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第115話 初めての自分との邂逅

暗い………


何も見えない………


感覚も……ない………


俺?


なんだ?


分からない…………


「おい、寝るな。餌が来るぞ」


……うるさい


「おい、腹減っただろ?起きろ」


…………


「しょうがねえな………ほら」


「っ!?グアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!」


突然魂を引き裂かれるような痛みが俺を襲った。


「これをお前に与えた奴が来るぞ」


「があああ………な、なに?」


「くくく、目覚めたな」


「お前は…」


「じゃあな」


※※※※※


メレルナが使用していた部屋に着く直前、部屋の扉が開け放たれ、凄まじい悪意の波動が噴出してきた。


俺と茜が反射的に結界を発動させ、俺たち8人は何とか第一波を防ぐことができたが、周りで仕事をしていた衛兵や兵士が波動に囚われ、泡を吹き、痙攣し始め、バタバタと倒れ伏す。


「くっ、なんだ?この波動は?!普通じゃないぞ?」


俺は結界の強度を増しながら口にする。


「……スライムだ」

「っ?!茜?」


茜は結界から出ると、突然神器開放を行った。


「神器開放!!」


神器を纏った茜が聖剣に力を籠める。

刃が緑を纏い、琥珀に煌めく。


「みんな、ノアーナ様の結界から出ちゃダメ。わたしが倒す」


すると目の前の兵士の一人に部屋から出てきた小さな黒い光が触れると、壊れた人形のように、体の作りを無視したように、ぎこちなく立ち上がった。

そしてこちらへ視線を向ける。


「っ!?……ぐうっ?……」


濁った銀眼が、俺を捉えた。

俺と同じ顔が、にやりと嫌な笑いを浮かべた。


突然俺の真核に激痛が走る。


「くっ、があああああああああああああああああああああああ……」


俺の漆黒が無理やり引き裂かれるように吸収され始める。

俺は反射的に緑を纏う琥珀の魔力に力を籠める。

それを見たスリーダルとルミナラスが即座に魔術を展開した。


「精霊術!!魔断絶!!!」

「ホーリーフィールド!!!!」


徐々に吸収が止まっていった。


兵士だった奴は俺の顔で、体の表面に粘液を展開しつぶやく。


「ちっ、邪魔しやがって………まあいい。腹は膨れた……」


そして茜に視線を向けた。


「お前、痛かったぞ…」


奴から凄まじい悪意の波動が吹き上がる。

俺は思わずたたらを踏む。


「っ!?あれが……くっ、ノアーナ様?大丈夫ですか?」


ネルが俺を支えてくれる。


「ノアーナ様、くそっ、だめだ、俺たちじゃ……」


ナハムザートが奴から隠すように、俺の前に立ちふさがる。


「極限奥義!!生命転換!!!」


突然ムクから命を燃やす青い炎が立ち上がった!!

モンクの究極の秘奥義だ。

代償は生命エネルギー………


「っ!?なっ……やめっ…‥」


俺が制止の声を出すと同時に……


「はああああっ………極心滅破きょくしんめっぱっ!!!!!」


ムクから神聖な光とともに青いオーラが噴き出し、奴に直撃した!!


「なんだ、こんな……ぐう、ギィャアアアアアアアーーーーー!!!」


魔法だと思いよけもしなかった奴は、突如苦しみだす。


当たり前だ。

命を懸けた、聖なるエネルギーだ。

俺を想う、親愛の力だ。

効くに決まっている!


ムクが俺ににやりと笑い、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

同時に、茜の聖剣が奴に突き刺さる。


「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「はああああああああああああああ!!!!!消えろおおおおおお!!!!!!!!」


茜が渾身の力を籠める。

辺りを濃厚な緑を纏う琥珀の魔力が包み込む。

刃がさらに太くなり、剣先が奴を逃がさないように放射状に分裂し、輝きを増す。


ぶつかり合う悪意の波動と緑を纏う琥珀の魔力。

高まり、ぶつかり合うそれは、目を開けていられないような激しい光に包まれていった。


「いっけえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおーーおおーーーーーーお・・・・     」


そして……


今度こそ、完全に……


奴は。


この世界から消滅したのだ。


……………


※※※※※


奴の波動は宮殿を中心に、半径2Kmほど侵食していた。


茜が奴を倒し、すぐに浄化するまでのおよそ数分だけで、帝国は500人以上の死者を出す地獄が顕現してしまった。


宮殿内部でも80名以上が命を落とした。

琥珀石の近くにいた者たちは何とか一命をとりとめ浄化が完了した。

皇族に死者が出なかったのが不幸中の幸いだった。


そして、最も厄介だったのは、漆黒が誘発した幾つかのケガが、通常の回復魔法を弾いてしまう事だった。


※※※※※


流石に疲弊した茜。

今はルードロッド辺境伯の迎賓館の一室で静かに寝息を立てている。


戦いが終わった後も、何度も魔導兵器による浄化を行っていた。

茜は帝国を救ったのだった。


スリーダルのスキル『魔法合成』により、ルミナラスの転移魔法を強化して、俺たちを運んでくれ、何とか迎賓館にたどり着くことができた。

俺が疲弊した影響で、ギルガンギルへの同時転移許可が申請できなかったのだ。


皆に助けられっぱなしだ。


「ノアーナ様、お休みください。顔色が………」


ネルが涙を浮かべながら俺に懇願してくる。


俺は今、ムクに概念魔法を使い治療をしているところだ。

こればかりは如何にネルの言葉でもやめるわけにはいかない。


「もう…少し………だ、………完了………し……た………」


俺はそのまま崩れ落ちた。

ネルの悲鳴が部屋に響き渡った。


※※※※※


皇都はまるで戦争の後のような悲惨な状況に包まれていた。

突然狂ったように暴れだした市民たち。

口から泡を吹き、そのまま息絶える人も多かった。


暴れだした市民は、無事だった人々に襲い掛かり暴虐の限りを尽くした。

茜の浄化の光が届くまでの数分で、多くの尊厳が踏みにじられてしまったのだった。


※※※※※


辺りは日が落ち始め、だんだんと薄暗くなってきた。


ノアーナたちを送り届けたスリーダルとルミナラスは皇都に急造された負傷者を手当てする多くのテントが並ぶ臨時治療所に足を運んだ。


多くの市民や兵士たちが、傷を負い苦しんでいた。


宮殿の救護班や回復魔法を使える冒険者などが総出で治療に当たっているが、回復魔法が弾かれることが多く、なかなか思うように事態は収束してくれていなかった。


「のうルミナ。お前さんの古代魔法ならどうじゃ?わしの回復魔法はダメのようじゃ。くっ、この程度なら一発で回復できるのじゃが、弾かれてしまえば意味をなさない」


スリーダルは先ほどからエリアハイヒールや様々な回復魔法を試すが弾かれていた。


「私の古代回復術なら効果が出ますが……対象範囲が狭いんですよ。燃費も悪いし……」


そう言いながらも休まず古代魔法を紡ぎ続ける。


「うーむ。…………そういえば、あの天才ちゃんはどうした?」

「?……天才ちゃん?………あっ、リアの事ですか?」


「おう、そんな名前だったのう。わしな『魔導の泉』というスキルがあるんじゃが、まあ詳しくは省くが、質を見れるのじゃよ。魔法の」


話がよく見えないルミナラスは目の前の患者に古代魔法を紡ぎながら、スリーダルが言わんとしている事に要領を得ない顔を向けた。


「でたらめなんじゃ。あ奴の回復魔法は」

「??」


ますます意味が分からない。


「あ奴の回復魔法は、理由はわからんが効果が異常なのじゃ」

「まだあ奴が15歳くらいの時じゃったかのう、見たのは。まあ確証はないがおそらくの」


「っ!?………もしかして……弾かれない?」

「ああ、おそらくの。連れてこられるかの?」


ルミナラスは久しく会っていない生意気そうな目をした、かつて同じ師匠のもとで暮らしていた12歳くらいのリナーリアの事を思い出していた。


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