クランクで一晩明かした草薙たち。ミーナの調子も良さそうである。
「それじゃあ、今日もよろしく頼むよ。ミーナさん」
「はい。お任せください」
そういって草薙たちは再び草原へと向かう。
その道中、草薙はミーナに話しかける。
「ミーナさん、その、一人に負担をかけるようで申し訳ないです」
「タケルさんが謝ることじゃないですよ。私にしかできないことですし、私がやりたくてやっていることですから」
ミーナの優しさが、草薙の良心にグサリと刺さる。
「それに、私が活躍することで誰かが幸せになれるなら、それ以上の喜びはありませんから」
なんとも眩しい笑顔である。
(こういう思いを守っていけたら、どれだけ幸福なんだろうなぁ)
遠い心情に思いを馳せる草薙。思うだけならタダである。
さて、昨日と同じように草原へとやってきた草薙たち。
「それじゃあ、配置は昨日と同じで問題ないかな?」
「俺は大丈夫だ」
「私も大丈夫、です」
「自分も問題ないです」
「分かった。それじゃあ行動開始と行こう」
そういってミゲルが足を動かした瞬間だった。
突如として、草原の地面から巨大な火柱が上がる。
「な、なんだ!?」
突然のことで、全員その場を動けなかった。
『バリアン・ヘキサゴ!』
アリシアを除いては。火柱の前に立ち、防御魔法を展開する。球体状の半透明なバリアが展開され、火柱から全員を守る。
少しして、火柱は消え去った。火柱が上がった周辺は焼け焦げ、草一本も残っていない。
「皆、大丈夫ですか!?」
アリシアが確認する。
「こっちは大丈夫。タケルたちの方は?」
「こっちもなんとか……」
草薙は驚きすぎて、声を上げずに半分ほど腰を抜かしていた。何とか力を入れ直し、草薙は立ち上がる。
「今のは一体……?」
「それはワシの攻撃じゃ」
火柱の上がった方から声が聞こえてくる。草薙たちは臨戦態勢になった。
まだ熱が残っている地面を歩いてくるのは、ガリガリにやせ細った長身の男性だ。
「おどれら、あん攻撃でよう生き残っとったな」
「誰だ貴様は」
ミゲルが剣を抜く構えをしつつ、男性に聞く。
「あぁん? せやなぁ……、ワシはガンモ。しいて言うなら、暗殺者やのぉ」
「暗殺者? にしてはやることが大々的で悪目立ちしているが?」
「暗殺するにゃあ手段なんぞ選んでられん。ちゃうか?」
そういってガンモは草薙たちに接近する。
「誰を暗殺するつもりだ? ナターシャ嬢か? 僕か?」
ミゲルが質問する。
「おどれらには興味ない。ワシが興味あるんは……」
次の瞬間、ガンモの姿が消える。と思えば、草薙の前に現れた。
「おどれじゃ」
直後、草薙の腹に拳が入る。それにより、草薙の体は後方に吹き飛ばされる。地面を転がり、倒れこんでしまった。
「「タケル!」」
「タケルさん!」
ナターシャとミゲル、ミーナの声が重なる。
「おぉ、腹に穴開けるつもりで殴ったんじゃが……。それを耐えるとは、ばり頑丈やのぉ」
ガンモは関心するように言う。
それを見たミゲルは問答無用で剣を抜き、ガンモに振りかざす。
「ふん!」
「甘いわ」
ミゲルの剣を片腕で受け止めるガンモ。特に防具など付けていないのに、剣を受け止めている。
「何っ!?」
「おどれらには興味なか。ワシはアイツさ殺すんじゃ」
ミゲルの剣を振り払うと、ガンモは一目散に草薙の方へ走る。その草薙は、まだ地面に伏していた。
「タケル! 危ないっ!」
ミゲルが叫ぶも、もはや草薙との距離は近い。だがそれを阻止した人がいる。
『デトネーション!』
ガンモの後ろから指向性の爆轟が、ガンモ目掛けて飛んでくる。爆轟はガンモの背中に命中し、そのまま草薙のいる場所の向こうまで吹き飛ばす。
ミーナの魔法により、草薙はなんとか助かった。ミゲルたちが草薙の元に駆け寄る。
「タケル! 大丈夫か!?」
「何とか腹パンで済んだ……」
「出血はしていないが、念のため回復魔法をかけてくれ」
「了解です。『リライブ・ヒール』」
アリシアの魔法によって、草薙の治癒が行われた。
治癒が終わった時、遠くの方でガンモがのっそりと立ち上がる。ガンモの背中には、確かにデトネーションの命中した跡が残っているが、服の一部が焼けているのみであった。
「そんな……。デトネーションを受けて生きているなんて……」
ガンモの様子を見たミーナが驚いている。
「いてぇなぁ……。ワシにそんな魔法をぶつけんなや」
ガンモはこちらに体を向け、草薙たちを見る。その目は赤くギラついていた。