「とりあえずこの子を安全なところに送りたいが時間がない…エリス…
空間がきしみ魔力が溢れる。
即座に転移してくるエリスラーナ。
「ん、来た……誰?」
「詳しい事情は後だ。回復を頼む。もしうなされるようならレアナに頼んでくれ。…ロックは解除した。そうだな、客間にでも寝かせておいてくれ。頼むぞ」
「…………………」
「ん?どうした?悪い、時間が惜しい」
「ん、わかった。浮気だめ」
「!っ、ちがっ…いい、頼む」
俺にジト目を向けながらも、どうにか彼女と転移していくエリスラーナ。
その様子に
「しょうがないんだ諦めろ。大丈夫だ。可愛いから」
「……やって」
「ん?」
「光喜さんがやって」
「!???いやいやいや、無理だろ」
「むうううううう!!!」
「解った、何でも言うこと一つ聞くから。頼む時間がやばい」
「輝く…瞳は……希望の…光…くっ、まとうピンクは…愛の証…みんなの…アイドル…ズッキュン…キュン…魔法少女…キラリン茜…みんなのはーと……くぎづけよ♡」
『茜の周りに七色の光が集まる。
顕現する希望の光、魔法少女キラリン茜、ここに爆誕!!!』
何故か流れるナレーション
ピンクのひらひらが過剰に施された某魔法少女も真っ青な派手派手な衣装に身を包み、可愛らしいハートが付いた杖を手にして、赤を通り越して白い顔で死んだような目をした茜がつぶやく。
「いこう…はやく……おわらそう…そして…アースノートさんをぶっ飛ばす!」
※※※※※
先ほどの武舞台の周辺には地獄が溢れかえっていた。
おびただしい数の死体が無残にも打ち捨てられ、辺りは血の匂いで充満していた。
それでも狂ったように押し寄せる群衆たち。
ダラスリニアの眷属とみられる数名の魔族が多くの傷を負いながらも必死の働きにより、どうにか最悪は伏せベていたが…
「80…いや100人くらいか…犠牲者は…クソッ…茜、頼む」
茜は武舞台の少し空いているスペースに立つと、可愛らしいきめポーズをしながら詠唱を始めた。
「みんなのアイドル茜ちゃん♡悪い子たちにはお仕置きしちゃう♡いっくよーえいっラブストーム!!」
茜を中心に、まるで光が生まれるように七色の光が波紋のように次々と広がっていく。
激しく暴れていた群衆たちの動きが止まってきた。
さらに茜はポーズをとる。
両手をクロスさせ、杖を持つ手は小指を立て、もう片方は顔に向けてピースサイン……顔が真っ赤だ。
『ウインクが足りません。発動しません。もう一度』
突如鳴り響く警告音
絶望の表情を浮かべる茜
また動き出す群衆たち
「茜、がんばれ!もう少しだ」
めっちゃ睨まれた。コワッ。
両手をクロスさせ、杖を持つ手は小指を立て、もう片方は顔に向けてピースサイン。
顔にはかわいいウインク付き。
「ラブストーム・極み♡」
刹那巻き起こる七色の激しい衝撃波。
キーーーーンと空気を切り裂く音が鳴り響いた。
暴れていた群衆が、気を失い倒れた。
もう誰も動いていない。
何故か茜を見つめるギルアデスが「…可憐だ……」と呟いていた。
※※※※※
茜の活躍により、ウッドモノルードの騒動は幕を閉じた。
眷族による調査の結果『移動する猫族旅団イミト』の荷物の中に、例のオーブが4つ確認された。
団長のニキットが最後まで抵抗したが、ギルアデスの説得によりどうにか譲ることを約してくれ、茜に消去してもらった。
当然対価として金貨40枚を渡した。
俺の正体に気づくと、これ以上ないほど土下座され、さらにダラスリニアが闇の神だと気づき気を失っていた。
副団長のルニルが「うちの団長が無礼を。大変申し訳ございません。この金貨は不要でございます。どうか私の首ひとつでお許し願いませんでしょうか。なにとぞ、なにとぞ」
と言ってくるので、条件を付けた。
「もういい。気にするな。だがそうもいかないのだろう?ならば取引だ。マルガシュ!」
「っ!はっ!」
「お前はこいつらと一緒に旅をしろ。そして監視だ。良いな?ダラスリニアとギルアデス。かまわないな」
「……うん…いい」
「はっ。賜りました」
「そういう事だ。こいつを使ってやってくれ。そこそこ強い」
「マルガシュ、よろしく頼む。期待している」
「っ!!!ありがたき幸せ!!」
一応俺は物凄く偉い。
きっちり形は作らなければ示しがつかない。
「金貨はこいつの受け入れ料として使ってくれ。俺からは以上だ」
移動する猫族旅団イミトの中でもゴタゴタがあったらしい。
バナーダという男が数人刺して団長のニキットに殺されたそうだ。
でも、もともと不満を持っていたが、ここまで直接行動したことはなく、今回事態を引き起こしたオーブの恐ろしさは、皆が認識した。
ハイエルフ族は今回の事件で、長老を始め数名が命を落とした。
最終的に里を救った茜が『愛の女神の御使い様』として語り継がれていくらしい。
……茜が死んだような目をしてたっけ。
俺が連れて行った『ネリファルース・ツワッド嬢』の身柄は、俺に預けるそうだ。
一度汚されたとの認識で、里には置けないとのこと。
気に入らないがこれがこいつらの信じているしきたり……
おとなしく従うことにした。