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第14話 従業員用サブキッチン

 メインのキッチンよりも大分落ちるキッチンに案内された。

 とはいえ、我が家のキッチンに比べれば天国と地獄なんだけどね。

 ちゃんと鍋釜があってコンロやオーブンもあって包丁なんかも揃ってるからいいよな。

 古い作りなんだけど、掃除も行き届いてるし。

 ちゃんとしてるね。


「おお、メインキッチンのコックさんが何用?」

「つか、見た事無いな、新入り?」

「スダラマッシュのリュージだよ」

「「「「おーおー」」」」


 料理が終わって後片付けをしていた調理メイドさんたちが一斉にうなずいた。


「スダラマッシュのレシピをお伝えしようかと思いまして」

「ああ、発案者に見て貰えると助かる~」

「みんなマッシュ好きでさあ、騎士から庭師まで取りあうように食べてるよ、あんたすごいよなあ」

「一応、ザルと鍋使って蒸しっていうのかい、アレでやってるけどね」

「水芋にしたら滑らかになるよねえ、あれすごい」


 おやつに隠してあった、サブキッチン製のスダラマッシュを分けてもらった。


 もしょもしょもしょ。


「ああ、良く出来てますね、レシピ通りだと思います。おいしいですよ」

「ザルに裏ごしとかしてはどうかなあ」

「ああ、裏ごし力が掛かるから、結構ザルが壊れやすいんですよ、針金製だと行けそうだけど、木製だとやめた方がいいかもしれません」


 目の細かいザルで裏ごしすると、ねっとりスダラマッシュが作れそうだが、まあ、器具の方がね。


「針金製かあ、高そうねえ」

「小麦粉用のザルとか使えないのかね?」

「良い金属ザルがあるとマッシュも捗りそうだね」

「蒸してから、すぐマッシュ出来るようになりますよ」

「そりゃいいね、まあ、今は潰すだけでも結構美味しいけどね」


 カトリくんの家の水芋のお陰で潰すだけで、前世のマッシュポテトに近い感じの物ができるようになった。

 なったけど、芋の種類が違うから、なんか味はちがうんだよね。

 里芋っぽい風味もあるので、スダラマッシュとしか言えない感じの料理なんだよ。


 とりあえず、調理メイドさんたちは素直にザルを使って蒸し料理をしてくれていたので良かった。


「正しいレシピでした、満点です」

「きゃ、ありがとうね、リュージ、なんか新作とか思いついたら教えてよん」

「そうそう、マッシュ美味しいけど、ずっと同じ調子だと飽きるからね」

「今はサラダにする事を考えてますね」

「おおー、サラダ……、わりと人気無い料理」

「肉とかソーセージとか入れたら良いんじゃない?」

「いやいや、お野菜を気軽に食べるのは大事なんですよ」

「そうかね」

「そうかね」


 調理メイドさんも中世の人なので、やっぱりお肉至高主義者らしい。

 あんまり肉ばかりだと身体に良くないんだけどなあ。


 スダラマッシュで、前世のポテトサラダみたいな物をつくりたいんだけどなあ。

 だが、マヨネーズがなあ。

 異世界転生グルメ物では、マヨネーズを発明してヒロインに食べさせてウハウハ言うのが定番なんだけどさ……。

 鶏の卵って、衛生的じゃないからさ、適当に作るとたぶん食中毒頻発するよな。

 前世の日本の卵の清潔さが異常なんだよなあ。

 なんか殺菌魔法とかが欲しいよね。


 ちなみに領館まで来ても、魔法で動く魔導冷蔵庫は無い。

 王都とか行かないと無いようだ。

 魔導コンロなんかも無いね。

 竈で薪を燃やして料理しているのだよ。

 本格ファンタジー世界は大変なんだよなあ。


「そいじゃま、また明日」

「おーおー、リュウジよ、あんたあメインキッチンでハブられてるって?」

「アレがアレだからな、大変だな」

「いやまあ、しょうがねえからさ」

「あんまり、あれだったら、サブキッチン来い」

「んで下ごしらえとか手伝え」


 わはは、なんとも虫の良いお誘いだが、悪い気はしなかった。

 キッチンメイドさんたちは料理人で俺の仲間だしな。

 実際、お嬢様と御領主様のスダラマッシュを作るだけなんだから、メインに居なくても、サブキッチンでも良いんだけど、勝手にシフトを変えるのはな。


「まあ、考えておくよ、先輩方」


 キッチンメイドたちは手を振って俺を送り出してくれた。

 わりと気の良いメイドさんが多いな。


 ちなみに、同じメイドさんだが、マリラさんとか、ボフダナさんなんかのお掃除をするハウスメイドと、調理をするキッチンメイドは種類が違う。

 電化製品とかが無いから人海戦術で掃除洗濯調理を回してるんだな。

 洗濯も洗濯室があって、洗濯メイドさんが洗い物をしているのだな。


 俺は衛兵さんに挨拶をして領館を後にした。

 もうとっぷりと日が暮れて、ランタンを下げて夜道を歩く。


 空を見上げると満天の星だ。

 ああ、空のどこかに俺のいた地球があるのかなあ。

 地球に居た頃は何かと不満ばかりだったけど、全てが不足している中世な感じのこの世界にきたら、あの頃にバイトでいろいろと教わった事や、学校で馬鹿にしていた授業とかが、異様に役に立っていて、複雑な気分だな。

 もうちょっと真面目に授業を受けて、色々と本を読んでおきたかったなあ。


 マヨネーズは何とかならないかなあ。

 うーむ。

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