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第200話 壊れ始めるルースミール

(新星歴4820年11月16日)


レイトサンクチュアリ宮殿ではノアーナが任命の儀式と褒章授与に来るため準備が行われていた。


アルテミリスの疲弊が思ったよりもひどく、信者が増えたことによりその負担は一向に減らないため、一部権能の譲渡と、新な神候補としてルースミールを世界にお披露目するためだった。


実際にはアルテミリスは問題ない。

そういう事にしているだけだが……最近ルースミールの言動がおかしい事に大きな不安を感じていたためだ。


もうすでに、レイスに篭絡されている可能性を視野に入れていた。


「ノアーナ様。ルースミールをどうかお願いいたします」

「ああ、わかっている。大丈夫だ。お前の力を俺が今携えている。これがあれば問題はない」


俺は一つの宝珠を眺める。

ここ数日掛けてアルテミリスの祈りの力を注ぎこんだアーティーファクトだ。

最悪の場合、彼女の真核の時間を擬似的に止める。


どうしても俺は悪意が理解できないため、対応が取れない。

だから確実に解除するために俺たちは計画を進めることにした。


俺の再転生。

そのカギをルースミールに仕込むためだ。


「ふう、まさか年端も行かぬ少女に頼らざるを得ないとはな。俺は自分が情けない」

「仕方ありません。光触族に目覚めた彼女は数千年そのまま生きるでしょう。もし暴走してしまえば手に負えなくなります。私は彼女と約束しました。必ず助けると」


アルテミリスはまだ幼い10歳のルースを思い浮かべる。

心が痛む。


「アルテ、そんな顔するな。俺に任せてくれ……頼りないがな」

「ふふっ、そんなことないですよ……ええ……では戻ります……んん♡……もう」


俺は抱き寄せキスを落とす。

顔を染めるアルテミリスは可愛らしい。


「すまないなアルテ。君はしばらく聖域で待機してくれ」

「承知いたしました……信じていますよ。ノアーナ様」


※※※※※


ノアーナの到着を待つレイトサンクチュアリ宮殿は異様な緊張に包まれていた。

今日は本来、普段なら在りえない栄光の日だ。

世界の頂点で創造主である極帝の魔王が直接訪れる。


しかし、今回の主役である眷属第1席であるルースミールが、ここ数日明らかにおかしい言動が目立っていた。


彼女はとても賢く素直な女性だった。

見た目は18歳くらいの女性だが中身はまだ12歳。

皆認知していたし、可愛らしい彼女はおおむね好意的にとらえられていた。


しかし……


「あっ、ルーミー、なんか久しぶりだね。最近どう……」

「気安く話しかけないでくださる?わたくしは今日神と認められるのです。あなたとは格が違うの」


神々しいオーラを纏うルースミールが、久しぶりに会う親友に冷たく吐き捨てた。

余りの変化に言葉を失ってしまう。


「……えっ……ルーミー?」

「ふん、言葉も分からないのかしら?わたくしは今日よりアルテミリス様の代わりにあなたたちの頂点に立つのです。……頭が高い、跪けっ!」

「っ!?うあ……くうっ」


魔力を伴う言葉に思わず跪いてしまうナタリア。

悲しさと恐ろしさで涙が出てしまう。


「そうね、あなたは優秀だったわね……良いでしょう。わたくし付にさせてあげます。明日より神の間勤めとします。オルブレイト、そのように」

「はっ。かしこまりました」


そしてまるで興味がないように跪いているナタリアを見もしないで眷属第4席のオルブレイトと歩いていく。


でも…

聞こえる心の声。


『ごめんね……ナタリアちゃん……ごめんね………でも……』


「……ルーミー……うん。私きっとあなたの力になるよ」


ナタリアはかつて一度だけルースミールのあまりにも危ない決意を聞いていた。


※※※※※


今年の6月8日、ルースミールの12歳の誕生日の日。

眷属は神であるアルテミリスの意向で必ず誕生日を祝う事になっていた。


とは言え大所帯だ。

朝の礼拝の時に眷族上位者がその日誕生日の物の名を呼び、祝福を授けるといった儀式的なことを行うだけだが、その日誕生日を迎えた者には1時間だけ特別な談話室の使用許可が下りることになっていた。


特別な談話室は特殊な構造で、その中で話は誰も感知する事が出来ない。

なので通常は色恋の話が殆どだったのだが、このルースミールは親友のナタリアにだけ秘密の一部を話す決意をしていた。


(きっと私は狂ってしまう。そして他に気を遣う余裕がなくなる。最後の一線を越えてしまえば……きっとこの世界は怪しいレイスの思うようになってしまう。……協力者が必要だ。レイスとつながりのない人を)


「おめでとうルーミー。12歳なんだね。あなたがここに来てもう1年半たったんだね。……むう、凄く強くなっちゃってズルいよね」

「あはは、ありがとうナタリアちゃん。……あのね、お願いがあるの……その、えっと…」

「ん?なあに?私にできることなら協力するよ。だって私たち、親友でしょ」

「っ!?……うん。グスッ……ひん……ヒック……」

「うあ!?ど、どうしたの?……ねえ、具合悪いの?」


突然泣き出すルースミールナタリアは激しく動揺してしまう。

どんなに辛い訓練や修行でも泣きごとひとつ言わないこの子がまるで小さな子供のように泣いているからだ。


「ううん。ごめんね……嬉しくて……あのね、後で二人きりでお話ししたいの。……その特別な談話室で」

「っ!?……大切な事なんだね」

「……うん。ごめんなさい……ナタリアちゃんにしか言えないの」

「分かったよ。……もう、泣かないで。せっかくの美人さんなんだから」


そんなやり取りをし午後4時……


二人は秘密を共有する。


この世界を壊そうとしているものが居ること。

ルースミールの真核に、その力が埋め込まれている事。

最終的にはアルテミリス様と魔王ノアーナ様が助けてくれること。


そしてきっと……自分が狂いおかしくなっていく事を。

でも、自分がどうなっても、必ず世界を守ると。


「ごめんなさい。こんな話したくなかった。でも、最近私おかしくなってきている。きっともう持たない」

「……私は何をすればいいの?私そんなに力ないよ」

「ううん。傍にいてほしいの。きっとひどい事をあなたに言うと思う。でも……ごめんね、一人は怖いの……」


ナタリアはルースミールを抱きしめた。

そうしないとこの子が消えてしまいそうで……


抱きしめたルースミールは震えていたんだ……


※※※※※


「出迎えご苦労。初めましてかな。ルースミール。……とても12歳には見えないな。美しい」


ノアーナは一度寝ているルースを見たことはあったが相対するのは初めてだ

眷属が列を作り跪く中、中央で一人立つルースミールの手を取りキスを落とす。


「はい。極帝の魔王ノアーナ様。お待ちしておりました」

「ああ、ありがとう。儀式までまだ数刻あるな。お前と話がしたいが構わないかな?エスペリオン、調整は可能か」


呼ばれ立ち上がる眷属第2席のモンテリオン国王でもあるエスペリオンが恭しくお辞儀をしノアーナに視線を向ける。


「はっ。問題ありません。1刻であれば儀式に余裕を持って臨めるでしょう」

「ありがとう。さ、ルーミー、案内してくれるか?俺はここには初めて来たみたいなものだ。まあ数千年前に一度来ただけだからな」


何故か返事がない。

不思議に思いルースミールに瞳を向けた。


「っ!?」


※※※※※


えっ……

この人が……この方…このお方が……ああっ!


ルースミールの心に今まで感じたことのない感情が沸き起こっていた。


真面目で。

一生懸命で。

そしてすべてを捨ててでも世界を守ると誓っていた。


だから普通の物事を全て諦めていたルースミールは……

この一瞬でノアーナに好意を抱いていた。


理屈は知っていた。

他人の『そういうこと』も分かっていた。

父と母もとても仲が良い。

だから羨ましいとは思っていたが、自分には関係ないと思っていた。


でも……


そしてここでノアーナが最悪の悪手を放ってしまう。

無駄に感の良い18股のクズ男は……


優しくルースミールを抱きしめた。

そしてささやく。


※※※※※


「ふっ、そんな顔で見つめられてしまえばな。ああ、可愛いなルースミール。いやルーミー。良い子だ。案内してくれると嬉しいのだが?」


途端に顔を赤らめるルースミール。

明らかに挙動がおかしくなる。


「は、は、はいっ、こ、こ、こちらです。あうっ!」

「おっと。ふふ、危ないよお嬢さん。美人のそういうところは男にはたまらないぞ?気を付けるといい」

「す、すみません。……ど、どうぞ、こちらです」


ああ、凄く温かい手……カッコいい……ああ、私の心臓……おかしくなってる……


恋に落ちてしまった。

そしてその欲望はレイスにとって最大の付け入るスキとなる。


※※※※※


危ない子だ。

もう心が……真核が……ボロボロだ。

そしてこの子は……


すでに5つの人格を自ら消していた。


俺はアーティーファクトを全力で使用した。

ルースミールの真核を擬似的に停止させた。


渾身の能力だ。

彼女は気づかない。


だからこれ以上おかしくなることはないはずだった。


しかし見落とす。

ルースミールは恋に落ちてしまっていた。

そしてその執着が、最後の希望を打ち砕いてしまう。


準備が完全に整うまであとわずかというタイミングで、ノアーナを滅ぼすことになる。

その日まで……あと3年を切っていた。


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