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第41話 スタンピードが来た

 兵士の声で寝ぼけながら起き上がった草薙は、ミゲルによって完全に叩き起こされる。


「魔物のスタンピードが発生した! もしかしたら怪物化現象によるものかもしれない! すぐに北門に行くぞ!」

「マジかよ……!」


 それを聞いた草薙の眠気は吹っ飛び、すぐに装備を整える。装備するものが少ない草薙が先に準備を整え、ナターシャたちがいる部屋へと走る。


「ナターシャさん! ミーナさん! アリシアさん! 起きてますか!?」

「うーん……。なんですかぁ……?」


 出てきたのはミーナだった。


「魔物によるスタンピードが発生したようです! すぐに準備してください!」

「えっ、スタンピード? 分かりましたぁ」


 そういってミーナはフラフラとしながらナターシャたちを起こしに戻る。


「あんなんで大丈夫かな……?」


 ちょっとだけ不安になる草薙であった。


 二十分後、全員が集合した所で、草薙たちは北門へと走る。


「しかし、ナターシャお嬢様は無理についてこなくてもよかったのではないですか?」


 マシューがナターシャに聞く。


「今回のスタンピードも。怪物化による現象かもしれないのでしょう? なら自分の目で確かめないと」

「……そうですか」


 そのままマシューは引き下がる。おそらく、カルナス子爵御令嬢を危険に曝すわけにはいかないが、本人がそれを承知で覚悟しているのを察したのだろう。


 走っているうちに、王都の北門へと到着する。ここは城下町の一番外側に位置する城壁の門であり、王都防衛の際には最前線となる場所である。


 城壁を登り、状況を確認する草薙たち。


「すみません! 『ヘイムダルの剣』です! 現状は!?」

「おぉ、よく来てくれた。まだスタンピードの本隊は接近してきてはいないが、狂暴なゴブリンを数十体ほど倒したところだ。どのゴブリンも怪物化した痕跡が確認された」

「となると、このスタンピードはやはり……」

「あぁ。怪物化現象によるものと推測される」


 その時、近くにある城壁の見張り台から大声で報告がなされる。


「敵の本隊と思われる集団確認! 敵が多すぎて草原が見えない! 敵が七分に草が三分! 敵七分に草三分!」

「こりゃ負け戦だな……」


 見張りの報告を聞いた兵士の一人が、絶望した表情で言う。その様子を見た草薙は、思わず拳を握りしめる。


(俺は俺を殺してもらうために戦っている。それは結果として人々を救っているからだ。だから、ここでも負けていられない)


 草薙は険しい表情をする。そんな草薙に対して、ミゲルが肩を叩く。


「そんなに緊張しなくていい。僕たちは『ヘイムダルの剣』だ。今までの戦いで負けたことがあるか?」

「……いいえ」

「なら今回も大丈夫だ。きっと何とかなる」


 そういってミゲルは、ここの隊長に声をかける。


「最前線は僕たちに任せてください。皆さんは後方から援護をお願いします」

「いやしかし、この数を君たちだけで何とかするなんて……」

「大丈夫です。なんたって僕たちは、AAA級冒険者パーティですから!」


 ミゲルは振り返り、草薙たちのことを見る。草薙たちは覚悟を決めて頷いた。


「それじゃあ行こう。ナターシャさんは、マシューさんたちとここで待機と情報収集、分析をお願いします」

「分かっていますわ」


 そしてナターシャ、マシュー、アニスを置いて、草薙たちは北門の外へと出る。


 改めて敵の様子を見る。


「狂暴化したゴブリンにヒポグリフ、トロールにトレントまでいやがる……。こりゃモンスターの博覧会だな」


 ジークが目を凝らして敵の様子を確認する。


「先頭にいるあの銀色の魔物、アイアンゴブリンじゃないですか!?」


 アリシアが心底嫌な声を上げる。


「面倒なことになりそうだけど、やるしかないな」


 そういってミゲルは剣を抜く。草薙もファイティングポーズを取って、臨戦態勢へと入る。


「それでは『ヘイムダルの剣』、出陣する!」


 そういってミゲルは前進した。


「俺を、殺してみろ」


 草薙も決まり文句を決め、全力で駆ける。


 先に攻撃を仕掛けたのはミゲルだった。


「流れ斬り!」


 ミゲルがスキルを発動する。一見すれば、すれ違いざまに剣を振るっているように見えるが、その一撃に複数の斬撃が含まれている。それを流れるように、複数の魔物に対して複数回の斬撃を加えている。


 ジークは近距離戦闘を控え、中距離からダガーナイフの雨を降らせている。


 そんな中草薙は、放出魔法スキルを使ってモンスターの体に風穴を開けていた。


「オラオラオラオラ!」


 拳に魔力のドリルを装備し、それをモンスターに向けて殴る。そうすることによって、モンスターの肉体に穴が開くと言うわけである。


 しかし、調子に乗って前進し続けてしまい、草薙はモンスターに囲まれてしまう。


「えぇい! 短地!」


 短地スキルを連続使用し、モンスターからモンスターに飛び移る。飛び移った際に魔力ドリルをぶつけ反動を殺し、再度モンスターを蹴って短地を使用する。そうすることによって、地面に足をつけないで空中を歩行するように移動していく。


 草薙はなんとか後方に待機していたミーナたちのほうに戻る。


「ミーナさん、アリシアさん。以前やったアレをやります!」

「アレですね?」

「分かったのです」


 そういって、アリシアは水を魔法で呼び出し、それをミーナが拡張魔法で巨大化させる。その水を草薙が放出魔法スキルで確保し、制御下に置いた。


「せーのっ!」


 それを分散させ、小さな鋭い矛へと変化させる。そしてそのまま、矛の雨を降らせる。


「おい! それ俺のスキルに似てるじゃねぇか!」


 向こうのほうからジークが抗議する。


(王都の防衛しなきゃならんのに、そんなの知ったこっちゃないわ)


 とにかく王都を防衛しなければならない。まだスタンピードは始まったばかりなのだから。

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