シャーロットが硬い声で呟く。
「中で腐ってなければ、動かぬ証拠だわ……」
ミーナがすぐに結論を出す。
そして、大人組の顔が徐々に固くなる。
アデレードが一歩前へ出て、淡々と告げた。
「――取り出すなら、腹を開くしかないわね」
「ちょっ」
フィオナの瞳が揺れる。
「そんな、無理だよ! だってルル、生きてるし、喋るし、仲間だよ!? そんなの、ひどい……!」
「さすがにちょっと……!」
ノエルも机を叩いた。
「なんとか、他の方法……っ」
ティナは声を震わせていた。
そんな中、事の当事者――ルル本人が、のそのそと身を起こした。
例の、いや〜な語り口調で喋り始める。
「おいおいおい……待ってくれよお嬢さんたち……あたし、聞いたよ? 聞いたんだよぉ……」
ついとアデレードの方に、にゅるっと体を向けた。
「まえに……言ったよねえ……“おもしろい話をしてくれたら、命くらい助けてあげる”って……言いましたよねェ~~~?」
「アデレード、たぶん言った……。」
「ルルを切るの、やだ……」
子供組が泣きそうな顔でアデレードを見つめる。
そしてルルは、どこからともなくテンションを上げて、語り出した。
「聞いてください……これはね、王宮の厨房で、誰もがひそかに囁いていた怪談です……」
「また始まった」
クラリスが額に手を当てる。
「“夜な夜な壁際で詩をささやく男”……彼の名は、ライオネル……! 王宮騎士にして、哀しき恋の落武者……」
「やめろ。」
ライオネルが即座に止めに入るが、ルルは止まらない。
「彼は言いました。“君の瞳は冬の星よりも冷たく、輝かしい”……そう! 相手は、侍女のマルタ様……!」
「あああああああああ」
ライオネルが机に突っ伏した。
「“ポエムで告白して玉砕”って、王宮の厨房では有名な話だったらしいよ?」
シャーロットが小声で耳打ちする。
「そうなの? なんか、かわいそう……。」
フィオナがそっと見つめる。
「っていうか、詩の内容が微妙にキザすぎて逆効果だったって聞いたわ。」
ミーナがため息混じりに言った。
少女たちの視線が、一斉にライオネルに集まる。
「そういえば剣帯に何もつけてないねぇ。」
「え、この顔なのにモテないの!?」
「それは飛んだ宝の持ち腐れですわね。」
「私は顔良くてもポエマーの彼氏は嫌だなぁ。」
言いたい放題だった。その視線の中には、やや同情の色も混じっていた。
「おねえちゃん。どうする?」
ノエルが静かに問うた。
クラリスは静かに立ち上がり、ルルを見下ろす。その目は、鋭くも迷いのない色をしていた。
「条件があるわ。」
その言葉に、全員が黙った。
「ルルを……王宮の裁判に証人として連れて行く。あんたが見たこと、聞いたこと、腹の中の証拠……全部そこで証言してもらう。」
「それで……ルルの命は?」
フィオナが喉を詰まらせながら聞いた。
クラリスは少しだけ笑った。
「心配しないで。証言のあと、“特別な方法”を用意する。それで、助かる道はある。」
その“特別な方法”が何かまでは、語られなかった。
けれどクラリスのその目に、何か確かなものを感じたのか――少女たちは次々に頷いた。
「……やったぁ……!」
ルルが喜びのあまりバケツでぴょんぴょん跳ねる。
「でも一つだけ言っとく。」
クラリスは眉を吊り上げて言った。
「――あんた、調子に乗ってポエム朗読とか始めたら、即バケツ逆さ吊りだからね」
「……はい。」
ルルが蚊の鳴くような声で返事をした。
部屋には笑いと安堵の空気が広がった。