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第164話 現状と懸念と対応策

(新星歴4818年9月10日)


グースワースの住人が40名になって2か月ほど経過した。


リナーリアとサラナの百合コンビが、ロロンとコロンの二人と和解したらしい。

最初怖がっていたロロンとコロンも今では大変仲が良い。


見ている俺は思わず頬が緩んでしまう。

ちょっと、百合っぽくなくもないけど。

じゃれ合いと称しリナーリアがやたらと彼女たちの胸をまさぐり、真っ赤な顔をさせているが。


まあ、美少女が戯れる姿は世の男性にとっては良いものだ。

そのたびにカナリアの雷が落ちるが、なんかもう風物詩のようになっている。


それからあの時に助けた3人の女性。

レイルーナ、サイリス、マリンナ、ヒューマンの女性たち。

今ではメイド部隊として働いてくれている。


彼女たちはノッド大陸北部の小さな集落で暮らしていたが、魔竜族に襲われてしまい集落は全滅。

行く当てもなく取り敢えず連れてきた。


解呪したら真核も問題がないためしばらく預かることにしていたら、カナリアに推薦されて結局ここで暮らすようになったのだ。


そろそろ人員の募集は打ち切ろうと思っている。

まあ先のことは分からないが。


7人の子供たちも順調に回復を見せてくれている。

笑う姿が多くなり、泣く姿はほとんど見なくなった。


でも、そんなに簡単な傷ではない。

これからも見守っていくつもりだ。


神たちは相変わらず俺の願いのため世界を観察してくれている。

『奴』も最近姿を見せない。


だが諦めるような奴ではない。

警戒は続けている。

何より茜が狙われた。

絶対にこのままにはしておけない。


※※※※※


今日俺は久しぶりにギルガンギルの塔へと来ていた。

アースノートと大事な打ち合わせのためだ。


久しぶりの隠れ家でお気に入りの紅茶を飲んでいたら空間が軋み魔力が溢れてきた。

アースノートのお出ましだ。


「ノアーナ様。相談したいことがありますわ」


緑の着ぐるみ、ぐるぐる眼鏡のいつものアースノートだ。

内心がっかりしたことは内緒にしておこう。


「ああ、そう言っていたな。重要な案件か」


アースノートは真面目な顔をする。


「……真核を分ける目途が立ちました」

「っ!?」

「前にあーしがはぐらかしていた事ありますよね」

「……ああ」


アースノートは突然涙を流し始めた。


「ノアーナ様が、いつか地球に戻る時の為の保険ですわ」

「そして最悪の場合、茜を守る最終手段ですわ」


ある程度予想していたことだが、固まってしまった。


「あり得ないのですわ。ノアーナ様と茜の関係」

「どんなに計算しても」


俺もそう感じていた。

茜の持っていた魔石は確実に俺を狙ったものだった。


そして欠片事件の時茜はここにいた。

転生で時間軸が異なるとしても、つじつまが合わない。


そして俺の経験にない大人の佐山光喜。

茜の記憶にある佐山光喜は間違いなく俺だ。


おそらく。

未来の俺なのだろう。


そして茜は…同じタイミングで地球にいなければならないはずなのだ。

俺は涙を浮かべているアースノートを抱き寄せた。


「いつもありがとうアート。お前にはいつも苦労ばかりさせてしまうな」


俺はアースノートのぐるぐる眼鏡をはずした。

涙を浮かべた超絶美少女フェイスに俺の胸が高まる。


「可愛い俺のアート」


そして優しくキスをした。

アースノートがたまらず俺にしがみついて来る。


「ノアーナ様、ノアーナ様……お慕いしております」


そして自らぐるぐる眼鏡をかけ俺から一歩離れた。


「でも……今は我慢ですわ。未来を後悔しないためにも」


そしてぐるぐる眼鏡がキラリと光る。


俺は自分の考えがあまりに幼稚過ぎて思わずため息をついてしまった。

アースノートへの愛おしさを、体に求めてしまっていた。

コイツはこんなに真剣に考えてくれているというのに。


俺の様子を見て、アースノートがいきなり早口で捲し立てた。


「か、勘違いしないでくださいませ。あーしも今すぐノアーナ様に愛されたいのですわ。だけどそうすると全部飛んでしまいますの。もう辛抱たまらないのですわ。はあはあはあ♡でもでも、ノアーナ様のそんな顔も大好物の私はどうしたら良いのでしょう?ああ、やっぱり今すぐ可愛がってもらいたい……だめよあーし!今は先に検証しなければ……ああでも。今すぐ〇×〇されて〇×〇×〇してもらいたいですわ♡はあはあ。あーダメよダメ、我慢なさいアースノート!今は耐えるのよ。ああ、…………ノアーナ様どうしましょう?」


欲望ダダ洩れの発言に、逆に俺は安心した。


「そうだな。せっかくだ、検証しよう。そしたら……」


俺はアースノートを抱き寄せる。

そして髪を撫でながらアースノートのぐるぐる眼鏡越しに、瞳に愛欲の色をこれでもかと乗せて見つめささやく。


「たっぷり時間をかけよう。お前を寝かせない」

「うにゅーーーーー」


変な声出して気絶した。


※※※※※


俺とアースノートは彼女が新たに拡張した聖域のさらに奥の部屋へと来ていた。

初めてくる場所だ。


部屋の中は、どういうわけか『見えそうで見えないように見える』いわゆる【虚実】の権能に覆われたようになっていた。


「ノアーナ様、ここは擬似的に虚実の権能で覆っていますわ」

「まだ、誰にも知られるわけにはまいりませんの」


「っ!?どうりで……そして何があるんだ」

「ええ、こちら見てくださいます?」


そう言って結界の幕の様な物を数度潜り抜け、半円形の部屋にたどり着いた。


そこには……


培養カプセルの様なものが10個あり、俺が8人ほどいた。

残りの二つは……小さい女の子に見える……まさか?


「っ!?なっ?………」


思わず固まる。

アースノートが愛おしそうにひとつのカプセルに触れながらこちらに振り返り口を開く。


「貴方様のクローン……いえ、違いますね。……欠片を培養いたしましたの」


驚いた。

確かに初期型は、ある程度大きくなると俺のような生体が発生していた。

しかし、維持はできなかったはずでは……


「あの悍しい研究所のいくつかのデータを流用いたしましたの。恐ろしい事ですわ」

「……アート……」

「ノアーナ様、リンク出来まして?」

「っ!?……やってみよう」


俺は魔力を感応するように精製し、一つのクローンに向ける。


「くっ!…ぐああああああああああああああーーーーー!!!!!」


突然頭の中に、悍しい悪意が入り込んできた。

頭がはじけそうだ。


「ノアーナ様?くっ!強制解除!!!!」


おそらくリンクしたであろう培養ケースの一つが粉々に砕け、中の俺がキラキラと光りだし消えていく。

俺の頭の中の悪意も同時に消失していった。


「はあっ、はあっ、はあっ………くっ、うあ……」


思わず蹲り頭を抱える俺。

アースノートはしきりに何かのデータを検証している。

涙を流しながら。


俺は後ろに倒れ込みアースノートの姿を見ていた。

気付けば俺も涙を流していたんだ。


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