「ここが聖剣の神殿か……すげえ人だね」
「……混んどるな」
想像していた雰囲気とは、だいぶ違っていた。
だがその隙間に突き立てられた聖剣の横には立派な階段が取り付けられ、誰でも簡単に手が届くようになっている。
老若男女問わず、聖剣の柄を握っては、びくともしない剣を前に満足げに降りて来る。
どうやら抜けないのが前提の見せ物のような扱いらしい。
都会の人間の考えることはよくわからない――青年はそう思った。
「出直す?」
「いや、並べばよかろう。ロイク、お前も並ぶんじゃ」
そう言うと祖父は、すたすたと列の一番後ろに並んだ。
最後尾はこちら、と書かれた看板を持っているのは、服装からしてヴィヴァ教団の
ロイクの村では崇められる存在だというのに、都会では看板持つのか……。
なんとなく感慨深い思いに打たれたロイクだった。
「大変ですな、盛況で」
「ありがとうございます。どうぞ拝んで行ってください」
祖父が看板の聖詠者に会釈をし、聖詠者も柔らかく頭を垂れる。
どうにも神秘的とは言い難い光景ではあるのだが、閑散としているよりは良いのかもしれない。
「抜けなーい」
階段の上ではまだ幼い少年が、全体重を掛けて聖剣を引っ張っている。
が、当然聖剣はぴくりともしない。
「危ない!」
ロイクは咄嗟に飛び出すと、空中で少年を抱きかかえて着地した。
拍手喝采。
軽業師のように見事な身のこなしだった。
「お兄ちゃん、ありがと!」
「気を付けろよ、坊主」
「はーい、ごめんなさい!」
「ありがとうございます。まったくこの子は……」
「いえいえ、お気になさらず」
階段の上では、祖父が聖剣の柄を触ってはしげしげと見詰めている。
撫でたり掴んだり、刃の部分に指先を滑らせたり。
うっとりと聖剣を愛でている。
「いつ見ても美しいのう……」
「爺さん、抜かねえのかい?」
「あ、すみません。うちの祖父ちゃん鍛冶師なんです。剣に目が無くて
ほら、祖父ちゃん、順番だから。みんな待ってるから」
ロイクが促すように、祖父の肩に手を置いた。
その時。
どくん――
聖剣がひとつ、脈動した。
ロイクの祖父が目を
看板を持った聖詠者が驚愕の表情で振り返った。
列に並んでいた剣士らしき数人が顔を上げた。
他の業務をしていたであろう聖詠者も、あたふたと聖剣のもとへ走って来た。
「どしたん、祖父ちゃん」
硬直したきり動かない祖父を、心配そうに伺い――ロイクはその視線の鋭さに思わず息を呑んだ。
祖父はゆっくりとロイクを振り返る。
その眸は何かを見定めるような光を宿していた。
「――ロイク」
「は、はい」
祖父はロイクの手を取ると、聖剣の柄へと導いた。
そして、しっかりと握らせる。迷いなく。
「抜くのじゃ」
「いや、抜くったって――」
ロイクは軽口を叩こうとして、できなかった。
聖剣が、また、脈動する。
光が溢れた。
神殿内はまるで真昼のように明るく照らされる。
導かれるように――。
ロイクは、するりと聖剣を引き抜いていた。
何の抵抗もなく。
まるで剣の方からロイクの掌に、飛び込んできたように。
聖剣はしっくりと、ロイクの右手に収まっていた。
からん、と看板が床に転がる。
は、と誰かが吐息した。
半ば呆然と右手の聖剣を見、祖父の顔を見、ロイクはまた、聖剣へと視線を戻した。
抜けた。
神殿内に、震えるような沈黙が満ちた。
誰かが悲鳴のような歓声を上げて。
「勇者だ――っ!!」
それを皮切りに歓声が怒涛のように巻き起こった。
「見たか!? あの子だ!」
「見た! 見た見た見た!!」
「抜けたぞ!! 本当に聖剣が抜けたぞ!!」
「選ばれし者だ!! 勇者だ!!」
その場にいた誰もが、叫び、泣き、笑い、場は興奮に包まれる。
神殿は歓喜と祝福に揺れていた。