「くそっ、痛えな……くくっ、面白い、あいつ強かったな」
俺はあの女に受けた傷で存在値を大幅に減らしていたが、特に焦る気持ちもなく、レイスの情報に在った隠れ家のような場所で寝そべっていた。
勤勉な本体様と違って俺は怠惰だ。
面倒ごとはお断りだ。
「悪神様、我らにお導きを」
くそっ、面倒な奴がきやがった。
レイスの残した信者の親玉か。
「ああ、お前らの好きにしろ。……ふん、力か……どれ」
俺は自分の真核から力を抽出しそいつの真核に入れてやる。
「ぐうっ!!がああああああああ………おお、素晴らしい。大いなる力だ」
「俺は少し休む。お前らは好きにするといい」
「はっ、仰せのままに」
ふう、やっと面倒ごとがなくなった。
ああ、めんどくせえな。
……少し腹が減ったが……まあいい。
アイツらが培養した漆黒人間がもうすぐ溢れる。
そうすれば問題はなくなる。
それまで俺は……
寝るか。
※※※※※
(新星歴4822年2月26日)
あの日ガイワットが消滅した日。
ドラゴニュート隊で1名の犠牲者と、多くの人民の命が失われていた。
せっかく再建し始めたクリートホープ。
今回の悲劇で30%に当たる約7千名の犠牲者を出していた。
侯爵であるカイト・ルードロッドも亡くなっていた。
すぐ近くで魔力の奔流に包まれたナハムザートだったがどうやら「魔王に近しもの」の称号の効果で助かっていた。
俺は残っているグースワースの皆に、魔王に近しものと改良した共有感応を全員に付与した。
少しでも生き残る確率を上げるためと、危機に陥ったときにすぐに感じるためだ。
それから食事の時に全員集まるよう指示を出した。
もうあいつが復活した今この世界に安全な場所はほぼ無いからだ。
どうやら奴は怠惰らしい。
ネオが少しではあるが奴の波動を捉える事が出来ていた。
本来であれば急襲したいところだが、残念ながら今のままでは勝てない。
取り敢えずしばらく動く気配はないようだ。
時間がある今俺たちは最善を尽くすために準備に追われていた。
方法を模索し策を練らなければならない。
※※※※※
「ルーミー、その後体調に問題はありませんか」
「はい。アルテミリス様。心が軽く感じます。ですがまだ悪意がいたのですね。私もこの世界を守るため、悪意を集めます」
「……そうですね。ですが無理はしないでください。今日はお願いがあります。この子を、眷族第2席に据えてください。今空席になっている第1席にエスペリオンを戻せば問題はないでしょう」
アルテミリスはレイトサンクチュアリ宮殿のルースミールを極秘で訪れていた。
カウンターとしてシルビー・レアンを潜り込ませるためだ。
「シルビー・レアンです。よろしく」
「……はい。承知いたしました」
少し訝し目に目を細めるルースミール。
アルテミリスはさらに情報を与える。
「この子は勇者の力を秘めています。いずれ時を見て発表します」
「っ!?まあ、そうなのですね。分かりました。よろしくお願いします」
「……はい」
アルテミリスは不安を感じていた。
そしてルースミールに仕込んでいたはずの仕掛け。
ノアーナを地球へ送るその期間が確認できなくなっていた。
もう残念ながらもとに戻し再付与はできない。
計画を練り直す必要にせまられていた。
※※※※※
「……やられましたわね。アルテ?……ノアーナ様の再転生期間、200年になってますわ」
「!?200年?…そんな……」
「ふう。でも、逆にいいかもしれないわね。あいつの力を考えれば数年では無理かもしれない。きっと時間の流れは歪むはずです。おそらく実際にノアーナ様が地球で過ごすのは10分の1程度の時間となるはずですわ」
「ふう。俺は200年この世界を離れるという事か」
「ええ。もう今更改変はできませんもの。覚悟を決めなくてはいけませんわね」
俺の再転生のスケジュールは4824年の予定だ。
それまでにこの星との因果を強める必要がある。
「なあ、今行くのはダメなのか?俺が離れればおそらくあいつらも活動を休止するはずだが」
元の原因である俺がいなくなればあいつらは活動できない。
ならばこの危ない状況を改善できるのではないのだろうか。
アースノートがため息交じりに首を振る。
「今現在ですと成功率は10%を下回ります。そんな賭け、乗れませんわね」
「それに聖域にあなた様の真核を隠しています。ネオまで動けなくなるのは避けたいのですわ」
実はすでに俺の真核は分離済みだ。
今の俺は存在値10000程度しかない状況だった。
再転生の直前にはほとんどを聖域に残す予定だ。
「ノアーナ様、なるべく多く儀式を行ってくださいまし。因果を刻んでほしいのです」
「……そんな気分ではない…とか言っていられないのだな」
「ええ。アルテミリス、今から3人で行いますわよ」
「っ!?…ええ」
アースノートに真核をいじられた今の俺は儀式を行うごとに相手に戻るための因子を埋め込むことになる。
多いほど確率が上がるためだ。
「ああ、わかった。だがどうせ行うのだ。全力で愛を捧げよう」
「「はい♡」」
こんな状況だが、俺の愛する可愛い二人は、やはり最高だ。
不謹慎かもしれないが、俺は二人におぼれた。