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第3話 入学

「……ルナ、ちょっとスカート短すぎないか?」

「そう言われてもこれ制服だし。あとこのくらいの方が可愛いもん!」

「可愛いことにはめちゃくちゃ同意なんだけど、というか同意しかないんだけど。こう……素足で太ももまで見えそうというのは……そうだ! タイツ、タイツとかどうだ!? 今日はちょっと冷えるみたいだしな」

「あ、そうなの? ならタイツは履いていこうかな……」


 入学式当日。

 シュラインド家の屋敷のリビングには、新品の制服に身を包んだ俺とルナがいた。朝食を摂ったあとの最後の身支度である。

 いや、野郎の身支度などはどうでもいい。ルナを最高に可愛い状態にするための、とも言えよう。

 洗面台の前で前髪をいじるルナと、それを見守る俺と両親。いや、見守るというか見惚れていた。


 ふわふわなブロンドの髪の毛は頭の上から耳にかけて編み込まれていて、ゆるくウェーブのかかったサイドテールでまとめられている。入学式ということもあって普段より気合の入ったその髪型は、ルナの童顔をよりかわいく引き立てていた。

 黒とグレーを基調としたブレザータイプの制服にあるワンポイントの金色はとても可愛らしく、膝上丈でチェック柄のスカートも、ルナは完璧に着こなしていた。

 つい先日に見た女神より女神してるわ。


 隣に立っていた父さんと母さんが俺に視線を向けていることに気づく。


「(……サエルよ。やっぱうちのルナ可愛すぎないか?)」

「(父さん。俺ルナを守れるか不安になってきたよ)」

「(サエル、もし派手にやってしまでたらちゃんと私たちに言うのよ? ルナのためなら何だってするわ)」

「(分かったよ母さん。絶対に性欲の化身は近寄らせないから)」


 もはや俺たちに言葉など要らなかった。『ルナを絶対に守る』。その意思さえあれば、目線で通じ合えるのだ。

 しかし、ただ男から守るだけではいけない。


「──よしっ! じゃーん! お兄ちゃん、パパ、ママっ! どーおっ?」

「「「めっちゃ可愛いよ! モテモテになっちゃうかもね!」」」

「えへへー! でしょっ!」


 あらぬ心配をさせず、この笑顔も守り抜くことこそが、女神が俺たちに託した使命なのだろう。



 ◇ ◆ ◇



『入学式』

 快晴のもと。達筆にそう書いてある看板が立てかけられた校門を家族四人で通った。

 案の定というべきか、ここに来るまでの道中でルナは大量の視線を集めていた。男女問わずではあったが、男の下心しかない視線は最悪だった。

 侯爵家当主が隣にいても不埒な視線を送ってくるとは、恐れ知らずなのかルナが魅惑的なのか。おそらく後者だろうな。

 ただ、その都度俺たちが睨みを利かせたおかげもあって、ルナは何も知らず楽しそうに登校していた。


 しかし、問題はここから。

 俺は高等部でルナは中等部と、校舎が違う。もちろん入学式もバラバラだ。

 そして、生徒席と家族席はそれなりに離れている。


 そう、ルナがフリー状態になってしまう……っ!


(だが、問題はない)


 ルナの首もとにかけられたネックレスにある宝石が、太陽の光を反射してきらりと輝く。

 もちろんただのネックレスではなく、俺の手作りのネックレス型魔道具である。

 効果は……語れば入学式に間に合わなくなるので省くが、まぁルナは安全のはずだ。



 入学式が終わった。

 今は家族全員揃って学校の中を見学している。


 目を輝かせながら見学をしているルナを見ればわかるように、男を追い払うことには見事成功した、と父さんから聞いた。

 ルナに渡しておいたネックレスはなにか危険があったときに俺の魔力を消費して効果が発動するもの。そのため、ネックレスの効果が発動したかどうかはすぐに分かる。

 入学式中は計3回発動した。多いと取るか少ないと取るかは人によるが、俺からすればあの人間離れした可愛さに3人やられなかった、という感覚だ。いや、嬉しいことなんだけど。


 発動した効果は2つ。

 1つは、ルナのすぐ近くに座っていた男爵家の次男に発動した。ルナに対しての情欲を察知したら発動するように設定していた『激しい腹痛に襲われる』という効果が発動していた。

 なので、あとでこの獣は捻り潰しておこうと思う。

 もう1つは、少し離れたところに座っていた男子生徒2人に発動していた。視線が過度に送られていた場合のみ『眠気に襲われる』という効果が発動するようにセットしていたものだ。

 視線だけでアウトというのは俺も引っかかってしまうくらいなので、効力は軽めだし2人も許そう。


 今日の日程は入学式だけで、クラス決めなどはまた明日。

 入学式が終わった今は自由時間で、俺たちは校内を見学しているという感じだ。


 それもさっさと終わらせ、午後2時を刺そうかという時にはもう帰路についていた。


「それでね、それでねっ!」

「おいッッ!!」


 ルナが楽しそうに今日の出来事を話していると、後ろから幼気のある男の声に呼び止められ、俺たちは振り返る。

 そこには1人の男子──って、こいつは…………


「あれ、キランくん?」


 キラン・エルワルド、12歳。

 鮮やかな赤に染まった髪の毛があちこちに跳ねているが、年齢のわりに背が低い。かしこまった服を来ているが、身長のせいもあって『近所のやんちゃなガキ』程度にしか見えない。

 しかし実は、エルワルド男爵家の次男なのだ。だが、見た目通りやんちゃしているらしく、周りの貴族からの評判は悪い。

 ちなみに、ルナに対して情欲が湧いていたのもコイツ。だから俺は今すぐにでも殴りかかりたいが、街中でそんなことをしたらシュラインド家の信頼問題に関わるのでぐっと堪える。


「キランくん。どうしたのっ」


 そんなことは知らないルナは、花のエフェクトがあたりに出ているのかと間違えてしまうほどの満面の笑みでキランに尋ねる。

 すると、キランは一度ビクッと震え、一歩後退りした。


(……は? ルナの笑顔を見る権利を与えられたというのに一歩後退りだと? こんなに可愛い生物、もっと近くで見たいだろ? なんで一歩後ろに下がるんだ? もしやこいつ……女子になら誰にでも情欲が湧くけど、ルナには怯えて────)


「お、覚えてろよ──ッッッ!!」


 俺が順調に怒りをつのらせていると、キランは何も言わずに回れ右して走り出してしまった。


「キランくん、なんだったんだろう……?」

「大丈夫よ。ルナは気にしなくていいの」


 ふっ……逃げたなら今回だけは許してやる。次はないと思うんだな。


「それはそうと、サエル?」

「ん? どうしたの父さん」

「その空中に浮いてる魔法陣、そろそろ仕舞おうか……」

「え」

《》

 父さんに言われて俺の周りを見渡すと、そこには大量の魔法陣が。あたりの通行人が何度も俺を見ていたことにはずっと気になっていたがこれが原因だったのか……。

 すぐに魔法陣を消し、俺たちはそそくさと家に帰った。

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