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第145話 魔竜族の最後1

(新星歴4818年7月22日)


約5000年前。

正確には6柱を創造し新星歴を策定した4818年前のさらに100年くらい前。

俺はこの世界の想いの制限を撤廃した。


それまで数万年という長き間抑圧されていた負の感情が世界にあふれ、多くの場所で反動のように悲惨な戦争が多発した。


今思えば在り得ないが、あの時の俺はまあ『必要な儀式』程度に思っていた。

うん。

メチャクチャ質(たち)悪いな。


まあ今さら弁解するつもりもないし、どうすることもできない。

そしてその犠牲のおかげで今の世界がある。

後悔するのはその時代を必死に生きたものに失礼だろう。


そしてその中でも大きく世界に影響を与えたのが『古龍族と魔竜族』の戦争だった。

大きい力が各地で激突したのだ。

正に天災が多くの被害とともに、多くの場所でもたらされた。


元々大きな力を持つ両種族は、頭のいい種族だったし話も通じたため俺はガルンシア島に閉じ込めはしなかった。


当時の俺はまあ確かに最強だったし、いざとなれば何も考えずに消す事も出来たから放置していたのだ。


そもそも魔竜族に欲深いものが多いのも多分俺のせいだ。

悪い感情こそ成長に必要だと考えていた俺は、魔竜族の王に、欲を増幅させる神器を預けていた。


勿論他種族を滅ぼすために渡したわけではない。

自分たちが望む力を増幅する宝珠を渡しただけだ。


今思えば魔竜族は俺の浅はかな考えの元創造していたため、女性率が著しく少なかったはずだ。

そして反対に古龍族は麗しい女性タイプを多く創造していた。


種族保存の欲が増大した魔竜族が古龍族の女性を求めたのはある意味当然だったのかもしれない。


まさか思いを継げるための努力が、強引な手段に出るとは思わなかったが。


そして一人異常に頭のいい奴がいた。

当時の王であったゴルギルドスの息子、皇太子ラグナロア。


王のゴルギルドスはバカみたいな熱血漢だった。

きっと最初は勝負して負けたら俺の子を孕め!!くらいのノリだったはずだ。


だから王は殺すことを禁止していた。


むしろ当時の古龍の王、エリスラーナの祖母に当たるエルスリアルノにベタ惚れだったはずだ。

まあ、全く相手にされていなかったが。


そして無駄に頭の良かったラグナロアは俺に内緒で禁呪を紡ぎだしていた。

王であるゴルギルドスの欲望を暴走させたのだ。


そしてあの悲惨な戦争が幕を開けた。

結果両種族はごく少数を残し絶滅した。


そして3000年くらいおとなしくしていたラグナロアは俺の目を盗みまた古龍族に牙をむいた。


流石に見過ごせなかった俺が古龍種に肩入れし、この手で葬った。

それで終わったと思っていたのだが……


どうやらラグナロアに息子がいたらしい。


※※※※※


何とか二人の美姫ロロンとコロンを宥め、ネルが機嫌を直し修羅場は回避された。

まあ少し心が動いたのは内緒だ。


うん。

この子たちメチャクチャ可愛い。

あの柔らかさと心惹く良い匂いは、男は抗えまい。


うっ、ネルの視線がまた冷たくなった。

冷や汗が止まらぬ。

俺はごまかすよう咳払いをしてレーランに問いかけた。


「コホン。どうするレーラン。まあ子作りはともかくとして、まずは原因を取り除きたいのだが」


「ええ、残念ですが仕方ありませんね……それでは一度ディードレック島へご足労いただけますでしょうか?直接対峙した兄のレイスルードとお話しされた方が良いかと思います」


「そうだな。ネル、ここを任せても良いか?」


なぜかジト目で俺を見るネル。

そして二人を覗(うかが)う。


「と、取り敢えずこの二人の面倒を見ていてもらいたいんだ。申し訳ないがこの子たちの今の力では足手まといになるからな」


そして次は不満そうな目で俺を見つめるロロンとコロン。


「はあ、仕方ありませんね。分かりました。わたくしが責任をもってこの二人は面倒を見ます」


そしてすっと俺に腕を絡ませ、上目遣いで俺を見つめる。


「……早く帰ってきてくださいませ………そしたら………」


そして美しい体を俺に押し付ける。

瞳に欲情の想いを乗せる。


「いっぱい、ゆっくり、たくさん……可愛がってくださいませ」


やばい。

鼻血が出そうだ。

俺は思わずネルを強く抱きしめた。

薄着のネルの体に、俺は素でメチャクチャ興奮したのだった。


※※※※※


俺とレーランが転移していくと、ちょうどレイスルードをエリスラーナがベッドへ押さえつけていた。


「ノアーナ様。こいつ、馬鹿。不敬」


そしておもむろに回復の古術を叩きつけた。


「ぐああっ!!」


苦しむレイスルード。

よく見ればあちらこちらからまだ出血しているようだ。


俺はため息交じりにレイスルードへ口を開く。


「おい、ちょっと落ち着け。大体その体じゃあ死にに行くようなものだろうに」


俺に気づいたレイスルードが顔色をなくす。


「なっ?…ノアーナ様?……ご無礼を……くっ」


そしてベッドに横たわる。


「まあおとなしくしておけ。どうも悪意が絡むようだ。悪いが俺が預かることにした」


奥からラスタルムが出てきた。


「まあ、それが良いんだろうな。ノアーナ様、久しぶり」

「ああ、すまないな。お前の判断はいつも的確だ。流石『管理者』の名は伊達ではないな」


思わずかしこまるラスタルム。

コイツはあの時の戦いで得た経験で『管理者』という職業に目覚めていた。


「ん。ラスターいつも偉い」


珍しく褒めるエリスラーナ。

まあこいつらの後始末も大きな経験になっていたのだろう。

なんか、お疲れ様だ。


「エリスもありがとう。お前は本当に頼りになるな」


優しくハグし、頭を撫でてやる。

気持ちよさそうに目を細めるエリスラーナ。


ああ、本当に可愛い。

癒される。


エリスラーナは今自分の意志で8歳児に擬態している。

弱い姿でいる方が修行の効果が高いらしいのだ。


存在値には表れないが、熟練度が全てにおいて非常に高くなっている。


「レイスルード、お前の知っていることを共有したい。頼めるか」


エリスラーナの古代魔術で傷が薄くなったのを確認し俺は問いかけた。


「はっ、仰せのままに」


そして俺たちは応接間で打ち合わせを始めた。


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