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第166話 育つ恋心たち

(新星歴4818年10月8日)


魔物の襲来事件を何とか乗り越えたグースワースは、今日も皆が忙しくそれぞれの勤めを果たすべく、前を向き頑張ってくれていた。


最近ではあの七人も部屋にいることは少なくなっていた。

自然に零れる笑顔が多くなり、俺はとてもうれしく思うのだ。


※※※※※


俺はいつも通り七人の部屋の隅にあつらわれている応接コーナーに陣取り、リナーリアが見ている前で新しく開発したコーヒーに舌鼓を打っているところだ。


4人が勤務中で3人がベッドで本などを読んで寛いでいる。

こちらをちらちら伺う様子もあるがいつものことだ。


「うまいな。ああ、いいなこれ。俺は紅茶が好きだがコーヒーもグッドだ。なるほど、やっと俺の舌も味わいが分かるようになったようだ」


転生する前の14歳だった俺は確かコーヒー牛乳しか飲めなかったはずだ。


「うーん、苦いですよコレ。私は甘い方が良いなあ……ノアーナ様?そもそもこんなに黒くって、毒じゃないんですか?……確かに匂いは素敵だけど」


リナーリアが渋い顔で飲んでいる。


「ははっ、口がお子様のやつにはわかるまい。まあ、ミルクと砂糖をたっぷり入れればうまいぞ」


俺は手を数度動かし、リナーリアのコーヒーにミルクと砂糖を入れてやった。


「えー、そうですか?……!?おいしい♡……これ、ありですね」

「ああ、次からメニューに入れてくれ。まさかイミトの連中がこれを見つけるとはな」


移動する猫族旅団イミトに同行している闇の眷属マルガシュから、コーヒー豆がダラスリニア経由で俺に届けられた。


「仕入れはムクに任せよう。どうせならココアもあればよかったのだけど」

「ココア?ですか、それは?」


リナーリアが好奇心に目を瞬かせ俺に問いかけてきた。

食に関する興味が強い彼女だ、気になるのだろう。


「まあ、聖言で一応再現はできるが、どうせなら天才のお前に入れてもらいたいんだよな。俺の怪しい細々とした記憶が元だからきっと本物とは違うだろうしな」


俺は手を振り、記憶の彼方にあるココアを出してみた。

甘ったるい匂いがふわりと香る。


「っ!?いい匂い。ノアーナ様、飲んでみてもいい?」

「ああ、甘すぎるかもだけどな」

「っ!?……やばい。美味しいコレ。ノアーナ様、探そう?」


目を輝かせ興奮する様子は可愛いものだ。


「はははっ、そうだな。ムクに伝えよう」


そんな話をしていたら、ベッドで休んでいたサラナとカリンがおずおずと近づいて来た。


「…いい匂い……ノアーナ様、それ何ですか?」


カリンが俺に尋ねてくる。

サラナも興味津々だ。


「ああ、すまないな騒がしくして。んーまあ本物ではないのだが『ココア』という飲み物だ。お前たちも飲んでみるか?」


二人が目を輝かす。

そしてさらにミュールスも参戦してきた。


「ノアーナ様、わたしも……欲しいです」


俺はにっこり微笑み、一番近くにいたカリンの頭を撫でた。

カリンの頬が朱に染まる。


「ああ、じゃあ皆座るといい……どうぞ」


俺はココアもどきを3つテーブルに出した。

3人が座り冷ましながら飲み、目が大きく開かれた。


「「「おいしい…はあ♡」」」


そして顔を赤らめる。

その様子に俺の顔も緩む。


「お前らは本当に可愛いな。見ていて俺は嬉しくなるよ……もちろんお前も可愛いぞ」


なぜかジト目をしていたリナーリアの頭を撫でながら俺は口にした。

リナーリアが顔を赤く染め、目を細める。

気持ちいいのだろう。


うん。

素直なコイツは確かに可愛い。

百合ちゃんではあるが。


するとなぜか列を作るように、サラナとミュールスがリナーリアの後ろに並んだ。

そして顔を赤らめ俺を見つめる。


「ん?ああ、そうか。おいで」


俺は対女の子には察しが良い。

きっと頭を撫でられたいのだろう。

嫌いな奴には触らせないはずだ。


最近はこういう事も増えてきて俺は本当に嬉しいのだ。


リナーリアが渋々俺の前から離れると、なぜかサラナが俺の膝の上に乗ってきた。

膝に伝わる感触に思わず心がはねる。


「おい……ふう、まあいいか。大丈夫か?」


顔を赤らめサラナがこくりと頷いた。

俺は優しく彼女のサラサラな髪を撫でてやる。

多分今までで一番の至近距離だ。

彼女の優しい匂いが俺に届く。


「怖いのなら無理はしないでくれ。俺はお前たちが本当に大切なんだ。可愛いお前たちには幸せになってほしい」


俺はサラナの目を見つめ口にした。

彼女の顔が茹でダコみたいに真っ赤になる。

慌てて飛び降り、ベッドへと逃げていった。


すると今度は、俺の事が苦手なはずのミュールスが膝に乗り何と抱き着いて来た。

密着する彼女に俺は思わずどぎまぎしてしまう。

甘い匂いが俺を包み込んだ。


「っ!?……ミュー、怖いのだろう?無理しないでくれ。…俺は嬉しいが」


フルフルと頭を振るミュールス。

そして決意を込めたような目で俺を見つめた。


「ごめんなさいノアーナ様……わたしはもう、怖くないです。……好き…です」


涙が一筋零れる。

俺は優しくミュールスの頭を撫で、軽くハグをした。

ミュールスの肩がはねる。


「嬉しいよミュー。でも焦らないでくれ。もっとゆっくりでいいんだ。俺はお前に嫌われていると思っていたからな。……ありがとう」


ミュールスの顔がみるみる赤く染まる。

そして俺の拘束から逃れ、やはりベッドへと帰っていき布団にもぐりこんだ。


その様子を見ていたらカリンが顔を赤らめながら俺に近づいて来た。


「あの、えっと……その……」


「……いいぞ。大丈夫ならおいで」


そう言って俺は両手を広げるとカリンが俺にしがみついて来た。

俺は優しく彼女をハグした。


「ああ、ノアーナ様……好き、大好き♡」


俺を抱くカリンの手に力がこもる。

俺も少し強めに抱く。

彼女のぬくもりと優しい香りが俺の鼓動を早くしていく。


「カリン、ありがとう……だけど、焦らないでくれ。俺はずっとお前たちと一緒だ……震えがなくなったら、考えるさ。でも、まだだよ?おれの可愛いカリン」


そう言って彼女に額にキスを落とした。


「あう♡……ノアーナ様……ありがとう」


そう言ってカリンもベッドへと戻っていった。

真っ赤な顔をして。


なぜかジト目で俺を見ていたリナーリアがぶっきら棒に言う。

そしてなぜかドヤ顔だ。


「この女たらしめ、ネルに言いつけてやる!!」

「かまわないさ。これが俺だ。まあ、すぐにどうこうなんてしないさ。クズな俺だがそのくらいの判断はできるつもりだ」


俺は全く焦ることはない。

彼女たちを大切に思う気持ちに嘘はない。


「うぐっ」

「さあ、お前そろそろ昼食の準備だろ?俺は一度執務室へ行くからな」


※※※※※


ノアーナがいなくなった七人の部屋では、カリン、ミュールス、そしてサラナのベッドにもぐりこみ彼女に密着する変態ちゃんと、顔を真っ赤に染め可愛らしい声を出すサラナが、先ほどの事を思い返していた。


「ノアーナ様、あれ、素だよね。はあ……ああ♡サラナッち癒される♡」


後ろからサラナのどこかに手を這わす。

手つきがまさにおっさんだ。


「んん♡やん♡リアさん、ちょっと、やめ♡……んっ♡」


イヤイヤしながらも、なぜか振り払わない。

目がとろんとしてくる。

もう見慣れた光景だ。


冷めた目でミュールスが咎めるように苦言を呈した。


「ねえ、イチャつくならどっか行ってよ。……せっかくの幸せな気持ちが萎えちゃうでしょ」

「そうだよ。もう……カナリアお母さんに言いつけてやるんだから」


ミュールスとカリンに文句を言われ、顔を青ざめさせるリナーリア。

おずおずとベッドから離れ、挙動不審に立ち上がる。


「あは、あはは、やだなあ、ちょっとしたスキンシップだよ?あはは、あっ!昼食の準備しないと……じゃあね」


脱兎のごとく逃げ出した。

サラナが咳払いをする。

顔が真っ赤だ。


「こほん……ごめん……その、えっと…」

「はあ。……まあ、いいけどさ。ねえサラナ、あなたどっちなの?」

「えっ?……うん……たぶん百合だけど……でも……うう」


先ほどの優しいノアーナの顔が浮かび、何故か泣きたくなってしまう。

カリンは優しい顔でサラナの背中を軽く叩いた。


「サラナも……ノアーナ様、好きなんでしょ?」


真っ赤に染まるサラナはドキドキしてしまう。

自分の性癖が恥ずかしい。

自覚す涙をにじませる様子は恋する乙女なのだ。


「……うん……でも、わたし……女の子も好きなの……どうしよう……嫌われたら」

「まったく関係ないと思うよノアーナ様。だってリアの事も平気だし」

「えっ?嘘……」

「あんたも見たでしょ?リアの顔。あれは恋する乙女の顔だよ?」

「そうそう。だってリナーリアの初恋だよ。ノアーナ様」


「……確かに。そういえばネル様も言ってた」


サラナは思い出すように以前の会話を頭に浮かべた。

そんなサラナの前に立ち、輝くように瞳を瞬かせるミュールス。

ミュールスの顔はまさに恋する乙女だった。


「もう、だからくよくよしない。それよりもっと話そうよ。ノアーナ様、やばいよね」

「わたしね、最初ノアーナ様の事大嫌いだった」


「だってさ、記憶消してくれなかったし、わたしたち大変だったじゃん」

「「……」」

「でも、ノニイがさ、勇気出して教えてくれた」

「……うん」

「そうだね」

「私思ったんだよね。このままじゃいけないって」


ベッドに腰かけ決意を込めた目をしっかりと見開き、宣言するミュールス。


「もう我慢しないって」

「だから、わたしノアーナ様の事大好きだってことをもう、迷わない」


そして同姓でも見蕩れるような可愛らしい表情を浮かべた。

弾けるように立ち上がるカリン。


「わ、わたしだって!……エッチなことしたい……赤ちゃん欲しい」


そして顔を真っ赤に染める。


二人の宣言にオロオロするサラナ。

ルイーナとエルマが帰ってきたのはまさにその時だった


顔を赤く染め固まる三人に、訝しそうな顔をしてルイーナが話しかける。


「どうしたの?何かあったの?」

「えっ、な、何でもないよ、ははっ、は…」


ルイーナはジト目だ。

エルマが口を挿む。


「ん?いい匂い。何か美味しいもの呑んだでしょ?ズルくない?」

「あっ、うん。さっきノアーナ様が『ココア』っていう飲み物出してくれたの」

「ココア?」

「うん。とっても甘くておいしかった」


ルイーナがベッドに体を投げ出す。

今日仕事だったことに悔しさが募ってきた。


「あー疲れた。……ずるいよね。今度私もおねだりしようっと」

「あははは、うん、それが良いよ」


ルイーナは起き上がり再度サラナの顔をじーっと見た。


「なんで顔赤いの?……何があったか正直に教えて」

「うっ、べ、べつに、たいしたことは……」


うっかり見つめられたことを思い出し、サラナはさらに顔を赤らめてしまう。


「怪しいなあ。……ねえカリン、何があったのよ?ノアーナ様となんかあったの?」

「っ!?べ、べ、べつに?……だ、抱きしめられてなんかいないよ!…あっ!」

「ねえ、なにそれ?どういう事?ねえ、ミューもそうなの?ねえ、ずるいよね。ねえってば」


顔を赤らめ可愛い顔で頷くミュールス。


暫く追及の嵐が吹き荒れたのであった。


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