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第話198 遠い地球の欠片たち

欠片事件の時に地球に飛ばされた欠片は、ノアーナが再転生する前の今、特に意志を持って活動するレベルの物はなかった。


ただひっそりと地球の悪意が溢れるような場所で息をひそめ、ただひたすらレイスに対しその悪意を送っているだけだった。

微弱ではあるものの、其処に住む人に影響を及ぼしながら。


※※※※※


「大統領、貴方の決断で数万人の命が奪われた。もう許容できない。……投降してほしい」


とある国家の大統領である男に、側近だった男は部下数名とともに銃を突きつけ投降を迫っていた。

大統領は光の消えた目で側近を見つめる。


「……下らん。お前もそういうレベルでしか物を話せないとはな。愚かなことだ。……滅びこそ再生に繋がると何故分からん!?俺は救世主なんだよっ!!」


「っ!?」


突然弾かれるように隠していた銃を乱射する大統領。

数発の銃弾が結果として大統領と側近、そして7名の命を奪い取っていた。


※※※※※


「や、やめて……あうっ……痛い、痛いよ……あああ、うあ……」


どこかの研究所のような場所で、鎖につながれた10歳くらいの少女に注射器で何かしらの薬品が注入されたところだ。


針を刺した場所から皮膚が徐々に火ぶくれのようにその形状を変えていく。


「いっ、痛いっ!!うああ、ああああああああああああーーーーーーー!!!!!」


やがてそれは腕を侵食しつくし、肩を侵しながら首に、そして顔へと広がっていく。

その様子を科学者らしき男数人がただ感情の籠らない目で見つめていた。


「ふむ。実験体―0228の抗体値は幾つだったかな」

「んー……ああ、まだブルーゾーンですね。48しかないです。……誰だよここに連れてきたのは?実験にならんだろうが」

「ははっ、誰でもミスはするさ。……ん?死んだな。おい、廃棄の申請を出しておいてくれ。……16時か。たまには早く上がろうか。今日娘の誕生日なんだよ」

「あ、そうなんですね。お嬢さん幾つになるんですか?」

「ああ、今日で9歳だ。まったく誰に似たかしらんが、勉強が嫌いでな。先が思いやられるよ」


今まさに目の前で少女が死んだというのに、この男たちは全く気にも留めない。

彼女は彼らにとってただの実験用の生物との認識だった。


「さて、プレゼント、喜ぶかな?」


※※※※※


「……一着ナナノヒカリ、二着オシドリマオウ、3着イワノコケル………」


場内アナウンスにはずれ馬券の投票用紙が舞い踊る。

場内では悲喜こもごもの人間模様が繰り広げられていた。


「よっしゃー!!流石俺様、オッズは……マジか!?1680倍だってよ。俺いくらだっけ…うあ、やべえ、マジか……」

「なになに?雅也くん取ったの?このくそレース!?……嘘っ、何20000円も買ってんの?すげー、一瞬で3000万越えとか……ごちになりまーす!!!」

「お、おう、任せとけ……うわーやべー。俺無敵じゃん」


少しガラの悪い兄ちゃんが大声を上げる。

皆の注目が集まる中少し離れた場所では白髪の混じる髪をかき乱し、膝から崩れ落ちる50代くらいのサラリーマンがいた。


「……終わりだ………何が『硬いレースです』だ。……会社の金、3000万つぎ込んじまった……500万さえ増えればよかったんだ……だからガチガチのこのレースに3000万、1.2倍の配当だったのに……クソッ、くそおお………」


手を出してはいけない金に手を出した男は天を仰ぐ。

そしてかつての幸せを思う……


優しい妻に可愛い娘……

だがリストラに合い給料が減った途端冷たくなった愛する家族……


まるでゴミを見るような目を向けられた。


もちろん理由はあった。

彼は傲慢だった。

そして自分勝手な男だった……だから……


「あははは、俺って天才だろ?よーし、女呼ぼうぜ!!俺が奢るわ」

「すげー、雅也くん、かっけー」


あ?……ふざけるなよ、クソガキが……

何の苦労も知らないようなやつが持って言い訳がない。


俺だ。

俺こそがそれを手にする価値がある。


「よこせええええええ!!!!!!」


この日その場で若者2人と、50代のサラリーマンが命を落とした。

たまたま鞄に入っていたサバイバルナイフで50代男性が若い男を刺し、大乱闘になったのだった。


※※※※※


狂った理想で命を奪う者。

使命に燃え他の命を考慮しない狂人。

我欲で法を犯す愚か者。


きっと悪意の一部なのだろう。

だが地球で14歳だったファルスーノルン星の絶対的な魔王は知らない。


事象としては知っているかもしれない。

だが経験なぞ到底ないものだ。


「くくく、いいぞ、もっとだ。もっとよこせ……はははっ、目くらましがきいたようだな。流石は勤勉な魔王様だ、全ての餌に食いついてくれる。クックック、はーはっはっはー」


レイスは活動を停止したのではなかった。

より悪意に満ちたものを優先したに過ぎなかった。


「くくっ、もう少しだな……こいつはすごいぞ?楽しんでもらえると……俺も嬉しいなあア」


遠い星のクレパスの奥底で……

レイスは笑い続けていた。

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