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第146話 魔竜族の最後2

「アイツの存在値は2000ちょっとでした。俺が今5000くらいなので余裕だと思ったんです。というかなぜ向かってくるのか不思議でした」


レイスルードはうつむき気味に言葉を続ける。


「そして特に考えもなく向かってくる姿に違和感を覚えていたら……」

「突然全身に嫌な気配がまとわりついて、そのタイミングで4匹の魔竜族が一斉に襲い掛かってきたのです」


「どのくらいの数がいたんだ?」


「まずラグアルド、皇子の息子ですね、側近のミリラルド、スラスト、後名も知らない若いのが3匹ほどでした」


「ふむ。6人……それでそのラグアルドが2000くらいか。他はどうだった?」


「はい。多分強くても1000程度だと思います。実際攻撃を受けても大したことはありませんでしたから。ただ……」


レイスルードは悔しそうに顔をゆがめ言葉を吐き出す。


「ラグアルドが黒いブレスを吐いたんです。見たことのないおぞましいブレスを」


すると横で黙っていたレーランが口をはさむ。


「……兄さんがわざと受けたように見えたわ。スピードも大したことなかったのに」

「ああ。気が付いたら呑まれていたんだ。全く意味が分からない」


俺はレイスルードの真核を見た。

……汚染されている。


俺はおもむろに緑纏う琥珀の魔力を噴出させる。


「っ!?……ああ、なんだ……心が落ち着く……」


俺は大げさにため息をつく。

皆に緊張が走る。


「お前たちは汚染されていた……『ネル、頼む。ああ』………ロロンとコロンもだ。今ネルに解呪させたから大丈夫だ」


流石にエリスラーナは問題なかったが、わずかではあるがラスタルムまで感染していた。


「おそらく魔竜族は全員感染している。急いだ方が良いな……『茜、来れるか?』…エリスも一緒に行こう。茜が来たら、ケリをつけるぞ」


俺はエリスラーナに視線をやる。

エリスラーナは力強くうなずいた。


空間が軋み茜が転移してきた。

思わず固まるレーランとレイスルード。


「こ、ノアーナ様、お待たせ。……また悪意?」

「ああ、お疲れだ茜。力を貸してくれ」

「うん。分かった……解呪する?」

「解呪は済ませた。とりあえず元凶を叩きたい。一緒に行こう。俺と茜とエリスの3人だ」


レーランが思わず立ち上がる。


「っ!?……それはあまりに、わたしたちの問題です…」


俺はレーランの肩に手を置いて首をふる。


「悪意が絡まなければ俺だってお前らに任せるさ。だがこうなってしまえば話は別だ。……最悪星が滅ぶ」


「っ!?……わかりました。………ご武運を」

「ああ、任せろ。よし取り敢えずノッド大陸に飛ぼう」


俺たち3人はノッド大陸に転移した。


※※※※※


ノッド大陸の北方の深い森の中。

身をひそめるように魔竜族の最後の生き残りである8人のうち一人が、町でさらってきた女性四人を見ながら口にした。


「かしらー、こんなんじゃ……意味ないぜ」


余りに激しい行為で亡くなってしまった、若い娘の死体を放り投げた。

攫われた四人の女性が悲鳴を上げる。


魔竜族、古龍族は人化できるため、他種族との繁殖は可能だ。

だが魔竜族は今、悪意に侵されているため色々加減ができずに殺してしまっていた。


「ちっ、もう魔竜族に女はいねえんだ。古龍族は数人いるが……くそっ!神であるエリスラーナとレーランの化け物、その娘位だぞ……このままじゃ俺たちは滅んでしまう」


「馬鹿が!!加減すればいいだろうが。俺が手本を見せてやる」


そう言って一人の男が一番端で震えている女性の腕を無理やり引きずるように引っ張ってくる。


「痛い!いやっ!!…やめて、あうっ!!」


そして粗末なマットのような場所に投げられた。


「お嬢ちゃん、あんまり騒ぐなよ。おとなしくしてりゃ命まではとらねえよ。うまくいけばそりゃあ大事にするさ。……俺たちの希望だからな」


女性の悲鳴が響き渡った。


※※※※※


「ちっ、脆すぎなんだよ。あーあ、死んじまいやがった」


男は亡くなった女性を放り捨てた。

おびただしい数の女性だったモノが積み重なっていた。


「何が手本を見せるだよ。てめえだって殺してるじゃねえか」

「うるせーな。しょうがねえだろうが。こいつら脆すぎなんだよ」


そしてギロリと残された三人の女性を睨む。

三人は自分たちの運命を嘆き膝から崩れ落ちた。


「っ!?」


突然空間が軋み、恐ろしい圧の魔力が溢れる。


魔竜族の8人は瞬間的に臨戦態勢をとって散開した。

そして目を見開き、ラグアドルが思わずつぶやいた。


「男が一人、女が二人……くっ、魔王にエリスラーナだと?」


状況を見たエリスラーナから、激しい怒りの魔力が吹き上がる。


「外道がっ!!死んで詫びろ!」


そして真龍化しノータイムでブレスを吐く。

四人を巻き込み、恐ろしい呪詛が四人の体を消滅させながら猛り狂う。


「グギャアアアア――――――ぐうう………」


だが……黒い靄があふれ出し、欠損を回復させ始めた。


「くそっ、やはり効果がレジストされるな。茜、行けるか?」

「うん。こいつらは害悪だ。話し合いしたかったけど……」


積み重ねられたおびただしい数の女性の亡骸を見て、茜の瞳の色が消えていく。


「こんなの許せるわけがない」

「神器開放!!私はお前たちを絶対に許さない!」


鮮烈な緑の魔力が茜を包む。

刹那、茜の体がぶれた。


一瞬ですべての魔竜族の体が切り裂かれ、緑を纏う琥珀の魔力に包まれた。

断末魔が響き渡る。


「ぐがあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


8人のうちの7人が消滅していった。


俺はそのさまを見て生き残ったラグアドルに問いかけた。

何とか生きてはいるが、左腕の欠損は治らないらしい。

蹲り痛みに悶えている。

徐々に存在が消滅し続けている。


「お前、何を拾った?言えば痛みなく消してやるが?」

「ぐああ、痛てえ、痛てえよおお!くそがっ!なんで俺がこんな目に」


そして黒い魔力と悪意が包み込む。

存在値が上がっていく。


「っ!?増幅の神器まで飲み込んでいるな。消せないわけだ」

『くくくっ、サービスだ』

「っ!?」


悪意の声が聞こえた。


「ぐがあああああああああああああああああああああああーーーーー!!!!!!!」


突然ラグアドルの存在値が爆上がりし、巨大な魔竜が顕現した。

存在値は400000を超えた。

周りに悍ましい悪意がばら撒かれる。


俺は自分の真核に、かつての研究データで得た禁断の力を解放した。

あの子たちを苦しめた悍(おぞ)ましい研究の数々を、愛おしいアースノートが涙を流しながら紡いだ成果だ。


凄まじい勢いで俺の存在値が上がり続ける。

これ以上『奴』の思い通りにはさせない。


「禁忌解放!因果率の呪縛から解き放たれし隔絶の剣、顕現!!」


俺の腕に、歪な形の白銀煌めく琥珀の魔剣が現れた。

鞘の部分からおびただしい数の漆黒の管が俺の全身に突き刺さる。

そして悪意の結晶とも取れる激しい憎悪が緑の魔力として安定した。


隔絶した魔力圧で、空間が悲鳴を上げ捻じ曲がりはじめた。


「ぐうっ!…言う事聞きやがれ!!!はあああああああああああっ!!!!」


俺の体が捻じれに引き込まれながら、引き裂かれ鮮血がまき散らされる。

かまわず俺は剣をふりぬいた。


剣戟が、漆黒と白銀と緑と琥珀の輝きを迸らせ、ラグアルドだった魔竜を引き裂く!


「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああーーーーー!!!!!」


「茜!合わせろ!!最大だ!!」

「うん。いっけえええええええ!!!!!!」


茜の聖剣が鮮烈な緑を噴き上げ、琥珀に輝く10mに達した刃がラグアドルだった魔竜を捉え、貫いた瞬間に剣先が分裂、魔力が爆発的に迸(ほとばし)った。


「うおおおおおおおおお!!!!!!」

「はああああああああああ!!!!」


「ぐぎゃやああああああああああああああああああ!!!!!あああ……あ…    」


閃光が視界を白に染める。

緑の魔力が衝撃波となり、数度大陸を揺るがす。


澄んだ超高音があたりを響かせていく。

ばら撒かれた悪意を浄化させながら。


そして。


静寂が訪れた。


俺はギリギリ膝をつき、肩で息をしながらも茜にぎこちない笑顔を向けた。

体も真核もボロボロだ。

だが、ついに俺も役に立てたことが少しだけ誇らしくあった。


「任務完了だ」


それだけ言い、サムズアップしながら俺は大の字に倒れ込んだ。


まあそのあとで、エリスラーナと茜にメチャクチャ怒られた。

俺は何度も彼女たちを泣かせてしまう。

もっと強くならないとな。


そしてしばらく3人で涙を流しながら抱き合っていた。


……俺たち三人だけの秘密が増えたんだ。


三人の女性たちは無事だ。

気を失っていてそれが命をつないでくれていた。


そして三人はグースワースで暮らすことになる。


後でわかったことだが、攫われたときに彼女たちの村は滅ぼされていた。

行く当てのなくなった3人に笑顔が戻ることを俺は願ったんだ。


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