アーノルドと話をした翌日、草薙は冒険者ギルドに足を運んでいた。
「パーティ結成のために募集をしたい、と?」
「はい、そうです」
「でしたら、こちらに必要事項を記入してください」
そう言われて、一枚の紙に必要事項を書いていく。募集する冒険者の種類や人数を記入する。とりあえず、馬を扱え、後方支援をしてくれるような人材にした。
(こうしてみると、完全に役所仕事だよなぁ……)
そんなことを思いながら、記入した紙を受付嬢に渡す。
「確認しました。翌営業日から募集の掲示をします」
「よろしくお願いします」
「ところでタケル様は現在クエストを受注していますよね?」
「え、あ、はい」
「クエスト完了までの日数にはご注意ください」
(そういえばクエスト遂行のための募集だったな……。回りくどいことしてるよなぁ……)
しかし、これもクエスト完了するための必要な行動である。ならば致し方ないと考えるしかない。
「しかし時間がかかるのが問題なんだよなぁ……。この時間で何しよう……」
少し考えた後、草薙は思いつく。
「装備でも整えるか」
ナターシャを呼びに、一度屋敷に戻る。
「装備の調達ね。分かったわ」
そういってナターシャは付いてきてくれた。
「ところで、ナターシャっていつも何してるの?」
「何って……。いつもならお父様の公務のお手伝いしたり、エルケスの年度会計の確認したり……」
「え、ナターシャって議員か秘書だったりする?」
「領土と爵位を持つ家なら普通のことだよ?」
「あー、俺が平民なだけだったかぁ」
そんな話をしながら、町工場のあるエリィ区まで移動した。
エリィ区に到着する。町工場が所せましとあり、鎧から大剣、ヘアブラシまである。そんな中で、草薙は格闘戦向きの装備を探すことに。
「格闘戦が主体だから、硬い鎧は動きにくくなりそうな印象あるんだよなぁ」
「そうなると、革製の鎧があったはずよ」
「確かに、軽くて動きやすい恰好だ」
実際に革製品を扱っている店に向かう。
「いらっしゃい」
「すみません、革の鎧ってあります?」
「あるよ。ただうちはオーダーメイドだから、前払いの注文してからじゃないと作らないよ」
「ちなみにお値段っていくらってあります?」
「見積もり取るなら注文してからだけど、兄ちゃんくらいなら五十セイル前後だろうな」
「五十セイルかぁ……」
草薙は少し考え、答えを出す。
「じゃあ革の鎧一式ください」
「あいよ。じゃあ採寸するぞ」
こうして全身を採寸し、革の鎧の製作を注文する。そのほか、冒険者として使うであろう背嚢や小刀、足回りの装備を整える。
「装備品を揃えるだけで、百セイル超えちゃったな……」
予想外の出費に、草薙は頭を抱える。
「ただでさえスポンサー制度でアーノルドさんに迷惑かけてるのに、これ以上お金関係で迷惑をかけたらどうしようもないよ……」
ここでいつもの希死念慮が発生する。
「迷惑かけてるだなんてお父様は思ってないはずよ。冒険者っていうのは、それだけ偉大な職業なの」
「そーなのかなぁ……。こっちの世界の価値観って、いまいち分からん……」
「大丈夫、そのうち慣れるわ」
そうして装備が出来上がるのを待っている間に、冒険者ギルドから連絡が届く。どうやら募集に合致する冒険者が見つかったようだ。
草薙は指定された日時に、冒険者ギルドへ向かった。
「タケル様ですね。お相手の方が待っています」
受付嬢に案内され、面会室に案内される。そこにいたのは、草薙と大して変わらない年齢の女性だった。黒髪で目の色は赤、椅子に座っているが身長は低い印象を受ける。
「彼女が条件に合致した冒険者です」
「……なるほど」
彼女を見た草薙は、何か頼りなさのようなものを感じた。しかしそれは彼女に対して失礼である。少なくとも、彼女は草薙よりも長く冒険者をやっているのだから。
「それでは、最後は当人同士で話し合ってパーティを組むかご相談ください。私は受付に戻ります」
そういって受付嬢は部屋を出る。
「えーと、まずはお名前を聞かせてもらっても?」
草薙から話しかける。
「はい。ミーナです」
「ミーナさん。よろしくお願いします。改めまして、自分は草薙武尊といいます」
直接話した感じでは、かなりおっとりとした印象を受ける。
「現在の冒険者のランクは?」
「B級です」
「今まで冒険者として、どのような活動をされてたんですか?」
「いろんな冒険者の後方支援として、戦闘時は回復役をしています。そのほか、馬を操ったり料理をしたりって感じです」
(なるほど。派遣社員みたいに、いろんなパーティを渡り歩いているのか……)
そのような解釈をした草薙。何事にも器用にこなすことができるのなら、これ以上の人材はいないだろう。
「個人的にはすぐにでもパーティを組んでほしい所なんですが、自分は戦闘以外はからきし駄目なので、そこはお任せしてもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「では交渉成立ということで」
こうしてパーティが結成された。