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第38話 お会いした

 草薙とミゲルは神殿を後にし、一度ギルド本部に戻ることにした。


「しかし、やはりタケルのスキルについては何も分からなかったな」

「そうですね。やっぱり体質と見るしかないんでしょうか……」

「うーむ。体質とするなら、かなり無理のある説明になりそうだな。スキルはこの世界の根底、世界の理であるとも言える。それを体質として説明するのは無茶が過ぎるというものだろう」

「はぁ、そうなんですか……」


 曖昧な返事しか出来ない草薙。


(いきなり世界の理だなんて言われてもなぁ……。実感すら湧かないわ)


 そう思いつつも、草薙とミゲルはギルド本部に到着した。ギルド本部に併設されているカフェテリアで、ジークとアリシア、ミーナが紅茶やらタルトやらを飲み食いしていた。絵面だけ見れば、古き良き個人経営のカフェのように見えるだろう。


「お、ミゲルたちが戻ってきた」

「お帰りなのです」

「いい感じのスキル、手に入りました?」


 三人は、まずミゲルに様子を聞く。


「もちろん、新しいスキルを授与してもらった」


 そういってミゲルはサムズアップする。


「どんなスキルだ?」

「流れ斬りというものでな━━」


 そういって仲間にスキルの説明をする。草薙はそれを、後ろの方から眺めていた。


(あぁ……。こうして見てみると、やっぱり俺って必要ないように見えるなぁ……)


 草薙は久しぶりに希死念慮を感じる。しかしその感覚は、以前までの感じ方とはかなり穏やかであった。今では、ホップアップしてきた希死念慮に対してもすぐに忘れられるようになっている。


 そこにミゲルやミーナが声をかける。


「タケル。君の話もさせてあげたらどうだい?」

「タケルさんもこっちにきてみたらいかがですか?」

「……そうだね」


 そういって草薙は、ミゲルたちの輪に加わった。


 そこで草薙はスキルのことを話す。


「……というわけで、スキルが増えていることに関しては全く分からないと言われました」

「そうかぁ。俺たちでも聞いたことないんだから、そういう反応になってもおかしくはないわな」


 ジークが両手を頭の後ろにやりながら言う。


「不思議なことが起きているのは間違いないだろう。その原因が分からないというだけで放り出すのは少々酷ではあるが……」

「少し可哀そうなのです」

「でも原因が分からないとなると、手の施しようがないですね……」

「まぁ、自分の体調が悪くなっているとかじゃないので、しばらくは放置でも問題ないと思いますよ」


 そんな話をしているところに、若干千鳥足気味のナターシャがやってくる。


「お疲れ様~……」

「ナターシャさん、お疲れ様です」

「ナターシャ、大丈夫?」


 ミゲルと草薙はナターシャに声をかける。


「大丈夫じゃない……。情報の洪水で、もう目が回っちゃって……」

「そんなに大変なんだね」

「そうなんです、ミゲルさん」


 そういってミゲルの顔をジーッと見るナターシャ。


「ミゲルさん、事務作業って得意ですか?」

「え? まぁ一応……」

「なら問題ないですわ。ちょっと私の仕事を手伝っていただけませんこと?」


 ナターシャが笑顔でミゲルに近づく。笑っているのに笑っていないような雰囲気を醸し出している。


「え、いや、僕の仕事は冒険者であって、事務員ではないんですが……」

「怪物化の討伐を行った当事者の声も必要でしょう? つべこべ言わずに来てください……!」


 そういってミゲルは、ナターシャに首根っこを掴まれて引きずられていく。


(あぁ……、ご愁傷様……)


 この後の展開が予想出来てしまった草薙であった。


「ナターシャさんの作業はまだ時間がかかりそうだな」


 ジークがのほほんと言う。


「この後は宿に戻るしかないのです?」

「そうですねぇ……」


 カフェテリアから移動し、冒険者ギルド本部の扉から出ようとした時だった。扉の前にいる人々が急に歩みを止める。


「なんだ……?」


 草薙が状況を確認するため、顔を上げた時である。目の前に大柄の男性が立っていた。草薙は反射的に道を譲るため、横へと動く。


 その時、他の三人が跪いているのが見えるだろう。


「な、なに……?」

「タケル、頭を下げろ。ノーフォード公爵カラム・ノーフォード卿だ」


 ジークの言葉を聞いたノーフォード公爵は、草薙のほうをジッと見つめる。


「貴様がクサナギタケルという冒険者か?」

「えっ、あっ、はい……」


 草薙はジークに言われた通り、公爵に対して跪く。


「貴様、貴族に対する所作がなっていない。一体どこで暮らしていたんだ?」

「えー……、遥か遠くの東方から来ました。そこでは貴族がいないような場所でしたので……」


 草薙はとっさに嘘の言い訳を話す。


「ふむ……。まぁよい。貴様の活躍は、私の耳にも届いている」

「あ、ありがとうございます」

「怪物化の解決のために尽力し、時には謎の暗殺者に襲われても撃退している。実力は相当なものではないかね?」

「しかし、自分はまだまだ未熟な冒険者です。今までの活躍は、パーティメンバーである皆がいてこその結果です。自分一人では到底成しえなかったことでしょう」

「そのように卑下するものでもない。冒険者は活躍してこそ、冒険者と言えるのだからな」


 そしてノーフォード公爵はマントを翻し、出口へと向かう。


「タケルよ、これからの貴様の活躍を期待しています」

「ありがとうございます……」


 ノーフォード公爵が出口から出ると、周囲の空気は安堵に包まれる。


 そしてジークから詰められる。


「なんで公爵閣下に認知されているんだ……!?」

「し、知らないですよぉ。こっちだって心臓バクバクしているんですから」

「やっぱり、アラドさんを叩きのめしたのが影響しているんですかねぇ……?」


 そんな話をするのだった。


━━


 ノーフォード公爵は、冒険者ギルド本部の前に停めてあった自分の馬車に乗り込み、場所を移動する。


「確かに強大な力を感じた……」


 懐から小さい水晶玉を取り出し、それを観察する。内部でひび割れが発生しているようだ。


「……壊れたか。やはり、ここで仕留めねば後に我々にとって大きな禍根を残すことになるだろう……」


 ノーフォード公爵の呟きは、誰にも聞こえなかった。

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