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第11話

 シャーロットが硬い声で呟く。


 「中で腐ってなければ、動かぬ証拠だわ……」


 ミーナがすぐに結論を出す。


 そして、大人組の顔が徐々に固くなる。


 アデレードが一歩前へ出て、淡々と告げた。


 「――取り出すなら、腹を開くしかないわね」


 「ちょっ」


 フィオナの瞳が揺れる。


 「そんな、無理だよ! だってルル、生きてるし、喋るし、仲間だよ!? そんなの、ひどい……!」


「さすがにちょっと……!」


 ノエルも机を叩いた。


 「なんとか、他の方法……っ」


 ティナは声を震わせていた。


 そんな中、事の当事者――ルル本人が、のそのそと身を起こした。


 例の、いや〜な語り口調で喋り始める。


 「おいおいおい……待ってくれよお嬢さんたち……あたし、聞いたよ? 聞いたんだよぉ……」


 ついとアデレードの方に、にゅるっと体を向けた。


 「まえに……言ったよねえ……“おもしろい話をしてくれたら、命くらい助けてあげる”って……言いましたよねェ~~~?」


 「アデレード、たぶん言った……。」


 「ルルを切るの、やだ……」


 子供組が泣きそうな顔でアデレードを見つめる。


 そしてルルは、どこからともなくテンションを上げて、語り出した。


 「聞いてください……これはね、王宮の厨房で、誰もがひそかに囁いていた怪談です……」


 「また始まった」


 クラリスが額に手を当てる。


 「“夜な夜な壁際で詩をささやく男”……彼の名は、ライオネル……! 王宮騎士にして、哀しき恋の落武者……」


 「やめろ。」


 ライオネルが即座に止めに入るが、ルルは止まらない。


 「彼は言いました。“君の瞳は冬の星よりも冷たく、輝かしい”……そう! 相手は、侍女のマルタ様……!」


 「あああああああああ」


 ライオネルが机に突っ伏した。


 「“ポエムで告白して玉砕”って、王宮の厨房では有名な話だったらしいよ?」


 シャーロットが小声で耳打ちする。


 「そうなの? なんか、かわいそう……。」


 フィオナがそっと見つめる。


 「っていうか、詩の内容が微妙にキザすぎて逆効果だったって聞いたわ。」


 ミーナがため息混じりに言った。


 少女たちの視線が、一斉にライオネルに集まる。


 「そういえば剣帯に何もつけてないねぇ。」


 「え、この顔なのにモテないの!?」


 「それは飛んだ宝の持ち腐れですわね。」


 「私は顔良くてもポエマーの彼氏は嫌だなぁ。」


 言いたい放題だった。その視線の中には、やや同情の色も混じっていた。


 「おねえちゃん。どうする?」


 ノエルが静かに問うた。


 クラリスは静かに立ち上がり、ルルを見下ろす。その目は、鋭くも迷いのない色をしていた。


 「条件があるわ。」


 その言葉に、全員が黙った。


 「ルルを……王宮の裁判に証人として連れて行く。あんたが見たこと、聞いたこと、腹の中の証拠……全部そこで証言してもらう。」


 「それで……ルルの命は?」


 フィオナが喉を詰まらせながら聞いた。


 クラリスは少しだけ笑った。


 「心配しないで。証言のあと、“特別な方法”を用意する。それで、助かる道はある。」


 その“特別な方法”が何かまでは、語られなかった。

けれどクラリスのその目に、何か確かなものを感じたのか――少女たちは次々に頷いた。


 「……やったぁ……!」


 ルルが喜びのあまりバケツでぴょんぴょん跳ねる。


 「でも一つだけ言っとく。」


 クラリスは眉を吊り上げて言った。


 「――あんた、調子に乗ってポエム朗読とか始めたら、即バケツ逆さ吊りだからね」


 「……はい。」


 ルルが蚊の鳴くような声で返事をした。


 部屋には笑いと安堵の空気が広がった。


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