まれたが、しかしやはり同時に疑問が生じた。


 それならば何故、私の告白を断るのだろうか……?


 またもやこの疑問だった。

 どうしてもこの疑問が拭えない。

 もはや私は何物に代えてもその疑問を拭わなければと思うまでに至ってしまった。


 そこでここまで黙ってランスアーサーの言葉を聞いていたが、つい、聞きたいことが口を突いて出てしまった。


「そ、それならば何故、断ったりしたのだ。しかも───しかもよりによって……よりによって土下座までして……」


 私にそう問われると、ランスアーサーは悲しい表情でフッと鼻を鳴らした。


「それは申し訳なかったからです」


 申し訳なかった?

 それは私にとって意外な返事だった。


 申し訳なかったとはどういうことだ?

 ランスアーサーが申し訳なく思うことなど何もない。

 むしろ申し訳なく思うのは私の方だというのに……。


「シルヴィアのような女神に告白をされるなんて、とても恐れ多かったんです。自分より何倍も強く、遥かに神々しい相手に告白をされるなんて……。

 身に余る光栄なんてそんな生易しい言葉で済まされる事ではありません。

 とても私などではシルヴィアの好意に報いることなんてできない。

 そんな私に対して、シルヴィアに告白をさせてしまった。そのことが申し訳なかったのです。だから咄嗟にあのような行為に及んでしまいました。でもそれくらいの事をして、詫びなければ許されない。瞬時にそう思ったんです。私はそれくらいシルヴィアの事を尊び、畏敬の念を持っているんです。どうかそれをわかって欲しい」

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