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第132話 再生する森と新たな仲間たち

ルミナラスとムク、ナハムザートはグースワースへと帰還した。

結局研究所で何とか助けられたのは7人だけだった。


ルミナラスの古代回復術が効いたのだろう。

まだ数人は体を欠損した状態であったが、すぐに命にかかわるようなものは居なかった。


俺はモンスレアナを呼び、そして起きたばかりのリナーリアに頼み、回復させた。

あまりの酷い状況の子どもたちに、モンスレアナの安定を施してもらったところだった。

そして一人異質な色香に纏われていた少女は、俺が概念で封印を施した。


俺でさえ狂いそうになる凄まじい催淫が暴走していた。


「ルミナ。ありがとう。この恩は忘れない」


俺はルミナラスに頭を下げた。

皆の表情が驚愕に染まる。


慌てたルミナラスが思わず口走る。


「っ!?ノアーナ様?……頭を上げてください。今回の事はあなた様のせいではありませんよ」


そしてため息をつく。


「頭を上げてください。今回の事はきっと弱い私たちへの警告だったのでしょう。ドルグ帝国は事実上滅びました。……ノアーナ様の力が必要です。お願いです。協力してくださいませんか」


俺は頭を上げルミナラスを見つめた。


「…ああ、そうだな。7人だけとはいえ助けられたんだ。いつまでも落ち込んではいられないな。だが、今回の事はいくつもの事実を俺たちに教えてくれた」


そして俺はナハムザートを見た。


「なあ、ナハムザート。おまえ危なかっただろ。強さだけじゃないものがこの世界にはまだまだあるんだよな。お前も俺もまだまだ勉強が足りないようだ。一緒に学ぶぞ」


ナハムザートは研究所で感じた感情を思い出し、悔しげに俯き何とか言葉を絞り出した。


「へい。……お供いたします。……修行が足りやせんでした」


ムクもまた俯き、肩を揺らし涙を零した。

俺はルミナラスの目をまっすぐ見つめ口を開く。


「悪いが俺は、ドルグ帝国の跡地にはもう国を作る気がないんだ。あそこは多くの苦しんでいったこの星の同胞を眠る場所にしたい」


俺は涙をこらえているムクに優しく口を開く。


「カイトを呼んでくれないか?ムク」


涙を拭き、奇麗な姿勢で俺の言葉に反応するムク。


「はっ、直ちに」

「ああ、………1刻後くらいで頼む」


慌てて転移しようとしたムクに指示を出す。

皆から疲れの波動を感じていたからだ。


「すまない。皆少し休憩にしよう。っ!?…ネルが起きたようだ。行ってくる」


俺はネルがいる厨房へ飛んだ。

少し落ち着く時間が必要だと思ったんだ。


俺も、皆も。


※※※※※


アースノートはギルガンギルの塔の中にある研究所で、涙をこらえながら取得したデータを確認していた。


種族特性を恐れたのだろう。

殆どの被験者が記憶をいじられ名を消去されていた。

真名があることで抵抗する種族もいるためだ。


親に愛された優しい記憶とともに。

余りにひどい仕打ちだった。


そして実験内容は余りにもひどく、悍ましい。

この前ノアーナが言っていた『ありえない悪意』の一端を垣間見た気がして思わず吐き気に襲われた。


何のための研究か全く分からないものが大多数を占めていた。

心を壊す方法としか思えないようなあまりにも非道な内容ばかりだった。


「狂っていますわね。……恐ろしい……」

「ノアーナ様が滅ぼしたくなるのが分かってしまう」


アースノートは流れる涙を抑えることができなかった。

視界が涙でゆがむ。

この世界の常識を数段逸脱した方法や考え方がびっしりと列記されていた。


でも、彼女はデータの検証をやめなかった。

これが自分にできる唯一の供養だと、そう胸に刻みながら。


そしてこれが、多くの命を救うきっかけとなる。

まだいつかは誰も分からないが。


※※※※※


ネルはベッドで静かに目を開け、涙を零していた。

愛するノアーナが目の前で消えていく恐怖が目に焼き付いてしまっていた。

そして暴走を始めた恐ろしいノアーナを。


思わず飛び込み抱き着いたノアーナ。

恐ろしい魔力の奔流はネルの体を引き裂いた。

ネルも命を落とす寸前だった。

でもそのことにはまったく恐怖を感じることはなかった。


ただ、自分が愛するノアーナは。

見たこともない恐ろしい顔をしていた。

そして……とても悲しそうだった。


もう二度と会えないと思ってしまった。

たとえ一瞬でも諦めてしまった自分を許せなかった。


「ネル」


愛しい人が名前を呼んでくれた。


ネルは飛び起き、声がした方に目を向けた。

涙があふれ出す。


「のあーな…さま……あああっ…」


そして、抱きしめてくれる優しい彼の腕が、本当になくなっていないことにさらに涙が止まらなくなるのだった。


「愛してる」


そして優しく抱きしめられ、ネルは本当にこの人がいなければきっとこの世界なんていらないと、気付いてしまった。


恐怖した。


愛が限界を超えた。


ネルの真核の幅が人知れずに大きくなった瞬間だった。

いずれ獲得する究極の力の準備が着々と進行し始めていた。


「ネル、良かったね…ぐすっ、…ヒック……私もよかったよー」


リナーリアが乱入してきた。


リナーリアから親友を想う温かい光と。

愛する思いがあふれ出した。

空気が和み、ネルの心にも温かいものが湧き出してきたのだった。


暫く3人はお互いの存在を確かめ合うように優しい抱擁をつづけた。


そして1刻後。

俺はムクが連れてきてくれたカイトに告げたんだ。


「カイト。国を再建するつもりはもう俺にはない。だが生き残った多くの人民のために、ミユルとガイワット、そしてそこから北に居住区を作りたい。協力を頼む」


カイト・ルードロッド辺境伯は静かに頷いた。


そして俺は荒廃した皇都に、想い載せて、大いなる大森林を創造した。

もう二度と、こんなバカげたことを起こさせないと、心に刻んで。


※※※※※


グースワースの新しい仲間たちは、あまりにも心にダメージがあり過ぎた。

その様子を見て、俺は皆に提案した。


ルミナラスとリナーリアのおかげで体の傷は直すとこができた。

だがまるで死んだような表情をし全員が口を開くこともできずにただ泣いている状況だった。


俺はなぜか7人を見て早急に直すべきではないと、そう感じてしまっていた。

余りにもひどい心の傷に対し、自らの力で乗り越えてほしいと思ってしまった。

どんなに時間がかかったとしても。


「心の、真核のダメージを、俺は概念魔法で治すことができる」

「だが、あの子たちの、あまりにひどい体験は、ただ無かった事にはしたくないんだ」

「きっと消しても何かの拍子に湧き上がってしまう」


「俺は酷い事を言っているのかもしれない」

「6人は自分の名前すらわからないほど心にダメージを負っているのに」


「でも、だからこそ、時間をかけて寄り添って直してあげたいんだ」

「どうか俺のわがままを皆に認めてもらえないだろうか」


皆が真剣なまなざしで俺を見つめてくる。

カナリアが俺に口を開いた。


「ノアーナ様。人は必ず乗り越えることができます。どんなに辛くても」


そして決意とともに優しい感情がカナリアからあふれ出した。


「わたしはあなた様の想いに賛成いたします」


ムクが追随する。


「ノアーナ様の思う通りで私はかまいません。ともに進みましょう。わたしも未熟です。一緒に成長したい」


他の皆も頷いてくれた。

涙を浮かべながら。


「ああ、皆協力を頼む」

「俺は彼らに永遠を与える」


「そして治るまで見届けるつもりだ」


俺の決断は間違っているのかもしれない。

摂理を無視し、寿命を撤廃する。

より長く彼らが苦しむ時間を延ばしてしまう事になる。


でも、きっと。


いつか彼らが心から笑えるようにすると俺は誓ったのだった。


重たいグースワースの空気が少しだけ軽くなるのを俺は微笑むネルを見て感じたんだ。


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