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第42話 乗り切った

 スタンピードの対応を初めて一時間ほど経過しただろうか。魔物の数は順調に数を減らしていた。だが総数はまだまだいる。この調子では、ジリ貧でギリギリ押し負けるだろう。


「うぉぉぉ! アクア、ドリルゥ、デストローイ!」


 ミーナとアリシアとの合体技で、周辺のモンスターを一掃する草薙。だがこれでも倒せるのは十数体程度である。


「クソッ、こうなったら……」


 ミゲルが決心したように北門の方に下がる。


「ジーク! タケル! 今から『巨人の光の剣』を使う! 援護してくれ!」

「りょーかい!」

「はい!」


 ジークはダガーナイフの雨を、ミゲルを守るように降らせる。草薙もミゲルの防衛を中心に、積極的に攻勢に出る。


『今来たるは、幾万の命。彼らに捧げたるは、幾億の命……』


 ミゲルの詠唱が始まった。


 ジークは自分のスキルで生成した魔力のダガーナイフを、地面スレスレまで下ろして投射する。ミゲルへと接近するモンスターを牽制するためだ。


 その一方で草薙は、遊撃手としてジークの攻撃が届かない広い範囲を攻撃していた。


「短地短地短地ッ!」


 連続で短地を発動し、身体強化した拳と放出魔法スキルで次々と魔物を葬り去る。


『キンター・カゲスト!』


 アリシアは主に、ジークのスキルを強化するためにスキルを使用していた。


『……その偉大なる力を解放し、我と共に歩め。それが貴殿の果たす役目であり、あらゆる人々に安寧をもたらすことになる』

「詠唱はもう少しだ! もう少し持ちこたえろ!」


 ジークの掛け声で、草薙は体に鞭打って動き続ける。


「うらぁっ!」


 草薙は短地で加速したエネルギーを、蹴りの威力に変換してモンスターに食らわせる。その様子は、まるで某特撮ドラマで使われる必殺蹴りのようだ。


 短地を連続使用して、ミゲルに近づくモンスターを一掃する草薙。それでも倒し漏れたヤツはいる。それをジークがカバーする形だ。


『……やがては朽ちていく世界を見つめよ。あらん限りの力を我に授け、今解放せん!』


 ミゲルの剣が光り輝き、巨大な光の剣身が現れる。それを地面と水平になるように、体の横へと持ってくる。


「伏せろ!」


 ジークが叫び、草薙は地面に伏せる。


『ディフェンディアー!』


 その掛け声と共に、草薙の頭上を光の剣が通り過ぎていく。光の剣はモンスターのほとんどを上下に分断した。ついでに近くにあった木々も、真っ二つに斬られる。


 これによりスタンピード中のモンスターはほぼ撃退した。怪物化状態だったモンスターであるにも関わらず、ミゲルの剣は問題なく通用したのだ。


「……これで終わりか?」

「そうみたいだな」


 ミゲルの言葉に、ジークが返す。そこに草薙も加わる。


「危うくスライスになるところでしたよ……」

「すまないな、タケル。こういう形で使うのは初めてだったから」


 そんな話をしていると、大量の肉隗の中から怪物化した小さなゴブリンどもが現れる。


「まだ倒していない魔物がいるみたいだな」


 ミゲルの言葉に、ジークと草薙は臨戦態勢に入った。そこにミーナとアリシアも来る。


「皆、大丈夫なのです……って、キモいのがいるのです!」


 アリシアが肉隗の中から出てきたゴブリンどもを見て、ガチ目の悲鳴を上げる。


「アリシア、ミーナさん。後でこの一帯を水魔法と白魔術で綺麗にしてください」


 ミゲルがそのように伝え、草薙たちは一斉に残っていたモンスターどもに攻撃を仕掛ける。


 昼間くらいには、ほぼ全てのモンスターを倒すことに成功した。


「あぁ、疲れた……。もう体力がヤバい……」


 ジークが地面に横になって言う。草薙も手を膝にやっており、だいぶ疲れているようだ。


 そんな時、大陸軍の兵士がこちらに走ってくる。


「大変です! 王都の西にある宿場町に魔物の群れが押し寄せているとのことです! おそらくスタンピード中に分断した別の群れかと思われます!」

「マジかよ、こんな時に……」

「その宿場町まではそんなに離れていないはずだ。すぐに向かうぞ」


 ミゲルの判断により、草薙たちは急遽移動することになった。


━━


 王都から西に向かって馬車で半日ほどの場所にある宿場町。ここにはかつて、小さな公国があった。二百年も前の話だ。その面影があってか、町には立派な城壁が建てられており、王都同様に単独で籠城戦ができるように設計されていた。


 そんな町だが、今まさに籠城戦が行われている。王都に向かったスタンピードの一部がこちらにやってきたのだ。


 町の人々は自分ができる限りのことをしている。ある者はモンスターに対抗できる農具を用意し、ある者は大量の水の確保をする。男たちは駐屯していた大陸軍の兵士と共に戦いに行き、女子供は町の中心部で固まっていた。


「お母さん、私たち魔物にやられちゃうの?」

「大丈夫よ、お父さんたちがやっつけてくれるはずだから」


 そういって女性は子供のことを強く抱きしめる。


 しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。すでに兵士のほとんどが負傷し、門は今にも破られそうになっている。


 すでに攻撃の手段は潰え、城壁の上から魔物を眺めるしか出来ない男性は嘆いた。


「だ、誰か、助けてくれ……」


 そして門は破られた。町の中にモンスターが一斉になだれ込む。


 町の中心部にいた人々に襲い掛かる。


「イヤーッ!」


 その時だった。


「螺旋流ドリル吹雪!」


 モンスターの群れに魔力で出来たドリルが降り乱る。町に入ったモンスターは一掃された。


 町に残った女子供の前に立ったのは、草薙であった。


「間に合った……」


 町の外では、ジークとミゲルがモンスターの対処に当たっている。


 草薙の元にミーナが来た。


「城壁近くの人たちの治療は終わりました。こっちの方は大丈夫でした?」

「自分も今来たので分からないですね。今から確認しちゃいましょう」


 そういって草薙は、近くにいた女性と子供に話しかける。


「大丈夫ですか?」

「えぇ、はい……。大丈夫です」

「お兄ちゃん、私たちのこと守ってくれてありがと」

「お、あ、うん……」


 感謝されることに慣れていない草薙は、思わず照れてしまう。


 こうして、王都周辺で発生したスタンピードを無事に乗り切ることが出来たのだった。

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