無事にパーティを結成することが出来た。
「パーティ名はどうしますか?」
パーティ結成の申請書類を貰おうとした時に、受付嬢からそんな話を振られた。
「パーティ名かぁ。考えてなかったな……」
「ミーナはどんなパーティ名でも大丈夫です」
「……じゃあ『ヘイムダルの守り人』で」
ヘイムダルとは北欧神話の神で、角笛ギャラルホルンを持っているとされる。なぜこの名前にしたのか。
(なんか響きがカッコいいじゃん)
なんとも俗っぽい理由である。
そんなこんなで申請書類に必要事項を記入し、それを受付に提出する。
「確認できました。明日からパーティとして活動できます」
準備は整った。草薙は早速ミーナを屋敷に招待する。
「カルナス子爵がスポンサーなんて、すごい人脈ですねぇ」
「まぁ、成り行きなんですけどね」
そういって屋敷の裏手に回る。そこには馬小屋があり、使用人が馬の世話をしていた。
「おや、タケル様。そちらの方は?」
「今日からパーティを結成するミーナです。馬を扱えるとのことで、馬と会っておいた方がいいと思いまして」
「それはいい考えですね。かくいう自分も、ここにいる馬たちに認めてもらうのに二、三年かかりましたから」
そんな話をしている横で、ミーナはフラッと馬の方に寄っていく。ゆっくりと馬に警戒されないように近づいていった。
その様子を見た馬はミーナのことを警戒しているが、それでも興味深そうに顔を近づけてくる。
「大丈夫ですよー。怖くないですよー」
そういって手の甲を馬に近づける。馬は鼻をミーナの手に近づけ、スンスンと嗅ぐ。しばらく嗅いだ後、ペロッと舐める。
「もう慣れたのか……!? あの子、才能があるんじゃないか……?」
「えっもう慣れたんですか?」
「あの馬はかなり気性が荒いんです……。私だって最後まで気を許してもらえなかったのですから」
「それはすごいな……」
馬と触れ合うミーナを見る草薙。もしかしたらとんでもない人材を掘り当てたのかもしれない。
その後は、アーノルドにミーナのことを紹介する。
「君がタケル君とパーティを組んでくれるのか」
「はい」
「こんなことを言うのはタケル君に失礼だが、彼はまだ冒険者になりたての新人だ。本当なら、タケル君がミーナ君にパーティ結成を懇願するものだと思うのだが?」
「でも、困っている人がいたら助けるのが人間だと思うのです」
「うむ、君の言う通りだ。人間は助け合って生きているものだからな」
そういってアーノルドは席を立ち、ミーナの前まで歩いていく。
「タケル君のこと、どうか頼む」
「もちろんです」
「あのー、なんか俺がやんちゃ坊主のようなセリフが聞こえるんですが……?」
「実際その通りだろう?」
「えぇ……」
でも否定はできない。戦う時に毎回
「まぁ、そのことは置いといてだな。商人から二人用の馬車を借りることが出来た。ちょうど余っているのがあったそうだ」
「本当ですか? 良かった……」
「タケル君が受注したクエストの期限も近い。ミーナ君は馬小屋から好きな馬を選んでくれたまえ。タケル君は今一度装備の確認をしなさい。このクエストでの一番の懸念点はタケル君がクエストを達成できるかにかかっているのだから」
「はい」
こうして、カルナス邸に商人から借りた馬車がやってくる。二人乗り用の馬車で、後ろに立ち台にもなる荷物置き場があるタイプだ。
(これカブリオレとか言う十九世紀に開発された馬車では……? これまたえらく近代的だなぁ……)
心の中で思うものの、口には出さない草薙だった。
クエスト受注から三週間が経過した。馬車の手配、馬の準備、各種荷物の整理などが済み、出発の手はずが整った。
準備をしている間に、草薙はアーノルドと模擬戦を数回行う。その結果、スキルのレベルが上昇した。
『身体強化レベル四
短地レベル二
自己防御レベル三』
今はこれだけあれば問題ないだろう。オーダーメイドした革鎧を装備し、必要な荷物を馬車に乗せる。数日分の水と食料だ。
その準備中に、アーノルドとナターシャが声をかける。
「タケル君、初めてのクエストで緊張しているかもしれないが、あまり力まずに行きなさい。大丈夫、君は強い冒険者だ」
「タケル、怪我だけは気を付けてね」
「ありがとう、ナターシャ。アーノルドさんもありがとうございます」
なんだか永遠の別れのようなしんみりした空気をしているが、馬車で半日ほどの場所へ行ってくるだけである。だが、それがどれだけ危険なのかを逆説的に物語っているだろう。
「タケルさん、こっちの準備も整いました」
ミーナが草薙に声をかける。
「それじゃあ、行ってきます」
「うむ、神のご加護があらんことを」
アーノルドやナターシャに見送られ、草薙とミーナはカルナス邸を出発する。
草薙の冒険者としての始まりだ。