一段落し、ギルガンギルの塔へと帰還した俺と茜。
俺は帰還してすぐに保護した彼女に会おうとしたが、アルテミリスとモンスレアナに止められた。
色々と酷いダメージを受けている事、男性には見せられない状況だという事、魔力を抑えることが出来ていない今の俺では合わせられないとはっきり言われた。
俺は焦っていたのかもしれない。
認識できないほどに。
そして数日が経過した。
※※※※※
帰還直後研究室に逃げ込んでいたアースノートは茜から色々と説教を食らったらしく、珍しく暫くおとなしい。
まあ、俺が消したプロジェクターを密かに作り直しており、当然のように上映会を開いていた事がバレ、再度激怒されたことは言うまでもない。
「かわいいです。もう茜は天使なのでは?ああ、かわいい♡」
と、アルテミリスが若干壊れる事態になったが…
まあ、うん。
今回の事態を受けて、茜の重要性は非常に高まった。
アースノートと協議の結果、変身や詠唱は不要となり、この世界でも認識出来る術式に変換され、問題なく発動できるように改変した。
ただ本当に恥ずかしながら行う方が効果は上がるのは事実で、最悪の場合はまた変身できるらしい。
世界の調査も引き続き各神に指示を出し、さらに厳重に行うようお願いした。
※※※※※
「レアナ、彼女の様子はどうだ?」
今は俺の隠れ家でモンスレアナと対面している。
「相当心にダメージがあるようです。今は安定を施しておりますので眠っていますが」
「強度は?」
「……申し訳ございません…特級です」
「っ!!!…そうか……すまない」
モンスレアナは目を見開き驚いた表情で俺に問いかける。
「ノアーナ様のせいでは…彼女は何なのですか?」
俺はお気に入りの紅茶を飲み、息を吐きだしてモンスレアナに視線を向ける。
「…ハイエルフと魔族のハーフらしい。200歳くらいだそうだ。まあ人間とすれば18歳くらいらしいがな」
モンスレアナは納得しないようだ。
まあ、そういう事ではないことは、俺も承知している。
だが…
「とりあえず起きてからだ。彼女と話をしないと始まらない…ありがとう。調査を引き続き頼…!?」
モンスレアナが涙を流しながら俺に抱き着いてきた。
小刻みに震えている。
押し付けられる柔らかい感触。
儀式がよぎり、思わず顔に熱が集まる。
そして重なる唇。
伝わる想い…
「ん…んん…はあ…」
モンスレアナの瞳には悲しそうな色が宿っていた…
「ノアーナ様は…」
「ん?」
「ノアーナ様は、わたくしたちをお捨てになりますか?」
「なっ!?…」
「……すみません…戻ります」
そういってモンスレアナは転移していった。
少し冷めた紅茶から仄かに湯気が立ち上っていた。
※※※※※
俺は彼女、ネリファルース・ツワッド嬢が休んでいる客間を訪れた。
ほとんど利用のない客間は、リビングと寝室、バスルームにミニキッチンが設置されており、一応生活できるようには作られている。
俺の『聖言』で定期的に掃除は行っているため、快適に過ごせるようにはしてある。
クイーンサイズの清潔そうなベッドで彼女は眠っていた。
時折苦しそうな寝言をつぶやき、涙を流したのか目じりはほんのり赤く色づいていた。
俺はベッドの横の椅子に座り、彼女の顔をよく見た。
サラサラな藍色の髪は驚くほど柔らかそうで。
きっと美しいであろう閉じられている眼には長いまつ毛が非常に整っている。
高くもすっと通った美しい鼻筋。
その下には嫌でも欲情を抱かせるような可愛らしく滑らかな唇。
髪から見える少し長い耳も非常にバランスがいい。
この世のものとは思えない美しい顔だ。
見ているだけで俺の鼓動は速さを増す。
モンスレアナやアルテミリスが世話をしてくれたのだろう。
今は清潔な服を着ていて、大きな傷も癒してくれたようだ。
ここに来たときは混乱していたのだろう。
彼女は相当強いらしく、大暴れして抑えるのに苦労したそうだ。
ボロボロの服に体中には痣があり、刺し傷やひっかかれたような傷も多くあったそうだ。
取り敢えず貞操は守られたようだと聞いて、なぜか安心した。
「俺はやっぱりクズなのだろうな…」
こんな状況にもかかわらず、先ほどのモンスレアナの柔らかい体や、唇の感触に、興奮を覚えた。
彼女なりの決意のキスだったのだろう。
なのに俺は…
「まあ、悩むだけましかもしれないが……」
そんなことを考えながら美しい彼女の顔を見続けるのだった。