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第11話 受注した

「それでは、こちらが冒険者カードになります。なくさないように気を付けて下さい」


 学力試験を受けた翌日。草薙は、冒険者ギルドにて身分証の一つである冒険者カードを入手した。


「やっと……、やっと入手できた……」


 特例に次ぐ特例によって入手したカードである。必要な書類も多くは揃えられなかったため、半ば無理やり申請した形だ。


「良かったね、タケル」


 一緒に来てくれたナターシャが、一緒に喜んでくれる。


「ありがとう。ナターシャがいてくれなかったら、今頃どうなってたことやら……」


 そんな話をしつつ、カウンターを去ろうとする。


「タケル様、まだお帰りにならないでください。残っている説明があります」


 受付嬢が草薙のことを止める。


「まだ説明が残っているんですか?」

「あと一点だけですので」


 説明は最後まで聞かないといけない。仕方なく草薙はカウンターに戻る。


「最後の説明ですが、基本的に冒険者は最低でも二ヶ月に一回、クエストを受注しなければいけません」

「それって、定期的にクエストを受けなければならないってことですよね?」

「はい。そして先ほども説明した通り、何らかの原因でクエストが完了しなかった場合、完了義務違反として罰則点が加算されます。この罰則点が一定の基準を超えると、カードが無効になり、冒険者としての活動ができなくなります。そして最低限のクエスト受注を怠った場合、一発で冒険者ギルドの登録が抹消になります」

「つまり冒険者として活動していくならば、最低でも二ヶ月に一回以上クエストを受注しないといけないし、それを完了しないと罰則の点数が付くってことですか?」

「概ねその通りです」


 草薙はあからさまに嫌な顔をする。


(罰則点付くって、運転免許じゃあるまいし……)


 だがそういう制度でも設けないと、冒険者の品位を保つのが困難なのだろう。


「それでは、最初のクエストを選んでください」


 そう言われて、草薙はクエストが張り出されているボードの前に立つ。


「今の難易度でいい感じのクエストかぁ……」


 現在の草薙のランクはC級。C級とB級のクエストを受注することができる。B級クエストはかなり難易度が上がるため、今はC級クエストで腕を慣らしたほうがいいだろう。それに他のC級クエストはない。


「そうなると、これになるか……」


 そういって選択したクエストは、食人植物のマニモストアと呼ばれるモンスターの討伐である。どうやら村の近くに出現したようで、一刻も早い駆除を要件に入れているようだ。


「これ、お願いします」


 受付カウンターの受付嬢に、このクエストの紙を出す。


「かしこまりました。カードの提示をお願いします」


 そしてカウンター裏でクエストの受注処理が行われる。


「受注できました。お気をつけてクエストを遂行してください」

「分かりました」


 そういってクエストの紙を回収する。


「タケル、どんなクエストを受けたの?」

「ん? これ。マニモストアってモンスターの討伐依頼」

「へー。……でもこれ、場所がラトニ村だけど大丈夫?」

「……どこ?」

「エルケスから南に十数キロ離れた場所にある村よ。馬車で半日くらいかかるから、徒歩で行くのは無理ね」

「え、マジ?」


 思わぬ所に落とし穴があった。まさか移動の問題が出るとは思わなかったからだ。


「でも、ナターシャが一緒に来てくれれば問題なくない?」

「駄目よ。それは国家が人民の所有物を違法に徴発するようなもので、法律によって禁じられているわ」

(えらく近代的な国家体制してるな……)


 そんなことを思う草薙だが、少し引っかかりを覚えた。


「その発言から察するに、徴発も場合によっては適法ってこと?」

「そこからは僕が解説しよう」


 どこからともなく、ミゲルが登場する。


「ミゲルさん!? いつの間に……」

「解説だが、冒険者というのは身分上は武力省に所属する特殊官僚になる。その特殊官僚はスポンサー制度を取り入れているのだ」

「スポンサー制度?」

「そう。貴族でも商人でも問題ないが、冒険者に対してあらゆるサポートをしてくれるスポンサーを付けることができる。多くの冒険者がこの制度を利用しているんだ」

「冒険者はスポンサーの支援を自由に受けられる……ってこと?」

「その通り。大抵の場合はギルドが仲介人になってスポンサーと契約するが、冒険者によっては個人で探すこともある」


 ミゲルがそのように言う。そうなると、導き出される回答は一つ。


「ナターシャにスポンサーになってもらう、が最適解か」

「え、私?」


 草薙の言葉に、ナターシャは困惑する。


「でも他に方法がないのも事実だしなぁ」

「それはそうだし、私だってタケルのこと支援できるならしたいよ。でも……」

「でも?」

「その権限を持っているのは、現当主であるお父様なの」

「あー、なるほど?」


 ナターシャの一存で決めることはできない。当然、カルナス子爵当主の許しがなければスポンサーとして契約することも不可能だ。


「ちなみにナターシャのお父様は今どこに?」

「今は東方のシシアル伯爵領での紛争に参加しているわ。もう少しで帰ってくるはずなんだけど……」

「それまではどうしようもない、と……」


 今は動けないにしても、当主に対する説明の準備が必要だろう。


「じゃ、僕はここで失礼するよ。タケル君は子爵様に気に入られるように頑張ってね」


 そういってミゲルは去る。


「とにかく、できることを進めるか」


 草薙は冒険者ギルドを後にし、準備を進めるのだった。

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