兵士の声で寝ぼけながら起き上がった草薙は、ミゲルによって完全に叩き起こされる。
「魔物のスタンピードが発生した! もしかしたら怪物化現象によるものかもしれない! すぐに北門に行くぞ!」
「マジかよ……!」
それを聞いた草薙の眠気は吹っ飛び、すぐに装備を整える。装備するものが少ない草薙が先に準備を整え、ナターシャたちがいる部屋へと走る。
「ナターシャさん! ミーナさん! アリシアさん! 起きてますか!?」
「うーん……。なんですかぁ……?」
出てきたのはミーナだった。
「魔物によるスタンピードが発生したようです! すぐに準備してください!」
「えっ、スタンピード? 分かりましたぁ」
そういってミーナはフラフラとしながらナターシャたちを起こしに戻る。
「あんなんで大丈夫かな……?」
ちょっとだけ不安になる草薙であった。
二十分後、全員が集合した所で、草薙たちは北門へと走る。
「しかし、ナターシャお嬢様は無理についてこなくてもよかったのではないですか?」
マシューがナターシャに聞く。
「今回のスタンピードも。怪物化による現象かもしれないのでしょう? なら自分の目で確かめないと」
「……そうですか」
そのままマシューは引き下がる。おそらく、カルナス子爵御令嬢を危険に曝すわけにはいかないが、本人がそれを承知で覚悟しているのを察したのだろう。
走っているうちに、王都の北門へと到着する。ここは城下町の一番外側に位置する城壁の門であり、王都防衛の際には最前線となる場所である。
城壁を登り、状況を確認する草薙たち。
「すみません! 『ヘイムダルの剣』です! 現状は!?」
「おぉ、よく来てくれた。まだスタンピードの本隊は接近してきてはいないが、狂暴なゴブリンを数十体ほど倒したところだ。どのゴブリンも怪物化した痕跡が確認された」
「となると、このスタンピードはやはり……」
「あぁ。怪物化現象によるものと推測される」
その時、近くにある城壁の見張り台から大声で報告がなされる。
「敵の本隊と思われる集団確認! 敵が多すぎて草原が見えない! 敵が七分に草が三分! 敵七分に草三分!」
「こりゃ負け戦だな……」
見張りの報告を聞いた兵士の一人が、絶望した表情で言う。その様子を見た草薙は、思わず拳を握りしめる。
(俺は俺を殺してもらうために戦っている。それは結果として人々を救っているからだ。だから、ここでも負けていられない)
草薙は険しい表情をする。そんな草薙に対して、ミゲルが肩を叩く。
「そんなに緊張しなくていい。僕たちは『ヘイムダルの剣』だ。今までの戦いで負けたことがあるか?」
「……いいえ」
「なら今回も大丈夫だ。きっと何とかなる」
そういってミゲルは、ここの隊長に声をかける。
「最前線は僕たちに任せてください。皆さんは後方から援護をお願いします」
「いやしかし、この数を君たちだけで何とかするなんて……」
「大丈夫です。なんたって僕たちは、AAA級冒険者パーティですから!」
ミゲルは振り返り、草薙たちのことを見る。草薙たちは覚悟を決めて頷いた。
「それじゃあ行こう。ナターシャさんは、マシューさんたちとここで待機と情報収集、分析をお願いします」
「分かっていますわ」
そしてナターシャ、マシュー、アニスを置いて、草薙たちは北門の外へと出る。
改めて敵の様子を見る。
「狂暴化したゴブリンにヒポグリフ、トロールにトレントまでいやがる……。こりゃモンスターの博覧会だな」
ジークが目を凝らして敵の様子を確認する。
「先頭にいるあの銀色の魔物、アイアンゴブリンじゃないですか!?」
アリシアが心底嫌な声を上げる。
「面倒なことになりそうだけど、やるしかないな」
そういってミゲルは剣を抜く。草薙もファイティングポーズを取って、臨戦態勢へと入る。
「それでは『ヘイムダルの剣』、出陣する!」
そういってミゲルは前進した。
「俺を、殺してみろ」
草薙も決まり文句を決め、全力で駆ける。
先に攻撃を仕掛けたのはミゲルだった。
「流れ斬り!」
ミゲルがスキルを発動する。一見すれば、すれ違いざまに剣を振るっているように見えるが、その一撃に複数の斬撃が含まれている。それを流れるように、複数の魔物に対して複数回の斬撃を加えている。
ジークは近距離戦闘を控え、中距離からダガーナイフの雨を降らせている。
そんな中草薙は、放出魔法スキルを使ってモンスターの体に風穴を開けていた。
「オラオラオラオラ!」
拳に魔力のドリルを装備し、それをモンスターに向けて殴る。そうすることによって、モンスターの肉体に穴が開くと言うわけである。
しかし、調子に乗って前進し続けてしまい、草薙はモンスターに囲まれてしまう。
「えぇい! 短地!」
短地スキルを連続使用し、モンスターからモンスターに飛び移る。飛び移った際に魔力ドリルをぶつけ反動を殺し、再度モンスターを蹴って短地を使用する。そうすることによって、地面に足をつけないで空中を歩行するように移動していく。
草薙はなんとか後方に待機していたミーナたちのほうに戻る。
「ミーナさん、アリシアさん。以前やったアレをやります!」
「アレですね?」
「分かったのです」
そういって、アリシアは水を魔法で呼び出し、それをミーナが拡張魔法で巨大化させる。その水を草薙が放出魔法スキルで確保し、制御下に置いた。
「せーのっ!」
それを分散させ、小さな鋭い矛へと変化させる。そしてそのまま、矛の雨を降らせる。
「おい! それ俺のスキルに似てるじゃねぇか!」
向こうのほうからジークが抗議する。
(王都の防衛しなきゃならんのに、そんなの知ったこっちゃないわ)
とにかく王都を防衛しなければならない。まだスタンピードは始まったばかりなのだから。