「問いを
声なき声が空間に満ちる。
「風は答えを持たぬ。風は問いを運ぶ。
だが、忘れられし祠を見つけ、
名を呼び、ここに至ったその意志。
それこそが、問いの核である」
ゼフェリオスは三人を包むように風を巡らせる。
「この地に残るは、忘れられし
応えを求めず、ただ問いとして、
風に託された祈りの残響――」
祠の床に、風の紋がゆっくりと浮かび上がった。
語られぬ声に 耳を澄ませよ
名もなき願いを 風に乗せよ
記すな 囚わるるな ただ 祈れ
風が届く そこに 問いは芽吹く
その瞬間、三人の身体に柔らかな風が触れ、紋章が浮かび上がった。
ロイクの右手に、旋風を象る三重の円環が。
アムルの額には流れるような螺旋の光紋が。
そして、パンドラの左手には蝶の羽のようにたなびく風紋が――。
ゼフェリオスの声が静かに告げた。
「
ただ、声なき願いを問いとして託し、
風に乗せよ。風は答えを語らぬ。
ただ、問いを運ぶために在る」
紋章が淡く輝き、そして胸の奥に静かに刻まれた。
祠の外へと三人が歩み出ると、風が後ろからそっと背を押す。
ロイクの襟元の銀のブローチが、一瞬だけ風を映して揺れた。
「……問いは、ここから始まるんだね。ここに来れば、何かがわかる気がしてた。でも、違った。ここからが、始まりなんだ」
アムルが微笑む。ロイクは頷く。
「風は導いた。でも、答えるのは……俺たちだ」
パンドラが目を細める。
「風が言ってる。次に向かえって」
アムルは目を瞬くと、許可証を取り出した。
そして、少し困ったように眉を寄せる。
「
「一旦、許可証を貰いに
ロイクは肩を竦めた。
「真面目だね、あんたがたは。そんなもん、帰ってから伝えれば良いだろう。手間だぞ。学び舎に戻ってから、また旅立つのは」
聖剣が震える。
「私は次の目的地が示されている内に、このまま進むことを推奨します。ゼフェリオスの意思が後押しをしてくれるのは、これが最初で最後の、機会かもしれません」
アムルとパンドラは顔を見合わせ、頷き合う。
「啓示に従うことと、運命に流されることは違う」
「自分の足の向く方へ、進む」
二人は手を繋ぎ、ロイクを振り返った。
「行くわ」
「このまま、ゼフェリオスさまが導いてくれる先へ」
「よし。それなら出発だ」
ロイクは頷いて、二人に手を差し出す。
アムルとパンドラは頷いて、その手を取った。
三人が手を取り合った瞬間、風が最後の囁きを残すように周囲を吹き抜けた。
まるで「応援している」とでも言いたげな、やわらかく、あたたかな風。
その風の中に、かすかに言葉のような気配が混じっていた。
「……問いを、燃やせ……」
ロイクがふと空を見上げる。
空には雲が流れ、南の地平が霞んでいた。
「次は、火か……」
アムルが手のひらにそっと風紋を浮かべながら、囁くように言う。
「祈りは、声じゃないって……ゼフェリオスさま、そう言ってた。でも、わたし……今度は、自分の声で、伝えたいの。誰かのためじゃなく、ちゃんと、わたしの祈りとして」
パンドラがアムルの手を取る。ロイクも、静かにその輪に加わった。
三人で、輪になって。
見つめ合う。
「風が問いを届けたなら、次は……応える覚悟が要るな」
「うん。今度は、“祈り”の火に触れる旅。……自分の中にあるものを、もう隠さないために」
三人は静かに歩き出す。
その足音は、風の祠から離れ、ラヴァリス平原を越えて――
エラディア
遠くで、草原を焦がすような陽光が、地平線に滲んでいた。
風が去り、熱が目覚める。
次なる「問い」は、炎の中に。
――火の神、カルメルザの眠る祠へ。