私は一人っきりになった冒険者ギルドで受付嬢の椅子に座り、放心したように天井を見上げ、瞬きもせずに目を見開いたままでいた。
頭の中では先ほど、ランスアーサーに言われた言葉が無限に繰り返されていた。
いずれも私が想像した以上に嬉しい言葉で、美辞麗句のオンパレードだった。
ランスアーサーは私が告白をした際、そこまで───そこまでのことを瞬時に考え、土下座をしていたのか───……。
私は事の真相が知れて、全ての心のわだかまりと緊張が溶け、放心してしまっていた。
私はただだた放心をし続けた。
しかし、そうして時間が経てば経つほど、ある思いがムクムクと鎌首を持ち上げ始めた。
私は必死にその鎌首を抑えようとしたが、そうして抑制すればするほど、反発するかのように鎌首はさらに大きく、力強く持ち上がってしまった。
やがて鎌首が最大にまで大きくなった時、私はぽつりと言葉を漏らす。
「違う。嘘だ。ランスアーサーは嘘をついている。私の告白を断った理由はさっき話した内容が理由じゃない」
これは私が元勇者パーティーの剣聖で、Sランク冒険者として数々の死線を潜り抜けてきたからこそ見抜ける嘘だった。
確証はない。だがこれまで幾度となく私を救った私の勘がそう告げている。
「さっきの話しは、まったくのデタラメだ。ランスアーサーはあんなこと、心の片隅に一片たりとも思っていない」
私はこの時、自分が元勇者パーティーの剣聖で、Sランク冒険者であることを呪った。
もっと私が弱く、愚かであれば、先ほどのランスアーサーの言葉を鵜呑みにして、幸せに過ごせたのに……。
私は静かに目を閉じ、溢れる涙が流れないように努めた。