アムルが震える脚で、ゆっくりと
アムルは、崩れ落ちたその身体を抱き起す。
重たい。
命の零れてしまった身体。
――亡骸。
「……っ」
声にならない嗚咽が漏れだす。
手を差し伸べてくれた優しい人。
アムルをただの少女として見てくれた人。
「お前が殺したのだ」
冷酷な声音。容赦なく、非情に、厳しく。
イアサントはアムルを弾劾した。
一片の迷いすら無かった。
パンドラを支えた
恐怖だろうか。怒りかもしれない。
「
告発する厳しい口調に、イアサントは冷たい一瞥で答える。
「誰が信じるというのだ。
すぐ横で、白衣者が息を呑んだのがわかった。
パンドラは混乱する頭でなんとか状況を理解しようと努めた。
だが理解が追い付かない。
何が。
どうして。
こうなった……?
「場が血で穢された。それをも祓おう」
パンドラの混乱を他所に、イアサントは今も立ち上がれない
「聞こえなかったか? 立て。
パンドラは目を瞬いた。
アムルが
至聖導師が説得して、でも、刺されて……、違う、刺したのはイアサント――
これは、何?
アムルはそっと、
自身の外套を折り畳むと、枕のように頭の下に敷く。
そうして、ゆらりと立ち上がって。
イアサントを睨み付けた。
紫水晶の双眸は濡れ、ぎらぎらと燃えるように輝いて。
「許さない」
低く呻くような声が唇から零れた。
呪いの言葉。
アムルを取り巻く黒い力が一層揺らめき、緑色に
亜麻色の髪が逆巻いて、天を衝くようだ。
「パンドラを返せ。渡さない――お前なんかに、渡すものか!」
アムルを中心に、渦巻くような圧迫が押し寄せた。
イアサントはパンドラを振り返る。
「良いのか、
黒い力に煽られて、白い法衣をはためかせ。
イアサントはそれでも揺らがずそこに立っていた。
「もう一度命じる。
神徒のひとりがふらりと立ち上がり、アムルへと切っ先を向けた。
同時に、白衣者のひとりがパンドラへと視線を向けた。
「……え」
パンドラは目を瞬く。
「魔を掃討せよ!」
叫んだのは神徒。
イアサントではない。
「なんで」
パンドラを支える白衣者が、別の白衣者に引き剥がされ、露台に転がる。
そのまま強く腕を引かれ、立ち上がらされ。
パンドラは呆然と目を瞬いた。
今まで信じていたものがガラガラと音を立てて崩れ去っていく。
世界が、壊れていく。
残ったのは、瓦礫だけ。
白衣者がパンドラに囁く。
「あなたは清浄なる者。
さあ、と白衣者はパンドラの背を押した。
「