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「申し訳ありません、受注したクエストですが……達成できませんでした」

「おかえりなさいませ、エンデリオ様。ご無事で何よりです」


 長身の美丈夫が受付カウンターの前でうなだれている。その彼に、彼女は最敬礼の45度で応対する。


 顔を上げた彼女の前に、ぺらぺらの巾着袋が置かれた。


「こちらは?」

「頭髪です。対象者の方の。……それ以外の部分は、私が到着したときにはすでに、持ち帰れるような状態ではなく……」

あらためさせていただきます」


 彼女はペラペラの袋を開けて中を覗いた。


「おかえりなさいませ、ルカ様」


 美丈夫が、苦し気に顔を歪めた。

 彼女は丁寧に袋の口を閉じ、大切そうにカウンターの上へと戻す。


「確かに」

「わかるのですか? その頭髪が誰のものか」


 彼女は長身の美丈夫の顔を見上げた。


「私にはわかります。だから私は、この冒険者ギルド、クエスト管理棟で唯一の受付係なのです」

「特殊な魔力をお持ちなので?」

「いいえ、ただ目が良くて。私には、生き物の魂が見えます。この髪がルカ様のものだとわかったのは、この髪と共にルカ様の魂が帰ってきたのが、見えているからです」

「今、この瞬間も見えているので?」

「はい。エンデリオ様の少し後ろに」


 美丈夫は背後を振り向いた。彼には何も見えていないようだった。

 僕にも何も見えなかった。


「体の一部分でも帰ってこられれば、魂も一緒に帰ってこられる。……ありがとうございます、エンデリオ様。ルカ様を、連れて帰ってくださって。クエストは成功です」


 美丈夫は何もない場所を見つめながら言った。


「いいえ……いいえ、失敗です。この結果で報酬を貰おうなどと、私にはとても」

「依頼者はこのような結末も覚悟されていました。それでも報酬は支払う、と」

「いただく気はありません。……ですがその髪は、どうか依頼者の方へ」

「……お預かりいたします」


 巾着袋を胸に抱き、最敬礼の45度。

 美丈夫は、彼女が頭を上げるのを待たず、逃げるようにその場を去った。


 誰もいない――ように僕には見える――正面を見て、彼女は呟く。


「お疲れさまでございました」


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