シエル学園。12歳であるボク──キラン・エルワルドが通ってあげる学校の名前だ。別にボクほどの人物であれば『高等部』からでも良いと思ったけど、「エルワルド家の信頼問題に関わるから」と頼まれてしまったので仕方なく行ってあげてるだけなんだけど。
とはいえ、せっかく通うのだから『キラン・エルワルド』の名を轟かせるための手段の1つとして有効的に使わせてもらおう!
入学式当日。
まるでボクの入学を神が祝福するかのような晴天だった。しかし、それは無駄に暑く感じさせてくるのであまり「良い」とは思えなかったが。
シエル学園の校門をくぐる。右に行けば『中等部』があり、左に行けば『高等部』がある。入学式の会場も然りだ。
「キラン。くれぐれも行動には気をつけるように」
「このボクが変なことするわけがないだろ! ほら姉ちゃんは早く高等部の入学式に行くんだな!」
「……セバス、何かあったら無理やりにでもすぐに止めてあげてね」
「分かっておりますぞお嬢さま」
姉ちゃんが執事のセバスに余計なことを吹き込んでから、高等部の入学式会場に向かって行った。
ったく……ボクが何かやらかすなんて、万が一にでもあり得ないことなのにな。
姉ちゃん──アルシア・エルワルド、15歳。
父さんから遺伝した美麗な銀髪は腰に届くほど長く、今日はそれをポニーテールに結っていた。
凛々しい顔立ちにパンツタイプの制服は、このボクが拍手を送ってやってもいいほどには似合っていた。
くくっ、まぁいい。これでやっと邪魔者の姉ちゃんと離れることが出来た!
待ってろシエル学園! ボクの名声を世界に轟かせるための足踏みになってもらうぞ!
「坊ちゃま。どうか変なことはしないでください」
ノリの悪い執事め。
◇ ◆ ◇
入学式の会場に入り、これからボクが成長するためのサンドバッグになる予定の同級生どもと話しながら開始を待っていると、突然会場全体に緊張が走った。
(どうしたというのだ?)
緊張が走っている人々をよく見ると、会場の入り口付近をじっと見つめている者と、あからさまにそこから目を逸らしている者の2パターンに、綺麗に分かれていた。
入り口で何かあったのか? 疑問に思ったボクも周りの奴ら同様に振り返ってみる。
「ッ──!!」
会場に緊張が走った原因を見つけると、ボクも反射的にばっと目を逸らしてしまう。
シュラインド侯爵家の当主がいたのだ。
現在ハーライツ王国に存在する貴族は多くいる。その中でも、2大公爵家と4大侯爵家は一目置かれている。
その4大侯爵家の1つが、シュラインド侯爵家なのだ。
そんな高尚な貴族の当主様が、娘が出席するとはいえ、たかが1つの学校、それも入学式に出席するなど──異常。シュラインド家ともなれば、暗殺者どもから命を狙われやすい立場だというのに、それよりも娘の入学式を優先したということなのだから。
しかし、ボクが思わず目を逸らしてしまったのはそれだけじゃない。
(な、なんだ……!? なんなんだあの女は!)
可愛すぎる……っ!!
あれが同じ人間で、しかも12歳だというのか!? いっそ、「女神です」と言われた方が納得できるほどの美貌の持ち主だったぞ!?
たしかに、風の噂で「シュラインド家の子がものすごい美人」と聞いたことはある。しかし、4大侯爵家の令嬢と男爵家のボクが関われるわけもないので、その噂もどこかで肥大化したデマだと決めつけていた。
……訂正させてくれ。事実すぎるではないか……っ!
「おはよっ! ね、お名前なんて言うの?」
「へあっ……!」
な、なんということだ……ボクの隣の席にあの女神が降臨したではないか……っ! それだけでなく、話しかけてきた……!
こ、これは……もしやこの女はボクに興味があるということなのか? ふ、ふははは! そうかそういうことか! こんな女神も、ボクの魅力にら勝てないということなのだな!
「ぼ、ボクはキラン! エルワルド男爵家のキランだ!」
「へぇ〜っ! キランくんって言うんだ! 私はね、ルナ・シュラインド! よろしくねっ!」
「あ、あぁ! よよよよろしくな!」
ほ、本当にあのシュラインド家の令嬢なのか。
しかし……「よろしくね」ということはやはりボクに興味津々ということか!
そう思い、改めてこの女神を見る。
まだまだ幼い顔は、神様が直接絵に描いたと言われても信じられるくらい整ったもの。
そして──12歳とは思えないほど豊満な女の体つき。出るところは出て引っ込むところは引っ込む。
それに……すごくいい匂いがする。今すぐにでも抱きついてもいいのではないだろうか? これはボクを誘っているのだろう?
「──ッ!」
ま、マズい……! ぼ、ボクの
くそっ……全身でこんなに誘惑してきおって!
……コイツ、ボクに興味があるんだったんだよな? なら…………今この情欲に任せて襲ってしまっても、なんら悪いことはないのではないか?
「……ア"」
「? キランくんどーしたの?」
「い、いや何でもないぞ……」
なぜか急にとてつもない腹痛が! しかし、入学式も同時に始まってしまった。入学式をすっぽかすわけにもいかないし、ここは我慢しないといけないのか……! く、苦しい……。
するといつの間にか、
◇ ◆ ◇
入学式が終わった。
忘れ物をしたと嘘を言って姉ちゃんとセバスには先に帰ってもらった。
「いや嘘ではないのかもしれない。なぜなら……これからルナはボクのものになるのだからな!」
走る。ただルナをめがけて走った。
シュラインド家の方向に向かっていると、やっとあのブロンド髪が見えた。
「おいッッ!!」
気付いたときには呼び止めていた。周りのことなど気にする前に声が出ていた。
そして──後悔した。
おい待ってくれ……シュラインド家当主様の夫婦に長男の男もいるじゃないか! ま、マズい……これではシュラインド家に対して無礼を働いたみたいではないか……って!
(ま、待て待て待て! おい長男!? その魔法陣は……ボクを殺す気ではないか!?)
「お、覚えてろよ──ッッッ!!」
ボクは立ち去った。
こ、今回は見逃そう。どうせ明日から学校で2人きりになるのだからな!