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第41話 話し合い2

(新星歴5023年4月30日)


かなり深刻な内容に、皆の表情が硬い。

気分を変えるよう俺はミナト達に頼んで、皆の飲み物を新しく入れてもらった。


美味しい紅茶と甘い焼き菓子で少し気分が和む。

まだまだ話はつづく。


※※※※※


「ネルに出会う直前に、先ほど話したような危機が実際に訪れていたんだ。茜が転生してきたときに、一緒に送られてきた魔法石によって、俺と同じ力を持つ『想いの欠片』が世界中にばらまかれた」


俺は紅茶でのどを湿らせながら皆に視線を向ける。


「すぐに神々が対応した。俺の『想いの欠片』は勤勉で、せっせと世界から俺の魔力を蓄え、クリスタルゴーレムもどきとロックリザードもどきが大量に発生したよ」


「倒せる!」

「コクコク」


ロロンとコロンが同時に反応する。

興奮したような顔で、先ほどの表情が一瞬脳によぎる。


俺は二人に手を伸ばし優しく頭を撫でた。

二人は幸せそうに表情を緩めた。


「普通の場合なら、そうだな。ロロンとコロンは強い。…だけど俺の力を取り込んだ奴らは想像以上に強かった」

「魔法は効かない。物理は当時火の神アグアニードと水の神エリスラーナくらいしか通用しなかった」

「権能は最大効果を至近距離で発動しないと弾かれた」


ネルが絶句する。


皆が呆然とし、執務室には重苦しい沈黙が流れた。

どれだけまずい状況だったか察してくれたようだ。


「まあ、そうはいっても神々は優秀だ。ほとんどの欠片は回収されたんだ」


ふうーっと誰かが息を吐いた。


「だが想定外が発生した」


俺はムクへ視線を向けた。ムクは一瞬怯む様な表情をしたがまっすぐ見つめ返してきた。


「ムク、この星にある禁忌区はどのくらいあるか把握しているか?」


「…レイノート大陸の禁断の地、モレイスト地下大宮殿、魔境ガルンシア島の3か所と記憶してございます」


「流石だムク。まああと二つあるが、これは俺しか知らないしたどり着けないので知っているものは神々でもいない」


「その魔境ガルンシア島で最後と思われる欠片が発見された」


「俺がかつて戯れで3体創造した伝説の竜の王『バハムルト』の1体が吸収し、世界が滅ぶ可能性が高まったんだ。奴は通常理解の外の存在だ。それが俺の力を吸収した」


ロロンとコロンが悲鳴じみた声を上げる。


「っ!?だめっ!!あれは近づいちゃだめ!あれは…むり!」

「…前の長老、ブレスで一撃」


マジか。


同じプライドの高い竜種だもんな。

挑戦した奴いたんだ…


ロロンとコロンの変貌に、皆が顔色をなくす。


「ゴホン。まあそんなわけで本当に危なかったんだよ」

「俺が行ければ良かったんだけど、対峙すると魔力を吸収されるため対応する事ができなかったんだ。そして6柱最強のエリスラーナと権能的に最適のダラスリニアに任せた」


「結果、闇の神ダラスリニアが殺されかけた。まあエリス、水の神エリスラーナがブチギレて瞬殺してくれた」

「奴は目覚めた直後で俺の能力をほとんど使えてなかったのが幸いだった」


 俺は再度紅茶をすすり、少し遠い目をした。

ネルはそんな俺を見て呟くように問いかけてきた。


「そんなことが…わたくしの知らない光喜様の過去…少し切ないです」


そんなことをつぶやく。

ああ、ほんと、マジ可愛い。


俺はそんなネルを見つめながら問いかけた。


「ネル、今の俺はどのくらいの強さだ?」

「…200年前の5割ちょっと…でしょうか」


「そうだな。今の俺は200年前の半分くらいの力だと思う。だがあの時の俺は、おそらく今の20倍の魔力量を保持していた」


「!?っ20倍?!!!」


全員が色めき立つ。

ナハムザートは思わず天を仰ぐ。


「そんなの、この世界で、誰もどうしようも出来ないじゃないですか?…えっでも…大将?…どういうことです?…だって…えっ?…200年前は」


「余りに隔絶した存在は、普通の生活はできないんだ…だから俺は、ある方法で存在値を大幅に落としたんだ」


「いつか巡り合う運命の人、ネルと会うために。そして愛すべき大切な仲間たち、お前たちのことだ…一緒に暮らすために。悲願を果たすために」


ぽつりと、涙ぐみながらミナトがこぼす。


「ぐすっ、光喜様は、そこまでネルさんのことを…私たちのことを」


他の皆も一様涙をこらえるよう顔でうつむいていた。


「もちろん存在値を落とす前に、俺たちはこの星を隅々まで調査した」

「俺の能力と神々の権能を最大限使ってな」

「それで解決したと思っていた。いや思いたかった」


「数年経過し問題がなかった」

「それで俺はグースワースを創造し、神々と様々な契約を行い存在値を落として、世界を回る旅に出たんだ。茜と一緒に」


「そしてネルと出会えた」


「もう忘れるくらい長い時を俺は一人でいたんだ」

「このくらいのわがままは可愛いものだと思うんだがな」


「…本当に長かった…本当に…」


俺は遠くを見つめるように、あの頃のことを思い返した。


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