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第165話 救済の女神アースノート

「ごめんなさいノアーナ様……真核は問題ありませんか?」


アースノートは一通りデータを収集し俺に向き直った。


「ああ、すまないなアート。あと7体か。……続けよう」


俺は魔力を練り始める。

アースノートが抱き着いて来た。


「だめです!今日はもうだめ!……方法を考えさせてくださいませ」


体が震えている。

俺は魔力を解いた。


「そうか、わかった。……これは必要なことなのだな。アート」


こくりと頷く。

そして小声で話し始めるアースノート。


「イヤなのです。こんなこと…でも、あなたを失うのは絶対に嫌です。だから……」

「確実に突き止めます。もう一度検討させてくださいまし」


俺の目をぐるぐる眼鏡越しにアースノートの奇麗な瞳が見つめる。


「ああ、わかっている。お前が頼りだ」

「……うん…」


俺はアースノートの眼鏡をはずして可愛い唇にやさしくキスをする。

一瞬で着ぐるみが可愛らしい薄着のアースノートに変わり、彼女のぬくもりと心惑わせる匂いに俺の胸がときめいた。


「んん♡……ああ、ノアーナ様♡…んう♡」


俺はさらに強く抱きしめる。

アースノートが蕩けるような甘い吐息を吐いた。


「アート、お前を感じたい。行こう?」


顔を真っ赤にして可愛くうなずくアースノート。

俺は彼女を抱きしめたまま隠れ家のベッドへと飛んだ。


そして、長らく感じることのできなかったアースノートの美しく、可愛らしく、心惹く体に、吸い付くような最高の触り心地の肌と、愛おしい彼女のいい匂いに俺は長い時間おぼれた。


アースノートの吐息と可愛い声に、深い感動と蕩ける快感に身を任せたんだ。


時間を忘れ、果てるまで。


※※※※※


日付はとっくに変わっていた。

俺とアースノートはお互いベッドの中で向き合い、検証結果について話し合った。

こういう時のアースノートはとても素直で、普段とのギャップもありとんでもなく可愛い。


「ノアーナ様、茜を強制転移させるあの魔石は、あの子がファルスーノルン星に来た時のものと術式が酷似しています」


「そうか、じゃあ…」

「ええ、おそらく地球にいます。最低でも一人は」

「やはり、行くべきか」


アースノートは顔をそらす。

俺は優しく彼女の髪を撫でた。


「んっ♡……もう……」


拗ねるアースノートはレアで超かわいい。


「今すぐではないのだろう?」

「ええ、今のままではただの自殺と変わりませんもの」


俺は天井を見る。


「茜を守りたい」

「……ええ、対策はできます」


俺は顔を彼女に向けた。

アースノートの奇麗な赤紫色の瞳と目が合った。


「お前は俺にはもったいないくらい優秀だな」

「ノアーナ様が教えてくれたからですわ」


そしてにっこりとほほ笑む。


「まだ幼かった私に、付きっきりで優しく。……嬉しかった」


彼女と初めて会った時のことが脳裏によみがえる。


※※※※※


彼女らの元の種族である『聖ノーム族』は感覚的には宇宙人だ。

数名はファルスーノルン星にも居たが劣化種で、純血種である彼らは星間戦争の発端となったラグリア星の住人だった。


彼らは非常に頭がよく、何よりも好奇心が強かった。

ギルガンギルの塔も彼らの計画した軌道エレベーターを参考にしたものだ。


そして一番恐ろしいのは善悪に執着がない事だった。

つまり物事の判断を善悪ではなく出来るか出来ないかで判断していた。


そして開発してしまった。

物質を完全に分解消去してしまう恐ろしい兵器を。


あの戦争の前、やはり科学に特化した星がいくつかあった。

だがどの星も最優先事項は種の保存及び領地の拡充。


当然対価を求める戦争だ。

しかし、聖ノーム族は違った。


あの時の長老、アースノートの家族は「滅ぼせるか滅ぼせないか」をテーマに選んでしまっていた。


もちろん俺だって何度も説得した。

「意味がない」

そう言った。


しかし彼らは悲しいまでに科学者だった。

そしていくつもの文明を滅ぼし、幼かったアースノートを俺に託し全て滅びたのだ。


あの当時アースノートはまだ子供だった。

人間でいうところの5~6歳程度だった。


俺は彼女を引き取り、親子のように暮らしたんだ。

俺の作るあまりおいしくないご飯も残さず食べてくれたっけ。


アースノートは俺の拙い地球の知識を喜びながら吸収し、数年で俺の知らないことを習得していった。


本当に天才だった。

そしていつしか彼女の向ける俺への愛情は親に向けるソレではなくなっていったのだ。


俺にあの頃は全くその気はなかった。

そういう欲すら自覚できなかったのだから。


何も考えずに、神に任命したくらいだしな。

まあ、寿命で死なせたくないと思っていたのは本当だが。


でも今は違う。

もう12000年くらい一緒にいた大切な『俺の女』だ。


※※※※※


いつの間にか俺たちは眠っていた。

長時間お互いを確かめ合ったし、長く話をした。


そしてこの心地よい間柄が俺はとても気に入っていた。


ふと目を開く。

目の前のアースノートが愛おしくなった。


本当に可愛い顔をしている。

ああ、きっと。

成長するコイツが俺はたまらなく可愛いと思っていたことを思い出した。


俺はアースノートの美しい髪に優しく触れる。

奇麗な赤紫色の目がうっすら開かれた。


「ん…ノアーナ様……大好き」

「ああ、俺もアートが好きだ。お前は本当に可愛い」


アースノートの顔が赤く染まる。


突然アースノートが目を見開いた。

そして俺に問いかける。


「ノアーナ様、月の欠片は……もう一人のあなたには、リンクできますか?」

「ん?どうだろう……んん…できそうだな……」


俺は意識を失うように体から力が抜けた。

そして俺の胸から白銀纏う漆黒の光が、ふよふよと浮かび上がる。


アースノートは手のひらを開き、光がその上に降り立つ。


「……ノアーナ様……ですか?」

「…あ……ん……ああ、そ…よだ……」

『アート、うまくしゃべれない。だがどうやら俺は今この光なのは間違いないようだ』


俺は念話でアースノートに伝えた。


アースノートの目に光がともる。

そしておもむろにノアーナの体の胸に耳を当て心臓の鼓動を確認した。

トクントクンと一定のリズムが刻まれている。


「貴方は、月の欠片?……動けますか?」


ノアーナの体がゆっくりと起き上がった。

そして口を開く。


「…うん……不思議……でも、浮いているみたい……揺らいでいる?」

「ああ、理論は間違っていませんでしたわ……これなら」


突然糸が切れたようにノアーナが倒れた。

リンクが切れたようだ。


俺の意識も急に体に引っ張られるような感じに囚われ、倒れた体に力が戻る。

……不思議な感じだ。


「アート、何か掴んだのか……なんだ、くっ、力がうまく入らない」

アースノートは愛おしそうに俺の頭を撫で始め、確信に満ちた強い口調で語りだす。


「ええ、これで道が見えましたわ。ノアーナ様、絶対に成功させます」


俺は思わず笑ってしまう。


「ははっ、やっぱりお前は可愛いだけじゃないな。立派な科学者だ」


そして手のひらの白銀纏う漆黒の光が瞬いた。


「ノアーナ様、この子に名前を付けませんか?きっと独立できますわ。概念でお願いいたします」


「名前か……そうだな……俺たちの希望だ……『ネオ』でどうだ」


俺は概念を紡いで、光に向け魔力を注ぐ。

月の欠片がひときわ大きく輝いた。


「……『ネオ』か。うん。いいね、気に入った」


もう一人の俺たちの仲間が、言葉を獲得した瞬間だった。

そして遂に、お互い離れても存在を維持できるようになったのだ。


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