大樹の周囲に漂う蛍のような光は、いまや星々のように辺りを照らしている。
殺気立った
アムルは一歩ずつ後退せざるを得なかった。
「止めて! 止めてよ!」
パンドラが叫ぶも、聞く者は居ない。
イアサントは冷徹にその場を
本当はパンドラにもわかっていた。
アムルは
「異端は排除せねばならぬ。
それは
先程のイアサントの言葉は、ある側面から見れば、揺ぎ無い真実だ。
エクレシア・ヴィヴァルボルムの教えに
受け入れるのは異端。
その行為は、異端と
そう主張されれば……認めざるを得ないだろう。
大きく目を見開き、パンドラはイアサントを睨み付けた。
イアサントは平然と受け止める。
――世界が壊れてもいいのか?
そう問い掛けているように、パンドラには思えた。
とても冷たく、けれど平らかな眼差しだった。
動揺の一欠片さえ見えない。
パンドラは
イアサントは面白そうに目を細める。
パンドラはイアサントを真っ直ぐに見つめ、誇り高く宣言した。
「わたしは
わたしはわたしの意思で、世界を守るわ」
誰かのためじゃない。
アムルの
わたしが。
壊したくないと、思ったから。
アムルに視線を向け、パンドラは愛おしそうに微笑んだ。
「生きてね」
声が届く筈も無いのに。
アムルは振り向いて、その目を大きく、限界まで見開いて。
パンドラに手を差し出した。
「ごめんね、アムル。大好き」
ここから逃げて。
生き延びて。
そして。
パンドラは
「あまねく黎明の
我が心
星々もまた 沈黙を
囁き
深き嘆きも虚ろなる叫びも
風に
いと静けき
「待って!」
アムルの悲鳴が響いたけれど、パンドラは詠唱を止めなかった。
そして
「雫となりて落つる祈りを
流転の内に光は宿り
さすれば今 我は祈る
願わくば この声 風と共に在れ
空と大地とを結ぶ大樹に溢るる
何本もの幹が互いに絡まり合い、太く重なって、天と地を繋ぐように、遥か彼方まで伸びている
その内の二つが緩やかに
光りが溢れ出る。
そして。
パンドラは一度だけ振り返り、アムルを見る。
少し意地っ張りで、少し誇らしげな、
洞は閉じた。
光りは収束し、
まるで何事も無かったかのように。