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第25話 なんか来た

 クランクで一晩明かした草薙たち。ミーナの調子も良さそうである。


「それじゃあ、今日もよろしく頼むよ。ミーナさん」

「はい。お任せください」


 そういって草薙たちは再び草原へと向かう。


 その道中、草薙はミーナに話しかける。


「ミーナさん、その、一人に負担をかけるようで申し訳ないです」

「タケルさんが謝ることじゃないですよ。私にしかできないことですし、私がやりたくてやっていることですから」


 ミーナの優しさが、草薙の良心にグサリと刺さる。


「それに、私が活躍することで誰かが幸せになれるなら、それ以上の喜びはありませんから」


 なんとも眩しい笑顔である。


(こういう思いを守っていけたら、どれだけ幸福なんだろうなぁ)


 遠い心情に思いを馳せる草薙。思うだけならタダである。


 さて、昨日と同じように草原へとやってきた草薙たち。


「それじゃあ、配置は昨日と同じで問題ないかな?」

「俺は大丈夫だ」

「私も大丈夫、です」

「自分も問題ないです」

「分かった。それじゃあ行動開始と行こう」


 そういってミゲルが足を動かした瞬間だった。


 突如として、草原の地面から巨大な火柱が上がる。


「な、なんだ!?」


 突然のことで、全員その場を動けなかった。


『バリアン・ヘキサゴ!』


 アリシアを除いては。火柱の前に立ち、防御魔法を展開する。球体状の半透明なバリアが展開され、火柱から全員を守る。


 少しして、火柱は消え去った。火柱が上がった周辺は焼け焦げ、草一本も残っていない。


「皆、大丈夫ですか!?」


 アリシアが確認する。


「こっちは大丈夫。タケルたちの方は?」

「こっちもなんとか……」


 草薙は驚きすぎて、声を上げずに半分ほど腰を抜かしていた。何とか力を入れ直し、草薙は立ち上がる。


「今のは一体……?」

「それはワシの攻撃じゃ」


 火柱の上がった方から声が聞こえてくる。草薙たちは臨戦態勢になった。


 まだ熱が残っている地面を歩いてくるのは、ガリガリにやせ細った長身の男性だ。


「おどれら、あん攻撃でよう生き残っとったな」

「誰だ貴様は」


 ミゲルが剣を抜く構えをしつつ、男性に聞く。


「あぁん? せやなぁ……、ワシはガンモ。しいて言うなら、暗殺者やのぉ」

「暗殺者? にしてはやることが大々的で悪目立ちしているが?」

「暗殺するにゃあ手段なんぞ選んでられん。ちゃうか?」


 そういってガンモは草薙たちに接近する。


「誰を暗殺するつもりだ? ナターシャ嬢か? 僕か?」


 ミゲルが質問する。


「おどれらには興味ない。ワシが興味あるんは……」


 次の瞬間、ガンモの姿が消える。と思えば、草薙の前に現れた。


「おどれじゃ」


 直後、草薙の腹に拳が入る。それにより、草薙の体は後方に吹き飛ばされる。地面を転がり、倒れこんでしまった。


「「タケル!」」

「タケルさん!」


 ナターシャとミゲル、ミーナの声が重なる。


「おぉ、腹に穴開けるつもりで殴ったんじゃが……。それを耐えるとは、ばり頑丈やのぉ」


 ガンモは関心するように言う。


 それを見たミゲルは問答無用で剣を抜き、ガンモに振りかざす。


「ふん!」

「甘いわ」


 ミゲルの剣を片腕で受け止めるガンモ。特に防具など付けていないのに、剣を受け止めている。


「何っ!?」

「おどれらには興味なか。ワシはアイツさ殺すんじゃ」


 ミゲルの剣を振り払うと、ガンモは一目散に草薙の方へ走る。その草薙は、まだ地面に伏していた。


「タケル! 危ないっ!」


 ミゲルが叫ぶも、もはや草薙との距離は近い。だがそれを阻止した人がいる。


『デトネーション!』


 ガンモの後ろから指向性の爆轟が、ガンモ目掛けて飛んでくる。爆轟はガンモの背中に命中し、そのまま草薙のいる場所の向こうまで吹き飛ばす。


 ミーナの魔法により、草薙はなんとか助かった。ミゲルたちが草薙の元に駆け寄る。


「タケル! 大丈夫か!?」

「何とか腹パンで済んだ……」

「出血はしていないが、念のため回復魔法をかけてくれ」

「了解です。『リライブ・ヒール』」


 アリシアの魔法によって、草薙の治癒が行われた。


 治癒が終わった時、遠くの方でガンモがのっそりと立ち上がる。ガンモの背中には、確かにデトネーションの命中した跡が残っているが、服の一部が焼けているのみであった。


「そんな……。デトネーションを受けて生きているなんて……」


 ガンモの様子を見たミーナが驚いている。


「いてぇなぁ……。ワシにそんな魔法をぶつけんなや」


 ガンモはこちらに体を向け、草薙たちを見る。その目は赤くギラついていた。

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