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第4話 星彩の娘の覚醒

「それで具体的に、何をしているの?」

「誰でも星彩師になれるっていう謳い文句で、星型のペンダントを売りつけているらしい」

「星型のペンダント……っ!」


 もしかして、ロゼッタと取り巻きたちがしていたペンダントのことかしら。


「ミレイユも、思い当たるようだね」

「従姉妹がしていたの。『星彩祭』でその力を使って、光の織手に選ばれたわ」

『た、大変だ! 今すぐにでも、君を真の星彩師にして、止めなくちゃ!』

「落ち着いて、エレモ。そういうけれど、私にそんな資格はないわ」


 なんたって、『星彩祭』で見事に失敗をするくらいの落ちこぼれ。真の星彩師になれたとしても、高が知れている。


『そんなことはないよ。君は僕の力がなくても、星彩を織り上げられるだけの実力を持っているんだから』

「え?」

『元々素質を持っている君なら大丈夫。僕の力を受け止められるよ』


 エレモの言葉で腑に落ちた。どうして光の織手様は、ミレイユを目にかけてくれたのか。彼女はミレイユたちとは違う、真の星彩師。何か感じるものがあったのだろう。そう、今のエレモのように。


「分かったわ。それで、どうすればいいの?」

『神殿で、光の精霊から力を授けられた時と同じでいいんだよ』


 私はミレイユの記憶を掘り下げた。彼女が神殿で星彩師となったのは、十五歳の時。その後の三年間、ミレイユはお父様の期待に応えるために、必死に努力を重ねたけれど、実を結ぶことはできなかった。


 まさか、星の精霊からの力を得ていなったからなんて、皮肉よね。


 私が立ち上がったのを合図に、エレモが上に向かって飛んでいく。さらに奥へと進んでいくので、私もその後を追った。


 見えてきたのは、祭壇だった。その中央に、野球のボールほどの大きさの石が安置されている。


「あれが星のかけらだよ」


 後ろからリオネルが説明してくれた。神殿から盗まれた後、ここに隠されたこと。犯人が誰なのか、なぜここに隠したのかは分からない。

 けれど、捕まることも、神殿に返されることもなく、ずっとこの洞窟に置かれていたらしい。近隣の住民が星のかけらに気づき、神殿に返せば良かったのだが、その石が星のかけらだということは知らなかったのだ。時々、その石の周りが光ることで、ただの石ではない、くらいの認識だったらしい。だから祟られないために、祀ったのが始まりだったという。


「それでも、こうやって大事にされていたのね」

「だから、星のかけらだと知っていても、神殿に持って行くことができなかったんだ」

「犯人だと思われるから?」

「盗まれたのは数十年前なんだぞ。犯人はとっくに死んでるよ。できなかったのは、ここら辺の住民に恨まれたくなかったんだ」

「今度はリオネルが盗人になってしまうものね」


 ふふふっ、と笑うと、リオネルは照れくさそうにしていた。


『おーい! 早くしないと大変なことになるんだよ! 呑気に話してないで、早く早く!』


 祭壇の前で、パタパタとエレモが私を急かす。

 『星彩祭』で新たな光の織手が選ばれると、その一週間後に任命式が神殿で行われるのだ。ここがどこだかは分からないけれど、ロゼッタたちが持っていた星形のペンダントを、これ以上使わせてはならない。


 エレモがいうように、一分一秒も私たちは無駄にできなかった。リオネルとの会話が楽しくて、ついゆっくりと歩いてしまったけれど……。


 私は隣にいるリオネルに顔を向ける。彼はエレモの言葉が分からないが、私の表情でも察してくれたのだろう。優しく、背中に触れてくれた。


「大丈夫。星の精霊と自分を信じて」

「……うん!」


 リオネルの言葉に、胸が熱くなった。こんな温かい言葉を、ミレイユもまたかけてほしかったのだろう。こんな気持ちになるのだから。


 うん。彼女の分まで、頑張らなくちゃ!



 ***



『ここにいるのは僕と君、そして向こうにいる彼しかいないけれど、これもまた儀式だからね。光の精霊から力をもらった時のやり方は覚えている?』

「うん。じゃなくて、はい」


 エレモの口調が気さくだから、ついつい忘れてしまう。彼は星の精霊。ミレイユの記憶にある、光の精霊と同等の存在だ。

 私はエレモの前で跪き、胸の前で両手を組み、金色の輝く光の精霊と対面した時の記憶を元に、言葉を繋いだ。


「星の精霊、エレモよ。我はミレイユ・ブリンモア。星彩師を目指す者なり。ノクティス王国を守り、導くために、その御身の力を授け給え」

『いいよ。代わりに真の星彩師となり、不快なエネルギーを出す者たちを排除してノクティス王国を救ってほしい』

「御身の願い、しかと承りました」


 私の願い。エレモの願い。双方の同意がなされて、初めて成立する。エレモは私の承諾に満足すると、ゆっくりと近づき、頭に触れた。小さい手なのに、なぜか感触が伝わってくる。その瞬間、私の体は銀色の光に包まれた。


「これで真の星彩師になったのね」


 内側から力が漲ってくる。これまで、いかに中途半端だったのかが分かるくらい。

 星が自ら光を発する時のように、私の中にあるエネルギーが爆発しそうだった。


『さぁ、その力で星彩を織るんだ』


 どうやって? そんな疑問が浮かんだ途端、体から力が溢れ出した。これを外に出さなければ、体が壊れてしまいそうなほどに。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 私の叫び声に反応して、青い星型の星彩がいくつも現れる。けれど今の私には、それを見ている余裕がなかった。


 溢れる力を本能のままに放出し、私とエレモ、リオネルを包み込む。その光はさらに洞窟内を満たし、外へと流れていった。

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