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第39話 三度来た

 翌日、草薙は王都の商店街通りに来ていた。


「せっかく王都に来たんだから、ここでしか買えない道具とか欲しいよなぁ」


 冒険者ギルドからの報酬で、草薙には資金がたっぷりとある。具体的には口座に千セイルはある。


 そのうちの数百セイルを持って、武器屋や道具屋を巡ろうと考えているのだ。早速とある道具専門店に入店する。


「いらっしゃい。何かお探しで?」

「はい。格闘戦を中心する冒険者の装備を探しています」

「なるほど。兄ちゃんがそうなのかい?」

「えぇ」

「普段は何を装備してるんだい?」

「革の鎧と足カバーぐらいですね……」

「素手で戦っているのか?」

「そうです」

「さすがに素手はマズい。せめてハンドプロテクターは付けないと」


 そういって店番のおっさんは、店頭に並んでいた装備のうちハンドプロテクターのある棚に移動する。


「兄ちゃんくらいなら、この辺の金属が入ったプロテクターがいいんじゃないか?」

「重くなりませんか?」

「逆に威力が上がって敵を倒しやすくなる。防御には革がいいが、攻撃には金属を使用したほうがいい」

「なるほど……」


 その他色々な話を聞き、試着もした結果、最終的に薄い金属を使用した小手のようなプロテクターを購入した。


「まいどありー」


 草薙は店頭でプロテクターを装備していく。


「確かに、普段使いするならこっちのほうがいいかも。とっさの戦闘にも対応できる……」


 街中を歩きながら、プロテクターの調子を確認する。


「しかし、これで二百二十セイルか……。それなりに高い買い物をしたもんだ」


 おおよそ十万程度といった所か。そう考えると、冒険者の道具は高級品とも言えるだろう。


 草薙はプロテクターの調子の確認に夢中になり、その後ろから来ている黒い影に気が付かなかった。


「さて、昼飯は何食おうかな……」


 そういって食料品が売ってある通りへと抜けるため、裏路地へと入った時だ。


「失礼」


 後ろから声がすると同時に嫌な気配がした。草薙は反射的に後ろを振り返りながら距離を取る。その瞬間、草薙の鼻先をナイフが通過した。


 そのまま草薙は黒い影から離れる。


「チッ、躱されたか」


 黒い影はかぶっていたローブを脱ぎ捨て、戦闘態勢に入る。目立たないようになのか、全身真っ黒だ。


(ローブも黒なのに、中も黒なのかよ……!)


 変な突っ込みを入れる草薙。すぐに戦闘態勢に入る。


「お前、俺を殺しにきた暗殺者か?」

「まぁ、そんな所だな」

「雇い主はいるのか?」

「なぜそれを言わないといけない? 雇い主の情報を漏らすわけないだろ」

「そりゃそうか。じゃあ、殺すね……」


 草薙がそういうと、暗殺者は高らかに笑う。


「俺を殺すだと? やれるもんならやってみろってんだ」

「やってやるよ。だが逆だ。俺を殺してみろ」


 互いに宣戦布告したような形になった。


 数秒ほどの静寂。先に動いたのは、もう一丁のナイフを取り出した暗殺者のほうだった。


「せぇい!」


 体を回転させ、二丁のナイフを連続で当てに行く。草薙はそれを左腕で受け流す。さっき購入したプロテクターが役に立った。


 そのまま草薙は接近してきた暗殺者に右ストレートを入れる。しかし暗殺者は右手のさらに下を通り、反対側の通りへと抜けていく。


「このままじゃ本当に殺される。ここで逃げさせてもらうぞ!」

「あ、待て!」


 暗殺者は露店のある通りへと抜けていく。草薙も急いで暗殺者のことを追いかけて通りに出る。


 一瞬、暗殺者の姿を見失いそうになったが、なんとなくの気配で左に逃げたような気がした。そちらの方を見ると、先ほど見た黒い姿が見受けられるだろう。


(この距離を追いかけるのは難しい……!)


 暗殺者の影を追いかけるため、全力で走る。身体強化スキルが働いているはずだが、それでも簡単には追いつかない。


 その時、草薙は街並みを見てあることを思いつく。


(やってみる価値はあるか……!)


 そういって草薙は地面を強く蹴る。


「短地!」


 草薙はスキルを使用し、通り沿いの建物の壁に瞬間移動する。


「短地ッ!」


 さらにすかさず短地スキルを使用し、反対側にある建物の壁へと再び瞬間移動した。


「短地ッ! 短地ッ! 短地ッ!」


 瞬間移動を繰り返し、人々の上を飛び回る。やがて暗殺者の真上までやってくるだろう。


「捉えた!」


 短地で進む方向を下向きに変化させ、暗殺者の目の前に飛び降りる。


「ぐげっ!」


 暗殺者は急停止しようとする。しかしそれを草薙は許さなかった。


「吹き飛べっ!」


 草薙は暗殺者との距離を詰め、右の拳を暗殺者の腹部にぶち込む。暗殺者の体は吹っ飛び、周辺の建物の上まで上がる。


 草薙はそこへ短地を使って宙を飛び、再び暗殺者の目の前に現れる。


「トドメだっ!」


 両手を組み、頭上から振り下ろす。それは暗殺者の脳天に命中し、そのまま地面へと撃墜される。


 通りのタイルを割るほどの勢いで地面にぶつかり、暗殺者は全身を複雑骨折したかのような状態になる。


 草薙は建物の上に降り立ち、暗殺者の状態を確認する。暗殺者の周りでは人々が悲鳴を上げ、その場から逃げようとしたり、憲兵を呼んでいたりと様々である。


「そうだ、暗殺を依頼している人間が分かるかもしれない」


 そういって草薙は通りに降り立ち、暗殺者の元に駆け寄る。服装を漁り、何かめぼしい情報がないかを探す。


 すると、一枚の紙がヒラリと懐から出てきた。そこに書かれていたのは、「暗殺対象」の文字と、暗殺対象である草薙の名前と風貌、そして金額であった。


「これは……」


 その時、憲兵がやってきた。


「君、何をしている!?」


 憲兵に尋ねられ、草薙は身分証である冒険者カードを取り出しながら憲兵の方を振り返る。


「自分は冒険者をやっています。今しがたこの男に暗殺されそうになっていたので、正当防衛を行使したまでです」


 憲兵は冒険者カードを手に取り、身分を確認する。


「……それで、暗殺だと言える証拠は?」

「この紙です。暗殺対象である自分の名前と見た目が書かれています」


 憲兵は紙を見て、少々面倒そうな表情をする。


「なるほどね。後はこっちで引き継ごう。また後で話を聞きに行くから」


 そういって憲兵が周辺の整理と現場検証を始める。草薙は思い出せる範囲で捜査に協力するのだった。

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