目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 話しかけられた

 演習が終わった時、電子音のような高い音がなった。なんだかステータスに変化があったような感覚がする。


 実際にステータスを開いてみた。


『身体強化レベル二

 短地レベル一

 自己防御レベル一』


 なぜかスキルが二つほど追加されている。しかも一つは自分が勝手に作ったスキルだ。


「なんだこれぇ……」


 どんなスキルなのかは、また後で確認することにした。


「タケルー!」


 遠くからナターシャが近づいてくる。草薙が振り返ると、ちょうど胸元にナターシャが飛び込んできた。


「おわっ!」

「タケル! 生きててよかった……!」


 ナターシャは半分泣いているようで、目に涙が浮かんでいた。


「お、おぉ……。俺は大丈夫……」


 そういってナターシャの肩を持ってスッと離れる。


「なんとか勝ててよかった……」

「お前さん、筋がいいな」


 そこにギルド長もやってくる。


「ギルド長……」

「君、名前は?」

「草薙武尊です」

「うん、良い。君はぜひ冒険者になるべきだ」


 そういってギルド長は演習場の外へ向かう。


「カウンターまで来てくれ。ちょっと話をしよう」

「あの……、あの人たちはどうするんですか?」


 草薙は倒れている冒険者たちを指さす。


「放置していい。そのうち起きるだろう」

「テキトー……」


 冒険者の扱いに、草薙は思わず同情してしまう。


 それはさておき、受付カウンターまで戻った三人はそこで話をする。


「さて、タケルは冒険者になりたいのだったな?」

「はい」

「先ほどの戦闘を見た限り、冒険者に必要な素質があることが示されただろう」

「それじゃあ……!」


 草薙に光明が見える。


「しかし、それでも駄目だ」


 残念。光明は消えてしまった。


「どうしてですか!?」

「確かに君の力は十分に示された。訓練と武力試験はパスして問題ないだろう。しかし、冒険者になるためには学力試験もパスしなければならない。今回はそれを示すことはしていないはずだ」

「あっ……」


 つまり、筆記試験を受けないといけないのだ。


「まぁ、学力試験を受けるというのなら、こちらで便宜を図ってもいいのだが、どうする?」


 ギルド長は聞いてくる。


「やります!」

「ならばよし。早速調整に入ろう。後で住んでいる場所を教えてもらえないか?」

「あ、それなら、私の家にしてください」

「カルナス子爵の屋敷だな? 承知した」


 そういってギルド長はカウンター裏に消えていった。


「とりあえず、なんとかなったか……」


 草薙は一つ溜息をする。


「そうだね。本当によかった」


 そういってナターシャは笑いかけてくる。その顔を見た草薙は、なんだか小っ恥ずかしくなって顔を背けてしまった。


「ところでタケル……」


 ナターシャが真面目な顔になって聞いてくる。


「あなた、文字は読めるの?」

「……あ」


 思わぬ落とし穴が見つかった。草薙は試しにクエストの紙を読んでみるが、一文字たりとも読むことはできなかった。


「読めない……」

「文字が読めないか。仕方ないかもな。冒険者や貴族以外は使う機会も少ないし」


 そのように話しかけてくる人がいた。草薙は思わずそちらを振り向く。


 そこには重厚な装備を身にまとった男性が立っていた。その後ろにはもう一人男性がいる。


「えっ……? どちら様……?」

「ギルド以外では知られてないからな。仕方ない」


 重厚な装備の男性が自己紹介をする。


「僕はミゲル・クラシス。このギルドで一番強いAAAトリプルエー級冒険者だ」

「一番強い……!?」


 思わぬ人物が接触してきたことに、草薙は大層驚いた。


「どうして俺に……?」

「さっきのアラドたちの演習見てたよ。君結構強いね」

「あ、ありがとうございます」

「もし本当に冒険者になれたら、一緒のパーティになってほしいね」

「ミゲル、困惑するようなことを言うな」

「悪い悪い。ジークの言う通りだ」


 後ろにいる男性は、ジークと言うらしい。


「それじゃ、僕たちはこの辺りで失礼するよ。またどこかで会おう」


 そういってミゲルは去っていった。


「何だったんだろう……」

「勧誘だったのかな?」


 そのような話をしつつ、草薙たちはギルドを後にする。


「さて、この後は買い物ね」

「服を買いにいくんだっけ。でもお金持ってないし……」

「大丈夫、今日は私が払うわ」


 そういってナターシャは草薙の手を取り、商店街の方に行く。


 そして商店街の露店にて、ナターシャが服を選んでいく。


(なんかこの感じ……、デートではないか……!?)


 思わず顔が熱くなり、ナターシャから顔を背ける。


「うーん、タケルには民族衣装じゃなくて流行してる色のほうが合いそうなのよねー……」


 ナターシャはそのことを感じさせずに、草薙に合いそうな服を探す。


 結果として、ベージュ色のティーシャツのようなものに、カーキ色のズボンを合わせる形になった。


「これがタケルに一番似合ってるかな」

「まぁ、確かに……」


 無難な合わせ方をする草薙からすれば、少し斬新に近い。


「でも、選んでくれてありがとう」

「どういたしまして」


 こうしていい雰囲気になって、二人はナターシャの屋敷に戻るのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?