大聖堂の
「
パンドラは目を見開いて、アムルを見詰めている。
アムル、とその唇が動いたのがわかった。
声は届かなかった。
アムルは泣き笑いの表情で、パンドラに手を差し出す。
「ごめん、ごめんね……パンドラ。わたし、やっぱり、だめだよ。約束を破る」
目を離さずに。
最後の瞬間まで、ずっと。
パンドラを見ている。
「――見て、られない」
その約束を、破る。
抜き身の剣を振り上げて、躊躇なく振り下ろす。
パンドラが悲鳴を上げて、アムルは――
アムルは静かに立っていた。
剣は折れ、乾いた音を立てて
「アムル……?」
パンドラが、呆然とアムルを見つめた。
親友だった少女は今、黒く揺らめく炎に、包まれているように見えた。
亜麻色の髪が生き物のように、うねった。
紫水晶の眸は濡れて、きらきらと輝いていた。
「……なにをした?」
白衣者の問いに、アムルは答えなかった。
答えようが無かった、と言うのが正しい。
だって、アムルは
剣を振り被られ、アムルは反射的に目を閉じた。
両腕を上げて、頭を庇ったかもしれない。
それだけ。
なのに、剣は折れ、神徒は倒れ。
アムルは……黒き力に守られていた。
「
「マレ……なに?」
パンドラが、アムルが眉を寄せる。
知る必要もない、知ってはならない言葉。
禁じられた力。
「覚醒前に、討て!」
隊長格の神徒が槍でアムルを指し示し、十人程が駆け寄って……
アムルはもう、動かなかった。
ただ、拒絶する。
それだけ。
神徒たちは弾かれ、ばたばたと露台に倒れた。
アムルを守る黒い力は、時々緑にも光って、禍々しくも神々しくも見える。
白衣者に庇われていた至聖導師が一歩、前に出た。
「まだ間に合う。心を静め、
黒い炎の影が燐光のように緑に煌めく。
至聖導師にその端が触れそうになって、アムルは首を振る。
「だめ、下がって! 危ない!」
至聖導師に害意は無い。神徒とは違う。
アムルを傷付けようとはしていない。
「大丈夫。落ち着くのです」
優しく諭すその声に、アムルはいやいやと首を振った。
「抑え方がわからない! 傷付けたくない!
「いい子だ。落ち着いて。息を吸って、ゆっくりと吐きなさい」
「その力は、良くないもの、正しくないものです。わかりますね?」
アムルはこくりと頷いた。
わかっている。これは、世界に抗う力。
正しいものに、逆らう力だ。
「手放すのです。さあ、心を開いて」
「だめ……手放したら、パンドラを、パンドラが、」
言葉にならない思いを汲み取り、至聖導師はパンドラを振り返り、アムルを見、頷いた。
「優しい子ですね。友達が
パンドラが息を呑んだ。
自分の存在が、
アムルをここまで追い詰めたのだと気付いて。
パンドラは膝から崩れ落ちた。
白衣者が慌てて支え直す。
「どうして、かみさまは、世界をこんな風に
「それは、神のみぞ知ることです」
至聖導師の言葉に、アムルは顔を歪めた。