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第208話 届かない回復と分離する真核

「茜、ああ、茜、頼む、死ぬな、茜、くそおおおおお」

「『オーバーヒール!!』だめだ、届かないよ、ノアーナ様、古代魔術使ってよ!!泣いてないで、お願い、茜が死んじゃう」


リナ―リアが泣きながら叫んでいる。


「古代除去術!!くっ、こんな強力な呪い、見たことがない……ノアーナ様!!しっかりしてください!!勇者を失ってしまえば、希望が潰えてしまう!!ノアーナ様!!」


ルミナラスも大声で俺に叱咤する。

でも、ダメなんだよ……もう…


「うう、ああ、茜、頼むよ……目を開けてくれ…死なないで……」


ネルが走り込みノアーナを平手で殴り倒した。

そして胸ぐらをつかみ引きずり起こす。


「ノアーナ様っ、しっかりしてください!!茜を殺すつもりですか!!お願いだから、めをさましてよっ!!!」


ネルから俺に温かいものが流れ込む。


俺は何を……


そうだ。

誓ったじゃないか。


……まだだ……そうだ、まだあきらめるなっ!!


「……ありがとうネル。目が覚めた。……皆力を貸してくれ!!茜を助けるぞ!!」


俺は魔力を練り上げる。


「英知の欠片・極風の頂・モダイスタの奇蹟・荒れ狂う涅槃の怨嗟・積み上げる虎児の祈り・深淵なる獄沙の開封よ・極限解呪、聖魔因果解呪陣!!!」


茜を中心に神聖な魔力が展開する。


「リナーリア、渾身だ!!俺に合わせろ!!マナヒール・極み!!!」

「はああ、オーバーヒール!!!」


茜に侵食する漆黒の魔力が消えていく。

呼吸が落ち着いていく。


暖かい緑の魔力が茜を癒し始めた。


茜の喪失を防いだ瞬間だった。


しかし代償はあまりにも大きかった。

呪いに極限まで特化した奴の魔力は、茜の真核の30%を破壊し、再生すらできなくなってしまっていた。

そして奪われた左腕は、復元できなかった。


※※※※※


「光喜さん……ごめんなさい……あいつ逃がしちゃったね」


左手を失い真核を侵され、誰よりもきついはずの茜が俺に声をかけた。

いま彼女はギルガンギルの塔の医療ポッドの中で治療を受けている最中だ。

その隣では何とか一命を取りとめたミューズスフィアも静かに目を閉じている。


「ばか、そんなことないだろ?俺の方が何もできなかった……俺の力はあいつに全く通用しない。俺は……あいつの餌だ」


沈痛な雰囲気に包まれる。


「ねえノアーナ。あいつさ、あれでまだ本体じゃないんだよね。レイスの残したデータだと、多分あいつ本体の20%くらいの力しかないみたいだ」


「……ああ、どうすればいいんだ」


くそっ、勝てるビジョンが浮かばない。

どうすれば……


「ノアーナ様、茜の真核を分けますわ」

「っ!?アート、今は……」

「今だからこそです。茜の状態を鑑定しました。このままだと10日持ちませんわよ」

「なっ?」


アースノートは茜に真直ぐ視線を向ける。


「茜、あなたを助けます。でも時間がかかるの……信じてくださいますか」

「……うん。アースノートさん。……信じてる」

「ふっ、流石茜ですわ。……そんなこと言われてしまえば絶対に失敗できませんもの」

「ふふっ。知ってた」


茜はそう言って目を閉じる。

アルテミリスはさっきから死にそうな顔で涙を流していた。


「ノアーナ様、あなた様の力、必要ですわ。あと、アルテミリス、あなたの力も」

「…わかった。何でもしよう。茜を失うわけにはいかない」

「グスッ……わかりました……何でもします」


※※※※※


結果としてアースノートはやっぱり天才だった。


アルテミリスの祈りの力と、一部切り離すことに成功した俺の真核の力を使い、茜はその後3日程度で意識を取り戻した。

もう体は元には戻らないものの、呪いの侵攻におびえる事はなくなった。


そして茜の真核は3つに分けられていた。


1つ目、擬似生命体で作った、ルースミールを監視し俺の再転生のカギとなる別人格「シルビー・レアン」


2つ目、俺の転生時に同時に飛ぶための欠片に宿るごく小さな真核。

3つ目、勇者茜として最後まで戦う、いわば本体。


実はルースミールは、奴が現れた影響でどうやら完全には呪縛から逃れられていなかった。

だがこれは予定調和だ。


残念ながら今の俺たちでは彼女を完全には救えなかった。


「光喜さん、力は落ちたけど、まだ戦えるよ。あいつは私が滅ぼす」

「ああ、わかった。期待している。茜…愛している」

「うん」


片手を失い大きな傷を受けた茜。

でも愛おしさは変わらない。

いや、もっと溢れた。


俺は彼女を癒す気持ちを込めて、数日心を交わし合った。

茜の真核の輝きが増していった。


そうだ。

俺たちは、

諦めるわけにはいかない。


必ず勝つ。

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